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第2章 生贄の月下美人
第7話 ジゼルの料理
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「ほんっ、とうにお前はいつも無茶ばっかりするよなっ!!オレはいつもハラハラさせられっぱなしでたまったもんじゃねぇんだからなっ!?」
ここは37ブロック、”海鳴り声”にある下町の食事処、”海鮮!うまっうまっ”だ。そこで俺は今、絶賛お説教をくらっている最中だ…
こいつは俺の親友の”霧原”ジン。17歳。短髪茶髪が特徴で、まつ毛が長く凛々しい顔立ち。身長は多分160㎝もない。小柄だが器が大きく良い奴…だけど、ちょっと声が大きいのが難点だ。
俺とアリスの下敷きになって助けてくれたジンに頭が上がる筈もなく、俺はずっと「はいとすいません」のオンパレードを続けている。
ジンとは長い付き合いで、今回の門越えを助けてくれたんだが…まぁ、それまでの詳しい話はまた今度する事にする。
俺が謝り続けているとジゼルがジンに尋ねた。
「お二人はお友だちなんですか?」
声を掛けられたジンはぱあっ!と子どもの様な笑顔を見せ、自己紹介しだした。
「オレはソーマの親友の霧原ジンだ!見た目小柄で頼りねぇかもしれねぇけど大男にだって負けねぇから頼ってくれよなっ!!」
にかっ!と笑うジンを見て、裏表のない性格なのだろうとジゼルは感じた。
「助けて下さってありがとう御座います」
門超えを手伝ってくれた事に対しジゼルはお礼を言った。
「良いってことよ!オレたちの力を持ってすればあれくらいどーって事ないからさ!」
「助けてくれたのはマナだけどな」
ボソ…と呟いたソーマに対しジンは顔を真っ赤にする。よくよく考えてみればオレ何か手伝ったっけ?……やべぇ、思い当たる節がねぇ。やべぇ。
「わ、分かってるって!ちゃんとオレたちって言ったじゃねぇか!」
苦し紛れに出た言葉はそれのみだった。
ジンの隣に座っていたマナと呼ばれた少女はジンの肩をぽん…と優しく叩いた。
「マナ…」
お前は優しいなぁとジンが口を開こうとした時だった。
「ジン………何もしてない」
グサアアアッ!言葉の槍がジンに突き刺さり、ジンは思わず「うぐっ…」と声を漏らした。
「……」
マナが口を開かなくなると、ジンはあぁ、と察してマナを紹介する。
「こいつは”美月マナ”。オレの従妹だ!ちょっと会話するのが苦手なんだ!でも悪い奴じゃないからさ!仲良くしてやってくれ!」
ぺこ…と頭をマナは下げる。
身長はジンと同じくらいだが、とにかく目のやり場に困るくらい胸の発育が凄い。何ソレ小玉スイカ入れてんの?って聞きたくなるレベルだ。
マナを見て、アリスは自分の胸と見比べ、「…………」勝手に1人で落ち込んでしまう。
ソーマもあぁいうのが好きなのかなぁ…?とソーマの顔を見つめる。
…いつからだろう。ソーマによく分からない感情を寄せる様になったのは。
私はソーマとどういう関係でありたいんだろう。
あっ、ソーマが気づいた。不思議そうな顔してる、何か俺に言いたい事があるのか?って顔かな。
取り敢えず笑顔で返しとこう。
ぬっ…とジンがソーマとアリスの視線の間に割り込んだ。
「もしかして2人は…ぐふおっ!」
その言葉を遮ったのはマナだ。テーブルの一部が盛り上がり、小さな階段が形成され、ジンの顎に勢いよくヒットしていた。
マナは冷たく言い放つ。
「デリカシー………なさすぎ…」
「その能力…やっぱり貴女があの階段を?」
アリスがマナに問いかけた。
「………」
こくっ、と静かにマナは頷いた。
「私……羽根無し………魔導師とも…言われてる…」
あぁ、そっか、放浪の民での暮らしが長く、忘れかけていた。羽根持ちでなくても能力を使える人間は沢山いるんだった。いや、むしろ能力の使えない見捨て子の方が少ないんだっけ。
「マナの能力は物質凸能力だ!」
マナから受けた打撃から復帰したジンがマナに代わって説明してくれた。この子元気だなぁ。
「物質凸能力?」
アリスとジゼルは首をかしげる。能力名だけじゃちょっと分かりにくい。
「マナの能力の届く範囲内の物質を持ち上げる能力って言えば分かるか?」
その能力を聞いてアリスはピーン!ときた。
「だからあの時門に階段をかける事が出来たのね!凄い!マナちゃん!」
アリスに褒められマナは静かに俯き顔を赤くする。
「でも、どうして階段の形が多いのです?門越えの時の件は分かるのですが、さっきジン君を殴る時も階段でした。物質を持ち上げる能力なら指定した範囲だけを持ち上げて思いっきり殴った方が効果的だったかと思うのですが…」
「ちょっ、ジゼルさんっ!?」
真顔で話すジゼルに対しジンは震える。
「……物質を形成する…面積に…よって……凸れる高さが…変わるの……だから………」
マナが右手をそっとテーブルの上に置く。そして能力を発動する。
ガシャァ!
そこに出来上がったのはテーブルの一部がたった3センチ程の高さに盛り上がった姿だった。
それを見てジゼルは理解する。
あぁ、なるほど、狭い面積では少ししか凸る事が出来ない。だから凸った面積をさらに凸らせて高くする。
門越えの時は形成する面積が地面で広かったから立派な階段を作り上げる事が出来たのですね……
「お待たせ兄ちゃんたち!ご注文の炙りアグールのミーツ巻だよっ!」
注文していた料理がきた。アグールと言うのは70㎝近くはある大きな白身魚だ。この37ブロック、海鳴り声ではよく食べられているらしい。そしてミーツは大きな葉をした香草だとジンが教えてくれた。
料理をジゼルがみんなの分取り分けてくれる。流石アリス専属の元プロ執事。凄く綺麗に取り分けている。
「この国ってさ」
俺はジンにずっと聞きたい事があった。それを今尋ねる。
「ぐるっと一周壁に囲まれてるよな?」
この夢見の王国は20メートル近くはあろう壁にぐるっと一周囲まれている。しかもその壁は如何なる能力も受け付けず、羽根の力でさえも無効にする不思議な力が働いている。それ故、この国の人たちは国の外へ出た事がなく、古い書物などででしか、外の世界を知らないでいた。
「それなのにこのブロックは海まであるし、魚もいる。…なんで?」
「あーそれな!そりゃあ、この夢見の王国はオレたちのいる星、イデアの面積半分を占めてるんだぜ?海だって王国内にあるし、魚や動物だって沢山いるさ!」
ずっと、放浪の民にいたソーマにとってそれは新しい情報だった。俺たちのいる星の名前がイデアって言うのは知っていた。でも、まさか、王国がその半分の面積も占めているとは知らなかった…
「皆さん、取り分け終わりましたよ。いただきましょう」
「おぉー!うまそー!!」
腹を空かしていた俺たちはバグっ!と料理を口に運んだ。
「んめぇー!」
「……おいしい」
ジンとマナは美味いと言った。だが、俺たちは…
「不味い…」
思わず口に出てしまった。その言葉を聞いた店主がガシャーン!と持っていた皿を落とし。割ってしまった…
「…へ?ま、不味いって……本気で言ってんのか?」
困惑した様子でジンが俺に聞いてくる。俺が料理の不味さを我慢していると続いてアリスが。
「……うっ」
と声を漏らした。
マナが呆然と俺とアリスを眺めている。ジゼルは「…ふむ」と何か考え込んでいる。
え……どうしてこんなに不味く感じるんだろう?こんなにも見た目は美味しそうだし、匂いだって旨そうな匂いなのに……それにここは39ブロック以上だ。46ブロックに住んでいた頃よりもまともな物が食べられている筈なのに……。放浪の民にいた頃、俺たち何食ってたっけ……?
「あっ」
それを考えて俺は気づいた。アリスも気が付いた様子で俺と顔を合わせた後、ジゼルを見る。
原因はジゼルだった。よくよく、考えてみれば放浪の民に住んでた頃、一度も食べ物に関して欲求が満たされなかったことは無かった。
いつも満足していた。
それはジゼルの料理が凄く美味しかったから。
極々当然の事のように今までジゼルの料理を食べてきたが、やっぱりジゼルの料理は凄く美味いのか!と実感させられた瞬間だった。
ジゼルが急に立ち上がり、不味いと言われ、ショックで立ち直れず、割れた皿も片付ける気力のない店主の元へ。
「厨房、少々お借りしても宜しいでしょうか?」
「好きにしな………はぁ……」
「感謝します」
ジゼルは厨房へと入っていった。
*
「な、な、何だこれは!!?スゲェうめぇーーー!!」
ジンが叫んでいる。
「……!!!」
マナは一心不乱に料理を食べ続けている。
ジンとマナが口にしているもの。それはジゼルの手料理だった。
当然でしょう?と何故かアリスがフフン!と得意げな表情をしている。
俺も口の中へとジゼルの料理を運んだ。
うん。
この味、この香り、この繊細さ。
美味い。
「ふあっ!!何じゃこれはああああ!」
店主も料理の美味しさに驚愕し、床をゴロゴロと転がり始めた。
「ご主人」
ジゼルがゴロゴロとのたうち回る店主を落ち着かせ、1枚の紙を渡す。
「アグールを炙る時には先にミーツを巻いた後で強火でサッとフライパンで熱し、その後でミーツを一旦剥がしてバーナーで焦らずじっくりと炙って…それから…」
店主は真剣にジゼルの話を最後まで聞いた。
「そのレシピ差し上げますのでご参考までにどうぞ」
「マジか!ありがとよイケメンの兄ちゃん!!」
「いえ、こちらこそ差し出がましい真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」
ジゼルは会釈し、ソーマたちの元へと戻った。戻ると同時にジンが大声でジゼルを褒め倒した。
「ジゼルってスゲェんだな!美味すぎだぜこれ!今まで食ってきた中で1番うめぇよ!」
隣でマナもこくっ!こくっ!!と何度も頷く。
「当然よ!私の櫻木の料理が美味しくない訳ないでしょう!」
あー、また始まった。とソーマは思う。アリスはいつもジゼルが褒められると何故か自分が得意げになり、ひたすらジゼルの自慢話をする癖があるんだ…。俺の耳はタコが出来るくらいその自慢話を聞いている。
けれど、ジンは。
「あぁ!本当だな!スゲェな!アリスのジゼルは!」
何の不満も感じず、笑顔で話を続ける。
流石だな、とソーマは柔らかい顔をした。
あの一片の曇りもない言葉と表情が、自己嫌悪でいつも自分自身を押し潰してしまいそうになっていた俺を何度も救い上げてくれた事をジンは知らない。
まぁ、恥ずかしいから今後先本人に話す事はないと思うけど。
「そーいやさ!今更だけど、お前たち服装も身体もボロボロで汚れてんなぁー!」
「あっ、替えの服は持ってるんだ。着替える暇がなかったからさ」
「そっか!んじゃ取り敢えず身体を綺麗にしないとな!飯食ったら風呂屋行こうぜ!!」
風呂か…ずっと水浴びだったからな、楽しみだ。
放浪の民では味わうことの出来なかったこの楽しい空間に酔いしれながら、ソーマはアグールの身と付け合わせの野菜を一緒に口に運んだ。
第7話 ジゼルの料理 ~end~
次回予告。
風呂屋で起こる男、女のイベントといえばやはりアレしかない!!
「きっ……きゃああああ!!見るなあああああ!」
「ち、違うんだ!!見るつもりじゃ…ぐふおっ!」
みたいな展開が待ってる…?はず??
次回 第8話 風呂屋にて。
ここは37ブロック、”海鳴り声”にある下町の食事処、”海鮮!うまっうまっ”だ。そこで俺は今、絶賛お説教をくらっている最中だ…
こいつは俺の親友の”霧原”ジン。17歳。短髪茶髪が特徴で、まつ毛が長く凛々しい顔立ち。身長は多分160㎝もない。小柄だが器が大きく良い奴…だけど、ちょっと声が大きいのが難点だ。
俺とアリスの下敷きになって助けてくれたジンに頭が上がる筈もなく、俺はずっと「はいとすいません」のオンパレードを続けている。
ジンとは長い付き合いで、今回の門越えを助けてくれたんだが…まぁ、それまでの詳しい話はまた今度する事にする。
俺が謝り続けているとジゼルがジンに尋ねた。
「お二人はお友だちなんですか?」
声を掛けられたジンはぱあっ!と子どもの様な笑顔を見せ、自己紹介しだした。
「オレはソーマの親友の霧原ジンだ!見た目小柄で頼りねぇかもしれねぇけど大男にだって負けねぇから頼ってくれよなっ!!」
にかっ!と笑うジンを見て、裏表のない性格なのだろうとジゼルは感じた。
「助けて下さってありがとう御座います」
門超えを手伝ってくれた事に対しジゼルはお礼を言った。
「良いってことよ!オレたちの力を持ってすればあれくらいどーって事ないからさ!」
「助けてくれたのはマナだけどな」
ボソ…と呟いたソーマに対しジンは顔を真っ赤にする。よくよく考えてみればオレ何か手伝ったっけ?……やべぇ、思い当たる節がねぇ。やべぇ。
「わ、分かってるって!ちゃんとオレたちって言ったじゃねぇか!」
苦し紛れに出た言葉はそれのみだった。
ジンの隣に座っていたマナと呼ばれた少女はジンの肩をぽん…と優しく叩いた。
「マナ…」
お前は優しいなぁとジンが口を開こうとした時だった。
「ジン………何もしてない」
グサアアアッ!言葉の槍がジンに突き刺さり、ジンは思わず「うぐっ…」と声を漏らした。
「……」
マナが口を開かなくなると、ジンはあぁ、と察してマナを紹介する。
「こいつは”美月マナ”。オレの従妹だ!ちょっと会話するのが苦手なんだ!でも悪い奴じゃないからさ!仲良くしてやってくれ!」
ぺこ…と頭をマナは下げる。
身長はジンと同じくらいだが、とにかく目のやり場に困るくらい胸の発育が凄い。何ソレ小玉スイカ入れてんの?って聞きたくなるレベルだ。
マナを見て、アリスは自分の胸と見比べ、「…………」勝手に1人で落ち込んでしまう。
ソーマもあぁいうのが好きなのかなぁ…?とソーマの顔を見つめる。
…いつからだろう。ソーマによく分からない感情を寄せる様になったのは。
私はソーマとどういう関係でありたいんだろう。
あっ、ソーマが気づいた。不思議そうな顔してる、何か俺に言いたい事があるのか?って顔かな。
取り敢えず笑顔で返しとこう。
ぬっ…とジンがソーマとアリスの視線の間に割り込んだ。
「もしかして2人は…ぐふおっ!」
その言葉を遮ったのはマナだ。テーブルの一部が盛り上がり、小さな階段が形成され、ジンの顎に勢いよくヒットしていた。
マナは冷たく言い放つ。
「デリカシー………なさすぎ…」
「その能力…やっぱり貴女があの階段を?」
アリスがマナに問いかけた。
「………」
こくっ、と静かにマナは頷いた。
「私……羽根無し………魔導師とも…言われてる…」
あぁ、そっか、放浪の民での暮らしが長く、忘れかけていた。羽根持ちでなくても能力を使える人間は沢山いるんだった。いや、むしろ能力の使えない見捨て子の方が少ないんだっけ。
「マナの能力は物質凸能力だ!」
マナから受けた打撃から復帰したジンがマナに代わって説明してくれた。この子元気だなぁ。
「物質凸能力?」
アリスとジゼルは首をかしげる。能力名だけじゃちょっと分かりにくい。
「マナの能力の届く範囲内の物質を持ち上げる能力って言えば分かるか?」
その能力を聞いてアリスはピーン!ときた。
「だからあの時門に階段をかける事が出来たのね!凄い!マナちゃん!」
アリスに褒められマナは静かに俯き顔を赤くする。
「でも、どうして階段の形が多いのです?門越えの時の件は分かるのですが、さっきジン君を殴る時も階段でした。物質を持ち上げる能力なら指定した範囲だけを持ち上げて思いっきり殴った方が効果的だったかと思うのですが…」
「ちょっ、ジゼルさんっ!?」
真顔で話すジゼルに対しジンは震える。
「……物質を形成する…面積に…よって……凸れる高さが…変わるの……だから………」
マナが右手をそっとテーブルの上に置く。そして能力を発動する。
ガシャァ!
そこに出来上がったのはテーブルの一部がたった3センチ程の高さに盛り上がった姿だった。
それを見てジゼルは理解する。
あぁ、なるほど、狭い面積では少ししか凸る事が出来ない。だから凸った面積をさらに凸らせて高くする。
門越えの時は形成する面積が地面で広かったから立派な階段を作り上げる事が出来たのですね……
「お待たせ兄ちゃんたち!ご注文の炙りアグールのミーツ巻だよっ!」
注文していた料理がきた。アグールと言うのは70㎝近くはある大きな白身魚だ。この37ブロック、海鳴り声ではよく食べられているらしい。そしてミーツは大きな葉をした香草だとジンが教えてくれた。
料理をジゼルがみんなの分取り分けてくれる。流石アリス専属の元プロ執事。凄く綺麗に取り分けている。
「この国ってさ」
俺はジンにずっと聞きたい事があった。それを今尋ねる。
「ぐるっと一周壁に囲まれてるよな?」
この夢見の王国は20メートル近くはあろう壁にぐるっと一周囲まれている。しかもその壁は如何なる能力も受け付けず、羽根の力でさえも無効にする不思議な力が働いている。それ故、この国の人たちは国の外へ出た事がなく、古い書物などででしか、外の世界を知らないでいた。
「それなのにこのブロックは海まであるし、魚もいる。…なんで?」
「あーそれな!そりゃあ、この夢見の王国はオレたちのいる星、イデアの面積半分を占めてるんだぜ?海だって王国内にあるし、魚や動物だって沢山いるさ!」
ずっと、放浪の民にいたソーマにとってそれは新しい情報だった。俺たちのいる星の名前がイデアって言うのは知っていた。でも、まさか、王国がその半分の面積も占めているとは知らなかった…
「皆さん、取り分け終わりましたよ。いただきましょう」
「おぉー!うまそー!!」
腹を空かしていた俺たちはバグっ!と料理を口に運んだ。
「んめぇー!」
「……おいしい」
ジンとマナは美味いと言った。だが、俺たちは…
「不味い…」
思わず口に出てしまった。その言葉を聞いた店主がガシャーン!と持っていた皿を落とし。割ってしまった…
「…へ?ま、不味いって……本気で言ってんのか?」
困惑した様子でジンが俺に聞いてくる。俺が料理の不味さを我慢していると続いてアリスが。
「……うっ」
と声を漏らした。
マナが呆然と俺とアリスを眺めている。ジゼルは「…ふむ」と何か考え込んでいる。
え……どうしてこんなに不味く感じるんだろう?こんなにも見た目は美味しそうだし、匂いだって旨そうな匂いなのに……それにここは39ブロック以上だ。46ブロックに住んでいた頃よりもまともな物が食べられている筈なのに……。放浪の民にいた頃、俺たち何食ってたっけ……?
「あっ」
それを考えて俺は気づいた。アリスも気が付いた様子で俺と顔を合わせた後、ジゼルを見る。
原因はジゼルだった。よくよく、考えてみれば放浪の民に住んでた頃、一度も食べ物に関して欲求が満たされなかったことは無かった。
いつも満足していた。
それはジゼルの料理が凄く美味しかったから。
極々当然の事のように今までジゼルの料理を食べてきたが、やっぱりジゼルの料理は凄く美味いのか!と実感させられた瞬間だった。
ジゼルが急に立ち上がり、不味いと言われ、ショックで立ち直れず、割れた皿も片付ける気力のない店主の元へ。
「厨房、少々お借りしても宜しいでしょうか?」
「好きにしな………はぁ……」
「感謝します」
ジゼルは厨房へと入っていった。
*
「な、な、何だこれは!!?スゲェうめぇーーー!!」
ジンが叫んでいる。
「……!!!」
マナは一心不乱に料理を食べ続けている。
ジンとマナが口にしているもの。それはジゼルの手料理だった。
当然でしょう?と何故かアリスがフフン!と得意げな表情をしている。
俺も口の中へとジゼルの料理を運んだ。
うん。
この味、この香り、この繊細さ。
美味い。
「ふあっ!!何じゃこれはああああ!」
店主も料理の美味しさに驚愕し、床をゴロゴロと転がり始めた。
「ご主人」
ジゼルがゴロゴロとのたうち回る店主を落ち着かせ、1枚の紙を渡す。
「アグールを炙る時には先にミーツを巻いた後で強火でサッとフライパンで熱し、その後でミーツを一旦剥がしてバーナーで焦らずじっくりと炙って…それから…」
店主は真剣にジゼルの話を最後まで聞いた。
「そのレシピ差し上げますのでご参考までにどうぞ」
「マジか!ありがとよイケメンの兄ちゃん!!」
「いえ、こちらこそ差し出がましい真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」
ジゼルは会釈し、ソーマたちの元へと戻った。戻ると同時にジンが大声でジゼルを褒め倒した。
「ジゼルってスゲェんだな!美味すぎだぜこれ!今まで食ってきた中で1番うめぇよ!」
隣でマナもこくっ!こくっ!!と何度も頷く。
「当然よ!私の櫻木の料理が美味しくない訳ないでしょう!」
あー、また始まった。とソーマは思う。アリスはいつもジゼルが褒められると何故か自分が得意げになり、ひたすらジゼルの自慢話をする癖があるんだ…。俺の耳はタコが出来るくらいその自慢話を聞いている。
けれど、ジンは。
「あぁ!本当だな!スゲェな!アリスのジゼルは!」
何の不満も感じず、笑顔で話を続ける。
流石だな、とソーマは柔らかい顔をした。
あの一片の曇りもない言葉と表情が、自己嫌悪でいつも自分自身を押し潰してしまいそうになっていた俺を何度も救い上げてくれた事をジンは知らない。
まぁ、恥ずかしいから今後先本人に話す事はないと思うけど。
「そーいやさ!今更だけど、お前たち服装も身体もボロボロで汚れてんなぁー!」
「あっ、替えの服は持ってるんだ。着替える暇がなかったからさ」
「そっか!んじゃ取り敢えず身体を綺麗にしないとな!飯食ったら風呂屋行こうぜ!!」
風呂か…ずっと水浴びだったからな、楽しみだ。
放浪の民では味わうことの出来なかったこの楽しい空間に酔いしれながら、ソーマはアグールの身と付け合わせの野菜を一緒に口に運んだ。
第7話 ジゼルの料理 ~end~
次回予告。
風呂屋で起こる男、女のイベントといえばやはりアレしかない!!
「きっ……きゃああああ!!見るなあああああ!」
「ち、違うんだ!!見るつもりじゃ…ぐふおっ!」
みたいな展開が待ってる…?はず??
次回 第8話 風呂屋にて。
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