天の龍 地の女神

常盤 舞子

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第1話 異変

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 「行ってきまーす」
 妙土たえとは母からお昼のお弁当を受けとると、少し茶色がかった長い髪をなびかせて駅へ向かった。

 天宮妙土が通う都内の私立高校は自宅の最寄り駅から電車で20分のところにある。
 いつもの電車に乗り込むと、文庫本をカバンから取り出した。
 妙土は異国の歴史や神話を題材にした物語が好きなのである。
 満員列車のため、文庫本を開けるスペースを作れるドア際をいつも確保する。
 妙土の通学時間は専ら読書の時間に充てられている。

 異変は突然、車内で起こった。

 突然の急ブレーキで電車が大きく揺れる。
 乗客たちが一斉にバランスを崩し、つり革に慌ててつかまり踏ん張る者、人やドアなどに寄りかかる者と車内は一時、混乱した。

 電車が完全に止まったところで、車内アナウンスが流れる。
 「申し訳ありません。線路上に人が立っているので、列車を止めます。確認いたしますので、少々お待ちください。」

 「人が線路の上に立っている!?」
 車内は騒然とする。
 どこの馬鹿だ、この朝の忙しい時間にそんなことをするのは。
 確認は何分かかるのだろうか。
 いつ出発するのか見当もつかないな。

 妙土は窓から先頭車両の方をのぞき込んだ。何か見えるかもしれない。
 と、その時。
 車両がまた大きくガクンと揺れ、そのまま真っ直ぐ上昇を始めた。
 車内に乗客の悲鳴が走る。
 とっさにドア付近にある握り棒につかまりながら、妙土は恐怖に凍りつく。
 あり得ない。なぜ電車が上昇するんだ。
 そして、どこまで昇り続けるんだ。
 宇宙まで?
 こんな車体じゃ、大気圏を突破できないぞ。
 恐怖しながらも冷静に上昇し続けた時のことを考えていたら車体の上昇が突如、止まった。

 ホッとする間もなく、今度は車体が急降下を始める。

 遊園地のフリーホールのように急激に体にかかるG。
 車内は阿鼻叫喚である。

 あれだけ上昇して上から地面に叩きつけられたら、こりゃ死ぬな。
 何がどうなっているのかわからない恐怖の中、必死に握り棒にしがみつきながら、妙土は来るべき衝撃に備え、足腰に力を入れた。
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