天の龍 地の女神

常盤 舞子

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第33話 明かされた真実

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魔界の地下神殿。

リーザが魔王ラディリオンの前に引き出され、まずやったことは捕まった仲間たちの命乞いだった。
プライドをかなぐり捨て、床に膝をつき、頭をたれた。

リーネ族の男も女も、魔族に捕まったが最後、無惨に切り刻まれ捨てられる。
女は散々、魔族の慰みものになった後、殺されるのだから、まさに生き地獄である。

「自分たちは魔族狩りと称して我ら魔族を殺戮しておきながら、自分たちは命乞いか。虫の良い話よの」

魔界の女王ラビリティア。
魔王ラディリオンの妹で、兄に勝るとも劣らぬ絶世の美貌の持ち主である。

リーザは漆黒の髪と瞳の美しさに、しばし言葉を失なったが、キッと見つめ返し、立ち上がった。
「我々は神々の地上代行者だ。魔族が地上に関与しすぎれば討伐する権限を神々から与えられている。
王都陥落はリーデイルの卑怯な工作によるものだ。仲間のふりをして我らを欺き、王を暗殺したり、神器を盗んだり、卑劣極まりない。正攻法で戦えば、我らは簡単に負けない!」

「戦に正攻法も卑怯もあるもののか」
ラビリティアは鼻で笑った。

ラディリオンはリーザに近寄った。
「リーネ族の捕虜は奴隷として、この度の王都陥落の功労者とアルカナに分配される。捕虜がどういう扱いになるかは主人しだいだ」
「そんな・・・」
リーザは絶句した。

「恨むなら、王族同士での婚姻をまなかったリーネ王たちを恨むがよい。私とて無益な争いをしたくないからこそ、そなたに婚姻を申し出たのだが・・・。
そなたらは、我らと対等な交渉をする環境を失なったのだ。戦になれば、敗者は勝者の思う通りになるのが道理。そなたは、私のものだ」
「お前にどうにかされるくらいなら、死んだほうがマシだ!」
「・・・良いのか?北の大地にいるそなたの同胞や捕虜が死ぬぞ」
「何だと!?」
「  北の大地は白夜なれど、アルカナには太陽の下で力を使える混血児が3人いる。混血児の力は我々、純血の王族より強いかもしれぬ。
そなたが私に逆らえば3人のアルカナたちを北の大地に向かわせる。 リーネ族の力は念動力やエネルギー弾などの単純なものだ。 神器のないリーネ族を殺すことなど、アルカナにとって、赤子の手をひねるようなもの 」
「私を脅す気か!?」
「おお、そうだ。捕虜の扱いも変わってくるぞ。そなたが私の元におれば、私の手前、皆も捕虜を無下に扱わないであろう。それでも、同胞を見捨てて安易に死を選ぶのか」 

リーザは怒りで目の前が真っ赤になった。
「・・・選べるわけがないだろう」
リーザは勢いよく床にあぐらで座りこんだ。
「煮るなり焼くなり好きにしろ!」
「そうさせてもらう」
ラディリオンは笑いながらリーザを抱き上げた。

「兄様!」
ラビリティアの鋭い視線が飛んできたが、ラディリオンは気にしない。
「ラビリティア、捕虜の扱いは私にならえと皆に伝えよ。リーネ族は太陽の光がささぬ魔界では力を使えない最弱の存在だ。不要な苦しみを与えることは許さぬ」
「・・・わかりました」
「リーデイルたちには北の大地の動向を探らせてくれ」
ラディリオンはリーザを抱いたまま部屋を後にした。

ラディリオンの姿が見えなくなるのと同時にリーデイルが現れた。
「ラディリオン様はあの女にだいぶご執心とみえる」

ラビリティアは軽くため息をついた。
「兄様にとって初恋の娘だからな。あの女は覚えていないようだが、昔、魔の森で2人は出会っている。あの女は瞬間移動の練習をしていて、間違えて魔の森に飛んできたらしい。森をさ迷っているところを兄様に発見されたとか。・・・詳しいことは知らないが」
「知ってますよ。私が空間をねじ曲げてリーザの移動先を魔の森にしたので。・・・なるほど、あの時、二人は出会われたのか」
「空間をねじ曲げることもできるのか!?」
「・・・混血児の能力はまだまだ未知数ですが、魔界のお役にたちたいと思いますよ」
リーデイルはラビリティアに微笑んだ。

「お前の望みはリーネ族を苦しめることだったね。王都を陥落させ、リーネ族を北の大地に追いやり、実の妹を兄様に引き渡した気分はどうだい?」
「こんなにうまくいくとは思いませんでしたよ。長い間、あの女のお守りをしてきた甲斐があったというもの」
リーデイルは苦笑した。
「しかし、あなた方、兄妹の目的はまだ果たされていない」

「そう。我々の目的は魔族が地上に移り住むことだ。しかし、太陽がある限り、それは叶わぬ」
「宇宙龍の環が叶えると?」
「宇宙龍の環は所有者のあらゆる望みを叶えるという。ならば、その力で我らが一族を地上に住まわせてほしい。
その昔、神々の戦いに破れた我々の先祖は太陽の光を浴びれば生きることができない体にされたが、元に戻すことも可能なのではないかと思っている」
「宇宙龍の環の現所有者は王家直系のリーザです。ラディリオン様はどう懐柔されるか」
「さあ?」
ラビリティアは不機嫌そうに去っていった。

「立ち聞きは悪趣味ですよ。ラディリオン様」
リーデイルが柱の陰に隠れてた主を呼んだ。
叫ばぬよう口許をしっかりと押さえられたリーザもラディリオンに抱き抱えられるようにして現れた。

リーザを見てリーデイルは少し眉を上げて驚く。
「・・・あなたもいたのですか」
ラディリオンの手が口許から離れたとたん、リーザがまくしたてた。
「リーデイル、私が実の妹とはどういうことだ!?おまえは何者なんだ!?」
「私はあなたの父上の子どもなんですよ。母はこの方の、ラディリオン様の父君の妹だった。
融合政策を唱えたあなたの父上に騙され、うっかり僕を産んだのが母にとって悲劇の始まりでしたよ。リーネ族はリーネ王の婚外子を認めず、僕ら親子を殺そうとした」
「父が魔族の女性に子どもを産ませていたというのか?私は聞いていない!」
「あなたが産まれるずっと前のことですよ。私たち親子はリーネ族にとって、なかったことにされているのだから無理もない。
母は魔界でもリーネ族の男に身を許したとして肩身の狭い思いをして、ついには発狂して自殺しましたよ。
私は前魔王に引き取られたが、幼少のみぎり、リーネ族に送り込まれたのです。たまたま私と容姿が似ていた本物のリーデイルを殺し、戸籍を乗っとりました。彼は身内を先の神魔大戦で亡くしていたので怪しむ者はいませんでしたよ。
そして、死に物狂いで武芸を磨き、勉強をした。王族の直属になり、あなたに近づくためにね」
「そして・・・恨みをはらすために、リーネ王を殺害し、神器を奪ったのか。神器を返せ!あれはお前たちでは使えない。持っていても意味がないだろうが!」
「神器を返せば、魔族はまたリーネ族に駆逐されるでしょう。リーネ族の純血主義は魔族との共存を認めない。あなたが魔族を許容しても他のリーネ族は違う。」
「・・・・・・」
「あなたはまだ若すぎて老獪なリーネの長老たちを抑えることはできないし、一族を掌握して、まとめることはできない。
まあ、リーネ族には北の大地でじっくり身の振り方を考えていただきましょう」

「茫然自失といった感じだな」
リーデイルが去った後、衝撃のあまり、口が利けなくなっているリーザを歩くように促しながら、端正な顔を近づけてラディリオンは話しかけてきた。
「いや、驚いたなんてものじゃない。だいぶ混乱してる」
「それはいけないな。ゆっくり休んだほうが良い」
「私を一番、混乱させているのはお前の存在だ!憎むべき敵のはずなのに・・・」
「はずなのに・・・?」
「・・・私がお前の初恋の相手というのは・・・」
「・・・昔の物語だ。気になるのか?」
ラディリオンはリーザのあごをつと上に向かせると、これ以上ないくらい優しく口づけた。
リーザが抵抗をすることはなかった。
観念したようにラディリオンの胸に頭をもたれかけると、いざなわれるように闇の回廊を抜けてラディリオンの部屋へ向かった。
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