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悪役令嬢の世直し伝シリーズ
悪役令嬢の世直し伝〜婚約破棄と断罪を受けた2人の令嬢が出会ったら〜
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「リリアール、君との婚約を破棄する!」
リリアールと呼ばれた少女が、目を潤ませながら、婚約者である王子を見つめる。
色白で黒髪のストレートロングヘアの、おとなしそうな容姿のリリアールは、首を傾げながら答えた。
「……あの、何故でしょうか。り、理由をお聞かせ願えますか」
「ふん! 言わないとわからないのか? そういうところだ。ユリを見習え。ユリのような女性をいじめるなんて、リリアール、君は最低だ」
「な、なんのお話ですか? 私、いじめなんて……」
「うるさい! リリアール、君をユカト王国に国外追放とする」
身に覚えのない、罪とも言えない罪で、リリアールが婚約破棄と国外追放を受けた同日同時刻、別の国でも婚約破棄が言い渡されていた。
「マリアナ。君がリアの暗殺を企てた証拠がこれだけ揃っているんだ」
勝ち気な、少し釣り上がった瞳に、堂々たる佇まい。くるくるロールな金髪ツインテールをなびかせながら、―――どのようになびかせているのかは不明だが―――王子に言い返す姿は、とても断罪を受けている姿とは思えない。
「申し上げますわ。なぜ、人の婚約者に手出しする女狐を排除してはなりませんの、殿下?」
「いや、殺人は……よくないだろ?」
「そもそも、その女狐が殿下に擦り寄らなければよかっただけの話ですわ。私、殺そうとしておりませんもの。少し脅してあげただけですわ」
「いや、リアは悪くない! リアの魅力に抗えなかった僕が悪いんだ!」
「カイ王子……!」
「リア……!」
二人の世界に入り込む二人の姿に、マリアナはため息をつく。
「で? 私をどうするおつもりです? 修道院にでも送ります?」
「いや、危険な君をユカト王国に国外追放するよ」
ーーーー
「わ、私、これからどうすればいいんでしょうか……?」
ちょうどユカト王国を挟んで、それぞれ点対称の国から、国外追放された二人は、同じ日にユカト王国に到着した。
人気のない街道を、項垂れ、涙をこぼしながら歩くリリアール。そんなリリアールに、反対方向から歩いてきたマリアナが、思いっきりぶつかった。
「いったぁーい!」
「あ、ご、ごめんなさい。すみません。大丈夫ですか?」
「えぇ。……って、あなた。なんで泣いているの?」
「あの、その、」
二人は、寂れた街の中に移動し、広場のベンチ……という名の岩に腰掛けた。
国外からの入国者を管理できるほど、ユカト王国には国力がなく、だからこそ、二人の国外追放先に選ばれたとも言えよう。
そこで、リリアールの話を聞いたマリアナは憤慨し、あまり人が通らないのにも関わらず、周囲が引くほど怒った。
「何そのクソ王子! 最低じゃん! リリアールが何も言い返せないからって。ハニトラに引っかかってる自分が悪いのに。というか、モラハラ気質なんじゃない?」
そんな男、こちらから願い下げよ! よかったわね、というマリアナに、リリアールは首を振る。
「で、殿下は、私のような者を受け入れてくれる優しい方です。しかも、このように見知らぬ土地で……とてもじゃないけど一人じゃ暮らしていけませんわ」
二人が追放されたユカト王国は、とても小さく、貧しく、自然豊かな……いや、手付かずな自然に囲まれた国だ。王族でさえも自力で狩りを行い、生活している。二人が追放された場所から程近い街は、比較的治安がいいが、ユカト王国には、荒くれ者が流れつく場所と言われている。
「いや。リリアールの容姿なら、そんなクソ王子だけじゃなくて、男が群がってくるわよ。でも、そうね。私も今日からどうやって暮らそうか、困っているのよね」
マリアナが腕を組んで悩む。
「ま、マリアナ様も他の国からいらっしゃったのですか?」
「似たようなもんよ。婚約破棄を一方的にされて、国外追放されたの」
「まぁ」
絶句するリリアールに、マリアナは笑う。
「でもいいわ。私、自給自足ってやつに憧れていたのよね。憧れすぎて、屋敷の庭に小屋を作ったりして、親父にぶん殴られたわ」
「こ、小屋……お、親父……ですか?」
あまりのマリアナのおてんばさ加減に、リリアールは困惑する。
「そんなに深く考えなくていいわよ。とりあえず、街の隅っこの方なら勝手に小屋でも建てて、暮らしていいみたいだから、私たち一緒に暮らさない?」
「私、何もできないんですが……いいんですか?」
「二人でいた方が楽しいじゃない! リリアールは、何かやったことのあることはないの?」
「ゆ、ユリ様に言われて、平民の暮らしを知るために、掃除洗濯料理裁縫くらいなら、したことがあります……」
「すごい戦力じゃない! そうと決まれば、急いで小屋を作って寝る場所を確保しましょ?」
「は、はい!」
「おんやまぁ。お嬢ちゃんたち、この街に住むのかい?」
「は、はい。住まわせていただけたらと思っております。よろしくお願いいたします」
「こりゃ丁寧にどうもね。じゃあ、歓迎の印にパンをあげるよ。今朝焼いた焼きたてさ」
「あ、ありがとうございます!」
「あら? ありがとう、おばあさん。リリアール。これで、今日の分の食料は手に入ったわね」
魔法のような速さで、マリアナは小屋を建てる。まるで、何度も小屋を建てたことのある者のような腕前だ。
「す、すごいです!」
「まぁね。伊達に何度も小屋を作ってたわけじゃないし?」
マリアナは、何度も屋敷の庭園に小屋を建てて、壊されることを繰り返してきたようだった。
「じゃあ、いただいたパンでも食べましょうか」
「あ、あの。森の入り口の辺りに、食べられる実があったので持ってきました。わ、私の故郷でよく採っていたものなので、大丈夫です。よろしければ、こちらも……」
「まぁ! いいの!? ありがとう!」
二人は、このようにして元気に暮らし始めた。時には、マリアナが狩りをし、リリアールがきのこや木の実を採集した。また、リリアールが家庭菜園を作り、安定した食事にありつけるようになった。
「おんや、リリちゃんにマリアナちゃんじゃないの」
「こんにちは! おばあさん」
「こ、こんにちは」
「聞いたかい? この国の王子が婚約者を放り出して、平民の娘にお熱なんだって。リリちゃんたちならべっぴんさんだから、王子狙えるんじゃないかい?」
浮気者の王子なんて嫌かー! と、大口を開けておばあさんは笑う。
「婚約者を放り出すですって!?」
「ゆ、許せないです」
「私たちのような目に遭いそうな女性を放ってなんておけないわ! ねぇ、リリアール?」
「そ、そう思います!」
「私は各所に潜入して、王子有責の証拠を集めるわ! リリアールは、いろんな人から話を聞いてきてちょうだい! リリアールになら話しやすいから、みんな話してしまうわよ!」
「は、はい!」
マリアナは持ち前の行動力を発揮して、スパイとしてあちこちに潜入し、リリアールは大人しそうな容姿を活用して、さまざまな人から話を聞き出した。
「話を聞いて、まとめたところ、この国の王子はとんでもないクズ王子ね」
「そ、そう思います」
二人の調査の結果、王子は国民のことを顧みず、自分だけ豊かな生活を送っていた。それを咎めていたのは、彼の婚約者である令嬢だったようだ。例にも漏れず、この王子も婚約破棄を行おうとしていた。
「ミア。君との婚約を破棄して、」
「おやめなさい!」
「き、君たちは何者だ?」
卒業パーティーで婚約破棄が行われると前情報を掴んだリリアールとマリアナは、偽造した招待状片手に、堂々とパーティーに潜入した。
見るからに良家のご令嬢の二人は、パーティーでも美しい所作を見せつけ、周りを感嘆させる。そして、たった今婚約破棄を言い渡そうとしていた王子に近寄っていく。
「とある令嬢ですわ。私たちは、あなたの婚約破棄と彼女の断罪に異議申し立てに参りましたの」
カーテシーを美しく決めながら、マリアナはそう言い放った。
「一体君たちは何が言いたいんだ? 僕がミアとの婚約を破棄することは、当然だろう」
「いいえ。ミア嬢は、素晴らしい女性ですわ。彼女は婚約破棄されるようなお方ではございません。どちらかというと、王子。あなたが婚約破棄されるべきなのでは?」
「な、何を言う!? 失礼な!」
「まず、ミア嬢という婚約者がいながら、他の女性を恋人となさいましたわ。そもそも、ミア嬢のご実家のご支援を受けたからこそ、国王の後継者と決まったのにも関わらず、その恩を裏切る行動は……いかがかと思いますわ」
「うぐ、いや、しかし、」
「その上、ミア嬢が咎めていらしたのに、国民の生活を顧みない暮らしぶり? 王族としていかがかと思いますわよ?」
「いや、王族として権威を守るためにだな、」
マリアナの言葉に王子はタジタジだ。
「う、浮気者で、今まで支援してくれた婚約者一家を裏切り、し、しかも、国の財政に悪影響を与えるなんて……く、クズ王子でいらっしゃるんですね?」
首を傾げながらリリアールがそう言うと、周囲は皆納得してしまった。
「な! 不敬だぞ!? 皆の者。彼女らを捕えろ」
そう叫ぶ王子を庇おうとする者は、国王も含めてその場には誰もいなかった。浮気相手の女性も、分が悪いとわかると逃げ出そうとしている。
「第一王子の王位継承権を剥奪し、第二王子を後継者と据えることとする。ミア嬢。よければ、第二王子と婚約し直してくれないだろうか?」
国王がミアに頭を下げ、第二王子がミア嬢の前に跪く。
「ミア嬢。兄上の婚約者でいらっしゃるから、ずっと気持ちを抑えておりました。絶対に幸せにするので、私と結婚してくださいませんか?」
「うまいこといって、よかったわね!」
「は、はい。よかったです」
「おんや、リリちゃんとマリアナちゃん。聞いたかい? うちの国の王子は浮気がバレて、痛い目にあったみたいだよ。あの王子は困った人だったからねぇ。浮気相手の嬢ちゃんも賠償金ってやつをすっげぇ額請求されたらしいなぁ。……あ、今度は西の国の王子が浮気してるんだって。こんな世の中、やんなっちゃうねぇ」
「なんですって!? リリアール! 行くわよ!」
「は、はい!」
二人の世直しの旅はまだ始まったばかりだった。
その後、二人の令嬢が現れると国が良くなると噂されたとか。二人の影響で一部の王族への反乱が各国で起こるようになった。
「カイ王子……あなたとは一緒にいられないわ!」
「リア、待ってくれ。今ここから逃げ出したら……」
「うぉぉぉぉ! こいつらが贅沢するから、俺たちの暮らしは豊かにならないんだ! 打首にしろぉ!」
「ごめんね? 王子。他に好きな人ができたわ」
「そ、そんな。ユリ! 許さないぞ! 殺してやる!」
リリアールとマリアナの復讐は、本人たちの知らぬところで行われたのだった。
リリアールと呼ばれた少女が、目を潤ませながら、婚約者である王子を見つめる。
色白で黒髪のストレートロングヘアの、おとなしそうな容姿のリリアールは、首を傾げながら答えた。
「……あの、何故でしょうか。り、理由をお聞かせ願えますか」
「ふん! 言わないとわからないのか? そういうところだ。ユリを見習え。ユリのような女性をいじめるなんて、リリアール、君は最低だ」
「な、なんのお話ですか? 私、いじめなんて……」
「うるさい! リリアール、君をユカト王国に国外追放とする」
身に覚えのない、罪とも言えない罪で、リリアールが婚約破棄と国外追放を受けた同日同時刻、別の国でも婚約破棄が言い渡されていた。
「マリアナ。君がリアの暗殺を企てた証拠がこれだけ揃っているんだ」
勝ち気な、少し釣り上がった瞳に、堂々たる佇まい。くるくるロールな金髪ツインテールをなびかせながら、―――どのようになびかせているのかは不明だが―――王子に言い返す姿は、とても断罪を受けている姿とは思えない。
「申し上げますわ。なぜ、人の婚約者に手出しする女狐を排除してはなりませんの、殿下?」
「いや、殺人は……よくないだろ?」
「そもそも、その女狐が殿下に擦り寄らなければよかっただけの話ですわ。私、殺そうとしておりませんもの。少し脅してあげただけですわ」
「いや、リアは悪くない! リアの魅力に抗えなかった僕が悪いんだ!」
「カイ王子……!」
「リア……!」
二人の世界に入り込む二人の姿に、マリアナはため息をつく。
「で? 私をどうするおつもりです? 修道院にでも送ります?」
「いや、危険な君をユカト王国に国外追放するよ」
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「わ、私、これからどうすればいいんでしょうか……?」
ちょうどユカト王国を挟んで、それぞれ点対称の国から、国外追放された二人は、同じ日にユカト王国に到着した。
人気のない街道を、項垂れ、涙をこぼしながら歩くリリアール。そんなリリアールに、反対方向から歩いてきたマリアナが、思いっきりぶつかった。
「いったぁーい!」
「あ、ご、ごめんなさい。すみません。大丈夫ですか?」
「えぇ。……って、あなた。なんで泣いているの?」
「あの、その、」
二人は、寂れた街の中に移動し、広場のベンチ……という名の岩に腰掛けた。
国外からの入国者を管理できるほど、ユカト王国には国力がなく、だからこそ、二人の国外追放先に選ばれたとも言えよう。
そこで、リリアールの話を聞いたマリアナは憤慨し、あまり人が通らないのにも関わらず、周囲が引くほど怒った。
「何そのクソ王子! 最低じゃん! リリアールが何も言い返せないからって。ハニトラに引っかかってる自分が悪いのに。というか、モラハラ気質なんじゃない?」
そんな男、こちらから願い下げよ! よかったわね、というマリアナに、リリアールは首を振る。
「で、殿下は、私のような者を受け入れてくれる優しい方です。しかも、このように見知らぬ土地で……とてもじゃないけど一人じゃ暮らしていけませんわ」
二人が追放されたユカト王国は、とても小さく、貧しく、自然豊かな……いや、手付かずな自然に囲まれた国だ。王族でさえも自力で狩りを行い、生活している。二人が追放された場所から程近い街は、比較的治安がいいが、ユカト王国には、荒くれ者が流れつく場所と言われている。
「いや。リリアールの容姿なら、そんなクソ王子だけじゃなくて、男が群がってくるわよ。でも、そうね。私も今日からどうやって暮らそうか、困っているのよね」
マリアナが腕を組んで悩む。
「ま、マリアナ様も他の国からいらっしゃったのですか?」
「似たようなもんよ。婚約破棄を一方的にされて、国外追放されたの」
「まぁ」
絶句するリリアールに、マリアナは笑う。
「でもいいわ。私、自給自足ってやつに憧れていたのよね。憧れすぎて、屋敷の庭に小屋を作ったりして、親父にぶん殴られたわ」
「こ、小屋……お、親父……ですか?」
あまりのマリアナのおてんばさ加減に、リリアールは困惑する。
「そんなに深く考えなくていいわよ。とりあえず、街の隅っこの方なら勝手に小屋でも建てて、暮らしていいみたいだから、私たち一緒に暮らさない?」
「私、何もできないんですが……いいんですか?」
「二人でいた方が楽しいじゃない! リリアールは、何かやったことのあることはないの?」
「ゆ、ユリ様に言われて、平民の暮らしを知るために、掃除洗濯料理裁縫くらいなら、したことがあります……」
「すごい戦力じゃない! そうと決まれば、急いで小屋を作って寝る場所を確保しましょ?」
「は、はい!」
「おんやまぁ。お嬢ちゃんたち、この街に住むのかい?」
「は、はい。住まわせていただけたらと思っております。よろしくお願いいたします」
「こりゃ丁寧にどうもね。じゃあ、歓迎の印にパンをあげるよ。今朝焼いた焼きたてさ」
「あ、ありがとうございます!」
「あら? ありがとう、おばあさん。リリアール。これで、今日の分の食料は手に入ったわね」
魔法のような速さで、マリアナは小屋を建てる。まるで、何度も小屋を建てたことのある者のような腕前だ。
「す、すごいです!」
「まぁね。伊達に何度も小屋を作ってたわけじゃないし?」
マリアナは、何度も屋敷の庭園に小屋を建てて、壊されることを繰り返してきたようだった。
「じゃあ、いただいたパンでも食べましょうか」
「あ、あの。森の入り口の辺りに、食べられる実があったので持ってきました。わ、私の故郷でよく採っていたものなので、大丈夫です。よろしければ、こちらも……」
「まぁ! いいの!? ありがとう!」
二人は、このようにして元気に暮らし始めた。時には、マリアナが狩りをし、リリアールがきのこや木の実を採集した。また、リリアールが家庭菜園を作り、安定した食事にありつけるようになった。
「おんや、リリちゃんにマリアナちゃんじゃないの」
「こんにちは! おばあさん」
「こ、こんにちは」
「聞いたかい? この国の王子が婚約者を放り出して、平民の娘にお熱なんだって。リリちゃんたちならべっぴんさんだから、王子狙えるんじゃないかい?」
浮気者の王子なんて嫌かー! と、大口を開けておばあさんは笑う。
「婚約者を放り出すですって!?」
「ゆ、許せないです」
「私たちのような目に遭いそうな女性を放ってなんておけないわ! ねぇ、リリアール?」
「そ、そう思います!」
「私は各所に潜入して、王子有責の証拠を集めるわ! リリアールは、いろんな人から話を聞いてきてちょうだい! リリアールになら話しやすいから、みんな話してしまうわよ!」
「は、はい!」
マリアナは持ち前の行動力を発揮して、スパイとしてあちこちに潜入し、リリアールは大人しそうな容姿を活用して、さまざまな人から話を聞き出した。
「話を聞いて、まとめたところ、この国の王子はとんでもないクズ王子ね」
「そ、そう思います」
二人の調査の結果、王子は国民のことを顧みず、自分だけ豊かな生活を送っていた。それを咎めていたのは、彼の婚約者である令嬢だったようだ。例にも漏れず、この王子も婚約破棄を行おうとしていた。
「ミア。君との婚約を破棄して、」
「おやめなさい!」
「き、君たちは何者だ?」
卒業パーティーで婚約破棄が行われると前情報を掴んだリリアールとマリアナは、偽造した招待状片手に、堂々とパーティーに潜入した。
見るからに良家のご令嬢の二人は、パーティーでも美しい所作を見せつけ、周りを感嘆させる。そして、たった今婚約破棄を言い渡そうとしていた王子に近寄っていく。
「とある令嬢ですわ。私たちは、あなたの婚約破棄と彼女の断罪に異議申し立てに参りましたの」
カーテシーを美しく決めながら、マリアナはそう言い放った。
「一体君たちは何が言いたいんだ? 僕がミアとの婚約を破棄することは、当然だろう」
「いいえ。ミア嬢は、素晴らしい女性ですわ。彼女は婚約破棄されるようなお方ではございません。どちらかというと、王子。あなたが婚約破棄されるべきなのでは?」
「な、何を言う!? 失礼な!」
「まず、ミア嬢という婚約者がいながら、他の女性を恋人となさいましたわ。そもそも、ミア嬢のご実家のご支援を受けたからこそ、国王の後継者と決まったのにも関わらず、その恩を裏切る行動は……いかがかと思いますわ」
「うぐ、いや、しかし、」
「その上、ミア嬢が咎めていらしたのに、国民の生活を顧みない暮らしぶり? 王族としていかがかと思いますわよ?」
「いや、王族として権威を守るためにだな、」
マリアナの言葉に王子はタジタジだ。
「う、浮気者で、今まで支援してくれた婚約者一家を裏切り、し、しかも、国の財政に悪影響を与えるなんて……く、クズ王子でいらっしゃるんですね?」
首を傾げながらリリアールがそう言うと、周囲は皆納得してしまった。
「な! 不敬だぞ!? 皆の者。彼女らを捕えろ」
そう叫ぶ王子を庇おうとする者は、国王も含めてその場には誰もいなかった。浮気相手の女性も、分が悪いとわかると逃げ出そうとしている。
「第一王子の王位継承権を剥奪し、第二王子を後継者と据えることとする。ミア嬢。よければ、第二王子と婚約し直してくれないだろうか?」
国王がミアに頭を下げ、第二王子がミア嬢の前に跪く。
「ミア嬢。兄上の婚約者でいらっしゃるから、ずっと気持ちを抑えておりました。絶対に幸せにするので、私と結婚してくださいませんか?」
「うまいこといって、よかったわね!」
「は、はい。よかったです」
「おんや、リリちゃんとマリアナちゃん。聞いたかい? うちの国の王子は浮気がバレて、痛い目にあったみたいだよ。あの王子は困った人だったからねぇ。浮気相手の嬢ちゃんも賠償金ってやつをすっげぇ額請求されたらしいなぁ。……あ、今度は西の国の王子が浮気してるんだって。こんな世の中、やんなっちゃうねぇ」
「なんですって!? リリアール! 行くわよ!」
「は、はい!」
二人の世直しの旅はまだ始まったばかりだった。
その後、二人の令嬢が現れると国が良くなると噂されたとか。二人の影響で一部の王族への反乱が各国で起こるようになった。
「カイ王子……あなたとは一緒にいられないわ!」
「リア、待ってくれ。今ここから逃げ出したら……」
「うぉぉぉぉ! こいつらが贅沢するから、俺たちの暮らしは豊かにならないんだ! 打首にしろぉ!」
「ごめんね? 王子。他に好きな人ができたわ」
「そ、そんな。ユリ! 許さないぞ! 殺してやる!」
リリアールとマリアナの復讐は、本人たちの知らぬところで行われたのだった。
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