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幼少期
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「おとうしゃま。王族とはなんでしゅか?」
「マリアーシャ。いい質問だ。国のことを一番に思い、考える人たちだ」
「では、わたくちが王太子殿下と結婚ちて、王族になる、ということは、国のために学び、学んだことを民のために実行しゅればいい、という意味でしゅか?」
「そうだ。マリアーシャ。さすがこの国一番の才女だ」
我が娘、マリアーシャは生まれながらの天才だった。産まれてすぐ周りを見渡したと思ったら、そこから悟ったように過ごした。ミルクを欲するときは甲高く泣き、オムツを取り替えて欲しい時は唸った。大人に適切な対処をさせるためだ。
一歳前に言葉を話すようになるとすぐにニ語三語と単語を使いこなし、二歳には綺麗な文章を話していた。滑舌が発達に追いつかず、舌足らずではあるが。
齢五歳には、三歳上の王子の婚約者に内々定した。と同時に王子は王太子となった。この婚約は、娘の三歳上の王子が……少しお馬鹿だったことが原因だ。国王陛下は、優秀な王妃を据えれば、可愛い息子を王にできると考えたわけだ。国王陛下には他に息子がおらず、王子が王位を継承しない場合は王弟の息子が王になる。王弟の息子もとりわけ優秀と言うわけではなく、可もなく不可もなくといった具合だ。王子が重大な失敗さえしなければ、我が娘が王妃となるのだろう。そう悟った私は、娘に王族とは何か、どういう立場になるか聞かせようと思ったわけだが……五歳児と話している気持ちにならないのは、私だけだろうか。
「ではわたくちは勉強に戻らせていただきましゅ、おとうしゃま」
娘の美しいカーテシーを見ながら、私は少し不安に思った。
「マリアーシャ、今日は王太子殿下にお会いする日だ。失礼のないようにしなさい」
「わかりまちたわ。おとうしゃま」
「わたくち、フィラルシア公爵家が長女、マリアーシャともうちましゅ。王国の光たる王太子殿下にお会いできること、大変楽ちみにしておりまちた」
マリアーシャは、我が娘ながら大変愛らしい。愛らしいマリアーシャの立派な挨拶に王太子殿下も満足げだ。
「僕の妻になるって聞いたよ! 一緒にあっちで遊ぼう!」
「かちこまりまちた。国王陛下と王妃陛下。御前を失礼しゃしぇていただきましゅ。おとうしゃま、よろちいでしょうか?」
「あぁ。王太子殿下に庭を案内してもらっておいで」
娘の様子を見た国王陛下と王妃陛下は言葉を失い、ぽかんとした表情を浮かべていた。
「……噂以上に優秀だな」
「……あれであの子の三つ下? あの子よりもしっかりしているわ……」
「女の子は成長が早いといいますから」
「我が娘が王太子殿下のお気に召したようで何よりです」
国王陛下と王妃陛下と妻と共に遠巻きに子供達の様子を見つつお茶を楽しむ。しばらくすると、子供達用のテーブルにお茶菓子が用意された。すると娘はこちらを見て国王陛下と王妃陛下に向かってカーテシーをした。
「あれは……」
「おそらくお菓子への礼かと。娘好みのお菓子をご準備いただいたようですから」
その後、何かを娘が王太子殿下に話しかけ、王太子殿下が笑ってそれに応え、娘が首を傾げることが何度かあった。しかし、次第に二人で会話を楽しむようになり、その日は解散となり、二人の婚約は内定したのだった。
「……おとうしゃま」
「どうした?」
「王太子殿下は王族でいらっしゃるのでしゅよね?」
「そうだが……」
「わたくち、王族は国のことを思っていると思っておりまちたの。ですから、今後の近隣諸国との交流や我が国の発展について、お話ちまちたの。王太子殿下は、その、よくわからない回答をなさって……。近隣諸国のお話をちたら、以前来国なしゃった隣国の王女が美しかったお話とか。わたくちの知識をお伝えちたら、まだそこまでは学習が進んでないとおっしゃったのでしゅ。あのお方が我が国を発展させていけるので……あぁ、不敬になってちまうところでちたわ」
「その、マリアーシャの学習内容は一般のものより遥かに進んでいることを伝え忘れていたな。マリアーシャ。お前はとても賢いんだ。だからこそ、王妃に選ばれた」
「あぁ、しょういうことでちたの。では、わたくちは、あのお方の代わりに勉学に励めばよろちいのでしゅね。わかりまちたわ。ただ、王となるならば、しぇめて近隣五カ国語の勉学を始められた方がよろちいかと思いまちたわ。資料にも隣国の姫君も王子殿下も八歳では五カ国語を使いこなちていたとありまちたから。しょもしょも、語学の勉強は早めに始めた方がよろちいでしゅわ。幼い方が吸収がいいと先日読んだ本に書いてありまちたから。あの、おとうしゃま、今日、途中からはわたくちがお話を合わせて差し上げるように意識いたちまちたけど、勉学につながるお話をした方がよろちいでしょうか?」
「……外国語の勉強については、私から国王陛下に進言しておこう。話は王太子殿下に合わせて差し上げるように。王太子殿下の立太子が叶ったのはお前が王妃になるという背景がある。関係は良好に保つように」
「わかりまちたわ。おとうしゃま」
そう微笑んでスイッチが切れたかのように眠った娘。五歳らしい寝顔に少し安心した。この娘が了承したのならきっとうまくやるだろう。ただ、あまりにも知能レベルが違いすぎると会話が成り立たないと聞いた事があるが……大丈夫だろうか。
「マリアーシャ。いい質問だ。国のことを一番に思い、考える人たちだ」
「では、わたくちが王太子殿下と結婚ちて、王族になる、ということは、国のために学び、学んだことを民のために実行しゅればいい、という意味でしゅか?」
「そうだ。マリアーシャ。さすがこの国一番の才女だ」
我が娘、マリアーシャは生まれながらの天才だった。産まれてすぐ周りを見渡したと思ったら、そこから悟ったように過ごした。ミルクを欲するときは甲高く泣き、オムツを取り替えて欲しい時は唸った。大人に適切な対処をさせるためだ。
一歳前に言葉を話すようになるとすぐにニ語三語と単語を使いこなし、二歳には綺麗な文章を話していた。滑舌が発達に追いつかず、舌足らずではあるが。
齢五歳には、三歳上の王子の婚約者に内々定した。と同時に王子は王太子となった。この婚約は、娘の三歳上の王子が……少しお馬鹿だったことが原因だ。国王陛下は、優秀な王妃を据えれば、可愛い息子を王にできると考えたわけだ。国王陛下には他に息子がおらず、王子が王位を継承しない場合は王弟の息子が王になる。王弟の息子もとりわけ優秀と言うわけではなく、可もなく不可もなくといった具合だ。王子が重大な失敗さえしなければ、我が娘が王妃となるのだろう。そう悟った私は、娘に王族とは何か、どういう立場になるか聞かせようと思ったわけだが……五歳児と話している気持ちにならないのは、私だけだろうか。
「ではわたくちは勉強に戻らせていただきましゅ、おとうしゃま」
娘の美しいカーテシーを見ながら、私は少し不安に思った。
「マリアーシャ、今日は王太子殿下にお会いする日だ。失礼のないようにしなさい」
「わかりまちたわ。おとうしゃま」
「わたくち、フィラルシア公爵家が長女、マリアーシャともうちましゅ。王国の光たる王太子殿下にお会いできること、大変楽ちみにしておりまちた」
マリアーシャは、我が娘ながら大変愛らしい。愛らしいマリアーシャの立派な挨拶に王太子殿下も満足げだ。
「僕の妻になるって聞いたよ! 一緒にあっちで遊ぼう!」
「かちこまりまちた。国王陛下と王妃陛下。御前を失礼しゃしぇていただきましゅ。おとうしゃま、よろちいでしょうか?」
「あぁ。王太子殿下に庭を案内してもらっておいで」
娘の様子を見た国王陛下と王妃陛下は言葉を失い、ぽかんとした表情を浮かべていた。
「……噂以上に優秀だな」
「……あれであの子の三つ下? あの子よりもしっかりしているわ……」
「女の子は成長が早いといいますから」
「我が娘が王太子殿下のお気に召したようで何よりです」
国王陛下と王妃陛下と妻と共に遠巻きに子供達の様子を見つつお茶を楽しむ。しばらくすると、子供達用のテーブルにお茶菓子が用意された。すると娘はこちらを見て国王陛下と王妃陛下に向かってカーテシーをした。
「あれは……」
「おそらくお菓子への礼かと。娘好みのお菓子をご準備いただいたようですから」
その後、何かを娘が王太子殿下に話しかけ、王太子殿下が笑ってそれに応え、娘が首を傾げることが何度かあった。しかし、次第に二人で会話を楽しむようになり、その日は解散となり、二人の婚約は内定したのだった。
「……おとうしゃま」
「どうした?」
「王太子殿下は王族でいらっしゃるのでしゅよね?」
「そうだが……」
「わたくち、王族は国のことを思っていると思っておりまちたの。ですから、今後の近隣諸国との交流や我が国の発展について、お話ちまちたの。王太子殿下は、その、よくわからない回答をなさって……。近隣諸国のお話をちたら、以前来国なしゃった隣国の王女が美しかったお話とか。わたくちの知識をお伝えちたら、まだそこまでは学習が進んでないとおっしゃったのでしゅ。あのお方が我が国を発展させていけるので……あぁ、不敬になってちまうところでちたわ」
「その、マリアーシャの学習内容は一般のものより遥かに進んでいることを伝え忘れていたな。マリアーシャ。お前はとても賢いんだ。だからこそ、王妃に選ばれた」
「あぁ、しょういうことでちたの。では、わたくちは、あのお方の代わりに勉学に励めばよろちいのでしゅね。わかりまちたわ。ただ、王となるならば、しぇめて近隣五カ国語の勉学を始められた方がよろちいかと思いまちたわ。資料にも隣国の姫君も王子殿下も八歳では五カ国語を使いこなちていたとありまちたから。しょもしょも、語学の勉強は早めに始めた方がよろちいでしゅわ。幼い方が吸収がいいと先日読んだ本に書いてありまちたから。あの、おとうしゃま、今日、途中からはわたくちがお話を合わせて差し上げるように意識いたちまちたけど、勉学につながるお話をした方がよろちいでしょうか?」
「……外国語の勉強については、私から国王陛下に進言しておこう。話は王太子殿下に合わせて差し上げるように。王太子殿下の立太子が叶ったのはお前が王妃になるという背景がある。関係は良好に保つように」
「わかりまちたわ。おとうしゃま」
そう微笑んでスイッチが切れたかのように眠った娘。五歳らしい寝顔に少し安心した。この娘が了承したのならきっとうまくやるだろう。ただ、あまりにも知能レベルが違いすぎると会話が成り立たないと聞いた事があるが……大丈夫だろうか。
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