5 / 34
5.強引な異動理由
しおりを挟む
「おい! テラス! 今すぐこっちにこい!」
上司の神に、テラスが突然呼ばれる。いつものように横柄ではあるが、少しの動揺が声にも感じる。
その動揺を感じ取ったのか、周りの人たちも二人の会話の行方を見守るために、黙っている。
「はい、すぐ行きます」
そう返事をしたテラスも不思議な空気に違和感を覚えている。特に仕事でやらかした記憶はないし、牛の尻拭いも特に不足ないはずだ、と記憶を巡らせているようだ。ミコも、またあの上司はアホなことを言い出さないかと目を光らせながら、見守っている。
「お前、地獄に異動な」
周囲がしーんと静まり返った。ありえない言葉に、誰かが手に持っていた書類を落としただろう、ばさりという音が大きく響いた。
「……えっと、私、何かやらかしましたか?」
「は!? 何言ってるんですか! 人型には不可能っていつも言ってますよね? そもそも、地獄の空気にテラスが耐えれると思ってるんですか?」
どかどかと二人の間に割り込んだミコが、机をバーンと叩きながら、上司に詰め寄る。
「最近、あのーあれだ、仕事が遅いし、牛の尻拭いも不十分だろ?」
突然話を振られた牛が垂直に飛び跳ねる。牛も巻き込まれると思ったのか、小さくカタカタと震えている。
「んなことないですよね!? なんですか! テラスがいないと仕事もできないクソ牛にクソ上司のくせに、テラスを地獄に堕とすなんて! そんな横暴! 堕とすべきは仕事もせずに、テラスに仕事を押し付けて寝ている牛じゃないんでふか!?」
さすがにみんな、テラスが地獄に堕とされる理由が強引すぎると思ったのか、黙って上司に視線を向けている。
悪行とともに名前を挙げられた牛は、震えでもう立っていられない。椅子から転がり落ちていった。確かに、牛なら地獄でもたくさんの仕事が可能であろう。
「ほれ、でも異動通知だ」
上司がテラスに向かって一枚の紙を放り投げる。テラスがそっと拾って、放り投げられた通知に目を通す。確かに、テラスを地獄に異動させるように書いてあるようだ。
「かして!」
奪い取るようにミコが目を通して、机に叩きつける。
「どうやってやったんですか!? あんたが強引に通したんでしょ!? テラスを殺す気!?」
ミコが文字通り、暴れ回り、動物型の使いたちも慌てて抑えにかかる。ミコが蹴飛ばす机や椅子が、あちこちに飛んでいっているからだ。
「いや、上からの指示だ。お前がいなくなった代わりの補充も決まってるから、さっさと荷物まとめて行ってこい」
ミコ以外は巻き込まれたくないようで、静かにテラスから目を逸らし始めたようだ。
「ミコ、ありがとう。きっと大丈夫だよ?」
テラスが微笑みながら、ミコにそう伝えると、ミコはうなだれてしまった。
「もしかしたら、地獄でも浄化の力も使えるかもしれないし、安心して?」
テラスがそう自分に言い聞かせように微笑んで言うと、ミコも無理矢理微笑んだ。
「そう……だよね、テラスなら、浄化の力があるから……絶対大丈夫だよね!」
決まってしまった異動を覆すことは不可能だ。わかっているのに、ミコはテラスのために上司に噛み付いてくれたのだ。
「なぁにー? このお葬式みたいな空気ー! ねぇ、テラス、マッサージがわりに浄化してくれない?」
空気を読まずに入ってきた美容の神は、テラスの椅子にどかりと座る。
「あの、異動になりまして……地獄に」
「えー!? テラス、地獄に堕とされるの!? マッサージ機がないと困るんだけど!? じゃあ、昨日聞いた、強引な上からの人事ってこれのことだったんだー? お肌に悪そうだから、地獄までマッサージしてもらいにいくのはごめんだけど、上にきた時はマッサージしてねー?」
「……はい。お世話になりました」
テラスがそう頭を下げている横で、ミコが悩んでいるようであった。
「上から……? 美容の神より? 一体この件は誰が絡んでるの?」
その日から、牛はテラスにイエスマンとなった。
「あの、牛さん」
テラスがそう話しかけると垂直に飛び上がり、そっと書類を差し出す。
「いつも遅くてすみません。書類です。僕のことは地獄で広めないでください。お願いします」
「あの、私から言うつもりはありませんが、業務の必要上、聞かれたら答えざるを得ないですが……」
牛の手がカタカタと震え出す。
「めっちゃ面白いんだけど。テラスが牛いじめてる。最高」
そんな牛の様子に、ミコはご満悦のようだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
そう謝り続ける牛の言葉には、どんな意味の謝罪が込められているのだろうか。
上司の神に、テラスが突然呼ばれる。いつものように横柄ではあるが、少しの動揺が声にも感じる。
その動揺を感じ取ったのか、周りの人たちも二人の会話の行方を見守るために、黙っている。
「はい、すぐ行きます」
そう返事をしたテラスも不思議な空気に違和感を覚えている。特に仕事でやらかした記憶はないし、牛の尻拭いも特に不足ないはずだ、と記憶を巡らせているようだ。ミコも、またあの上司はアホなことを言い出さないかと目を光らせながら、見守っている。
「お前、地獄に異動な」
周囲がしーんと静まり返った。ありえない言葉に、誰かが手に持っていた書類を落としただろう、ばさりという音が大きく響いた。
「……えっと、私、何かやらかしましたか?」
「は!? 何言ってるんですか! 人型には不可能っていつも言ってますよね? そもそも、地獄の空気にテラスが耐えれると思ってるんですか?」
どかどかと二人の間に割り込んだミコが、机をバーンと叩きながら、上司に詰め寄る。
「最近、あのーあれだ、仕事が遅いし、牛の尻拭いも不十分だろ?」
突然話を振られた牛が垂直に飛び跳ねる。牛も巻き込まれると思ったのか、小さくカタカタと震えている。
「んなことないですよね!? なんですか! テラスがいないと仕事もできないクソ牛にクソ上司のくせに、テラスを地獄に堕とすなんて! そんな横暴! 堕とすべきは仕事もせずに、テラスに仕事を押し付けて寝ている牛じゃないんでふか!?」
さすがにみんな、テラスが地獄に堕とされる理由が強引すぎると思ったのか、黙って上司に視線を向けている。
悪行とともに名前を挙げられた牛は、震えでもう立っていられない。椅子から転がり落ちていった。確かに、牛なら地獄でもたくさんの仕事が可能であろう。
「ほれ、でも異動通知だ」
上司がテラスに向かって一枚の紙を放り投げる。テラスがそっと拾って、放り投げられた通知に目を通す。確かに、テラスを地獄に異動させるように書いてあるようだ。
「かして!」
奪い取るようにミコが目を通して、机に叩きつける。
「どうやってやったんですか!? あんたが強引に通したんでしょ!? テラスを殺す気!?」
ミコが文字通り、暴れ回り、動物型の使いたちも慌てて抑えにかかる。ミコが蹴飛ばす机や椅子が、あちこちに飛んでいっているからだ。
「いや、上からの指示だ。お前がいなくなった代わりの補充も決まってるから、さっさと荷物まとめて行ってこい」
ミコ以外は巻き込まれたくないようで、静かにテラスから目を逸らし始めたようだ。
「ミコ、ありがとう。きっと大丈夫だよ?」
テラスが微笑みながら、ミコにそう伝えると、ミコはうなだれてしまった。
「もしかしたら、地獄でも浄化の力も使えるかもしれないし、安心して?」
テラスがそう自分に言い聞かせように微笑んで言うと、ミコも無理矢理微笑んだ。
「そう……だよね、テラスなら、浄化の力があるから……絶対大丈夫だよね!」
決まってしまった異動を覆すことは不可能だ。わかっているのに、ミコはテラスのために上司に噛み付いてくれたのだ。
「なぁにー? このお葬式みたいな空気ー! ねぇ、テラス、マッサージがわりに浄化してくれない?」
空気を読まずに入ってきた美容の神は、テラスの椅子にどかりと座る。
「あの、異動になりまして……地獄に」
「えー!? テラス、地獄に堕とされるの!? マッサージ機がないと困るんだけど!? じゃあ、昨日聞いた、強引な上からの人事ってこれのことだったんだー? お肌に悪そうだから、地獄までマッサージしてもらいにいくのはごめんだけど、上にきた時はマッサージしてねー?」
「……はい。お世話になりました」
テラスがそう頭を下げている横で、ミコが悩んでいるようであった。
「上から……? 美容の神より? 一体この件は誰が絡んでるの?」
その日から、牛はテラスにイエスマンとなった。
「あの、牛さん」
テラスがそう話しかけると垂直に飛び上がり、そっと書類を差し出す。
「いつも遅くてすみません。書類です。僕のことは地獄で広めないでください。お願いします」
「あの、私から言うつもりはありませんが、業務の必要上、聞かれたら答えざるを得ないですが……」
牛の手がカタカタと震え出す。
「めっちゃ面白いんだけど。テラスが牛いじめてる。最高」
そんな牛の様子に、ミコはご満悦のようだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
そう謝り続ける牛の言葉には、どんな意味の謝罪が込められているのだろうか。
22
あなたにおすすめの小説
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~
黒崎隼人
ファンタジー
農業コンサルタントとして過労死した杉本健一は、異世界の貧乏貴族ローレンツ家の当主として目覚めた。
待っていたのは、荒れた土地、飢える領民、そして莫大な借金!
チートスキルも戦闘能力もない彼に残された武器は、前世で培った「農業知識」だけだった。
「貴族が土を耕すだと?」と笑われても構わない!
輪作、堆肥、品種改良! 現代知識と異世界の魔法を組み合わせた独自農法で、俺は自らクワを握る「耕作貴族」となる!
元Sランク冒険者のクールなメイドや、義理堅い元騎士を仲間に迎え、荒れ果てた領地を最強の農業大国へと変えていく、異色の領地経営ファンタジー!
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる