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25.暴動
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「テラス。大丈夫かい? ほら、私に捕まって」
「ありがとうございます」
「そこ、段になっているからね。あぁ、戻ったらケーキを作ってあげるよ」
「ディラン様。大丈夫です。緊張はしてますが、問題ありません」
地獄の神とテラス、クロウは、最高神へと地獄の淀みが発生した原因を報告しに、天界へと来ていた。テラスにいろいろと言っていた者の姿が見えるせいか、地獄の神は過保護モードへと移行していた。
「地獄の神って、あんなに素敵だったかしら?」
「元々、麗しいお姿だと思っていたけど、あの使い人が触っても平気な様子よ?」
「あの子、浄化が使えるんでしょう?」
「でも、所詮使い人の力よ?」
「麗しいわ……ディラン様」
「やっとディラン様の魅力がわかってきたのね。うっとうしい、派手な女たち。でも、あのディラン様につきまとっている女を、ディラン様の近くから追いやるためには、使えるかも……」
「俺も協力してやろうか? あいつには、うらみがあるんだよ」
「怠惰の神」
いそいそとテラスの面倒を見て、エスコートする地獄の神の姿に、天界のファンが増えたようであった。
「恋愛の神といい、ディラン様といい、あのテラスっていう平凡な子のどこがいいのかしら……」
「そうよね! 色でも使ってるんじゃない?」
「えー。あの子の色なんて、神々に響くと思う?」
「浄化ではなく、魅了が使えるとか?」
「ありえるーー」
「そうよ。ディラン様があんな女を気に入っているはずはないわ。魅了を使っているのよ」
そう確信した日陰の神の行動は、早かった。日陰の神の領域 陰を使って、テラスの陰口や噂を広げていく。
「よくきたな、我が弟とテラス!」
「最高神にご挨拶を申し」
「いいって! そういう堅苦しいことは!」
「最高神。今回の地獄の騒動、大変申し訳なかった」
「いいよいいよ。地獄が淀んだだけで、天界への被害はなかったからね」
へらへらとしているようではあるが、天界への影響があった場合、どんなことが起こるのか……想像すらつかない威圧感を醸し出している。
「これが最高神のオーラ……」
思わず、テラスの口からこぼれ落ちた単語に、最高神が喜びの表情を浮かべる。
「え!? そんなオーラあった? 照れるなー。本当テラスはいい子だね」
「ありがとうございます」
「天界の僕のところで、働いちゃう?」
「え、あの、ありがたいお言葉なのですが」
「最高神?」
「ごめんごめん。冗談だよ。ディラン、そんな怖い顔しないでよ?」
地獄の神を落ち着かせながら、最高神が真剣に言葉をつなぐ。
「……ちょっと面倒くさいことが起こっているようだから、気をつけて帰ってね。まぁ、地獄の使い人に何かするようだったら、ディランの権限で……って、うわぁ。きたぁ」
めんどくさそうな様子を見せる最高神に、テラスは首を傾げる。
扉の前の見張り役たちが騒がしい。
「今、ディラン様が面会中だぞ! お前ら、失礼だと思わないのか!?」
扉の前にいるはずのクロウの大声が響く。
「いや、俺は扉の前で警戒しておくよ」と言って、最高神への謁見を避けたクロウは、この事態を予見していたのであろうか?
「なんだよ。最高神に謁見するなんてめんどくさいから理由をつけてこっちにいたのに、なんでこんな騒動に巻き込まれているんだ!?」
いや、予見なんてしていなかったようだ。
「……最高神、何事だろうか?」
「うーん。僕にお客さんかな? でも、君たちにも関係ありそうだよね。それよりもディラン、君の部下の処刑の神。もう少し不敬について学ばせてあげたほうがいいんじゃないかな? 今回は、何かしら起こりそうだし、不問にしておくよ」
そう言いながら、”不敬の処理ってめんどくさいんだよね”と、伸びをする最高神。
「……善処しておく」
「何事でしょう……」
テラスが小さな声でつぶやいた瞬間、扉が開いた。
「ご歓談中失礼いたします!」
様々な女神たちや使い人がなだれ込んでくる。
後方で日陰の神がにやりと笑った。
「本当にね。君たち、自分たちが何をしているかわかっているの?」
威圧感を出しながら、最高神がそう問いかける。
「はい……ただ、最高神とディラン様をお守りしたくて! その女からお離れください!」
「その女って、テラスのこと? テラスは単なる地獄の使い人だよ? 害なんてない」
「お前たちに、私のことを名で呼ぶ許可を与えた覚えはないのだが?」
絶対零度の最高神と地獄の神に、一瞬たじろぐ様子を見せたが、勇気を振り絞って奏上する彼女らは、自身の正義を全く疑っていない。
「あの、しかし、その……地獄の使い人は、魅了が使えるのです! 恋愛の神や地獄の神、さらには最高神まで魅了しようとしているのです」
「魅了……ねぇ」
「はい! 私たちは、最高神と地獄の神をお守りしたく、参りました!」
「え? 私って魅了を使えるんですか?」
空気を読めないテラスの小さな声が、響いた。
「……ははは、テラスは面白いねぇ。まぁディラン、落ち着いて」
そう言ってディランを座らせた最高神は、言葉を続ける。
「で、証拠は? 僕・の・見・立・て・では、テラスには魅了の魔法は使えないよ?」
最高神の言葉に、女神たちはざわつく。跪いて許しを請うポーズへと方向転換を行おうとする者も現れている。最高神はすべてを見ることができるのだ。最高神がないと言ったものを疑うことは、不敬となる。神々の常識だ。
「しかし、最高神がすでに魅了されている可能性もございます! わたくしたちではなく、その平凡な使い人を優先していらっしゃるなんて、その最たる証しょう……」
最高神が微笑んだ。異議を申し立てていた使い人は、その後の言葉を紡げなかった。なぜなら、微笑み一つで消滅させられていたからだ。
「美しい自分が平凡な者より優遇されないなんておかしいって? その程度の美で何を言っているの? そもそも、僕の能力を疑う者なんて……天界に必要なのかな?」
絶対的な美しさを見せる最高神。上位の神になればなるほど、人ごときでは言い表せないほど美しい。絶対的な美と権力、力に全員が押し黙る。
「事情を理解したかい? 女神たちを消すのは、事後処理が面倒だし、彼女たちは僕に不敬を働いていないからなぁ……。ディランは怒っているけど、僕の天界だ。僕の処分をさせてもらうよ? 君たち、テラスは地獄の使い人で、天界の者ではない。来訪者へのマナーは守ろうね? ということで、日陰の神以外は行っていいよ。反省を表してもらうための罰は、後で一人ひとり教えてあげるね」
「ひっ」
小さな悲鳴を上げた日陰の神以外の女神は、我先にと逃げ帰っていった。
「うーん……使い人なんて、また補充すればいいし。見た目採用については、僕はもう納得できないから、能力や善行による採用に変えてもらおうか? 見た目なんて面倒くさがらずに修正すればいいし……」
「あの、お許しを」
「ん?」
言葉を発した使い人は、消滅させられた。最高神たちを思って動いたのだから、という驕りを感じとったからだろうか?
「怒っていそうだから、使い人はディランの好きにしていいよ」
「……今まで私の動作を封じ、言葉を発せないようにしておきながら、こいつらの処分はこちらに委ねてくるのだな?」
「ごめんって。テラスは困っていた様子だったし、ディランが天界のことを口出ししてくるのは、あんまりいいことじゃないからね。これでも、かわいい弟のために譲歩したほうなんだよ? 僕だけなら、彼女たちはもう存在していないからね?」
「うーん……」
どうやって消滅させようか、とディランが呟きながら悩んでいる。零れ落ちる単語に、彼女たちは震えあがっているようだ。
「……ディラン様。彼女たちを消滅させてしまうのでしょうか?」
「ん? 私のテラスにあらぬ罪をかぶせようとしたんだよ? 魅了魔法を神に使うことは、重罪だ。地獄での肉体労働の末、消滅が妥当だよ? 地獄の使い人を貶めようとしたところも考慮して、できる限り苦しんでもらおうかと」
「実際に私が罪に問われたわけではないから、地獄での労働では、いけないでしょうか? 淀みの発生があって業務が滞っているので、人手が欲しいです……。天界と違って、地獄の使い人はなかなか補充されないではありませんか」
「うーん……」
「テラス。それは、ディランの領域だ。使い人の立場で」
「いや、最高神。確かに淀みの件で人手は不足しているんだ。テラスは現場の意見を上司に伝えただけだ。彼女たちには、地獄で働いてもらおう」
「ありがとうございます」
「ねぇディラン。彼女たちは、元人間だから、浄化ができないとすぐに消えちゃわない?」
「あの、私が言い出したことなので、都度浄化をかければ……」
「おー。テラスもなかなかえげつないことを言うね?」
「え?」
「いい案だ。テラスは、彼女たちをどこに配属したらいいと思う? やっぱり、一番人手の足りていない血の池?」
「え? あまり淀みのない執務室なのでは……?」
「わ、私は神だから、ディラン様と同じ執務室で働けますよね……」
「あ、忘れてた。今回の騒動を起こしたのは、君だよね? 日陰の神。君の審判の権限は僕だよ? ……ディラン。クロウに日陰の神の権限を承継してもらうことはできるかな? 業務は天界で何とかするからさ」
「おれ!?」
「あぁ。可能だ。天界からの賠償という意味で、クロウの神としての地位の昇進も受け取っておこう」
「手堅いねー。まぁ、二つも司るなら、昇進も必要か。書類を用意するよ。帰りに受け取っていって」
最高神の言葉に、慌てた様子で部下たちが書類の準備に走る。
「……最高神。もう少し、部下にやさしくしてやったほうがいいんじゃないか? 受け取りは後日でもいいよ?」
「今回は、仕方ないよ。……害悪は早めに消滅させたいんだけど。まぁ、あれだけ地獄に行きたがっているんだ。消滅まで地獄で使ってくれるならいいよ」
「わ、私だけじゃありません! 怠惰の神も協力しておりました!」
「ふーん……恋愛の神と相談して、普段の勤務態度も参考にして、降格させないとね」
「おれの意思は無視!?」
混乱中のクロウを横目に、話は進んでいく。
「じゃあ、神ならではの再生力を生かして、抜舌ばつぜつの見本をやってもらおうかな? 噂を流して天界を混乱させ、テラスを貶めたんだ。言葉を発することができると困るからね」
微笑みを浮かべる地獄の神と最高神の姿に、テラスとクロウは、手を取り合って震えるのだった。
「……クロウ?」
「すみません! すぐにテラスから手を離します!」
「じゃあ、ディランとテラス。またね?」
ひらひらと手を振る最高神に見送られながら、逃げ出したクロウを追いかけ、地獄への帰途に就くのであった。
「ありがとうございます」
「そこ、段になっているからね。あぁ、戻ったらケーキを作ってあげるよ」
「ディラン様。大丈夫です。緊張はしてますが、問題ありません」
地獄の神とテラス、クロウは、最高神へと地獄の淀みが発生した原因を報告しに、天界へと来ていた。テラスにいろいろと言っていた者の姿が見えるせいか、地獄の神は過保護モードへと移行していた。
「地獄の神って、あんなに素敵だったかしら?」
「元々、麗しいお姿だと思っていたけど、あの使い人が触っても平気な様子よ?」
「あの子、浄化が使えるんでしょう?」
「でも、所詮使い人の力よ?」
「麗しいわ……ディラン様」
「やっとディラン様の魅力がわかってきたのね。うっとうしい、派手な女たち。でも、あのディラン様につきまとっている女を、ディラン様の近くから追いやるためには、使えるかも……」
「俺も協力してやろうか? あいつには、うらみがあるんだよ」
「怠惰の神」
いそいそとテラスの面倒を見て、エスコートする地獄の神の姿に、天界のファンが増えたようであった。
「恋愛の神といい、ディラン様といい、あのテラスっていう平凡な子のどこがいいのかしら……」
「そうよね! 色でも使ってるんじゃない?」
「えー。あの子の色なんて、神々に響くと思う?」
「浄化ではなく、魅了が使えるとか?」
「ありえるーー」
「そうよ。ディラン様があんな女を気に入っているはずはないわ。魅了を使っているのよ」
そう確信した日陰の神の行動は、早かった。日陰の神の領域 陰を使って、テラスの陰口や噂を広げていく。
「よくきたな、我が弟とテラス!」
「最高神にご挨拶を申し」
「いいって! そういう堅苦しいことは!」
「最高神。今回の地獄の騒動、大変申し訳なかった」
「いいよいいよ。地獄が淀んだだけで、天界への被害はなかったからね」
へらへらとしているようではあるが、天界への影響があった場合、どんなことが起こるのか……想像すらつかない威圧感を醸し出している。
「これが最高神のオーラ……」
思わず、テラスの口からこぼれ落ちた単語に、最高神が喜びの表情を浮かべる。
「え!? そんなオーラあった? 照れるなー。本当テラスはいい子だね」
「ありがとうございます」
「天界の僕のところで、働いちゃう?」
「え、あの、ありがたいお言葉なのですが」
「最高神?」
「ごめんごめん。冗談だよ。ディラン、そんな怖い顔しないでよ?」
地獄の神を落ち着かせながら、最高神が真剣に言葉をつなぐ。
「……ちょっと面倒くさいことが起こっているようだから、気をつけて帰ってね。まぁ、地獄の使い人に何かするようだったら、ディランの権限で……って、うわぁ。きたぁ」
めんどくさそうな様子を見せる最高神に、テラスは首を傾げる。
扉の前の見張り役たちが騒がしい。
「今、ディラン様が面会中だぞ! お前ら、失礼だと思わないのか!?」
扉の前にいるはずのクロウの大声が響く。
「いや、俺は扉の前で警戒しておくよ」と言って、最高神への謁見を避けたクロウは、この事態を予見していたのであろうか?
「なんだよ。最高神に謁見するなんてめんどくさいから理由をつけてこっちにいたのに、なんでこんな騒動に巻き込まれているんだ!?」
いや、予見なんてしていなかったようだ。
「……最高神、何事だろうか?」
「うーん。僕にお客さんかな? でも、君たちにも関係ありそうだよね。それよりもディラン、君の部下の処刑の神。もう少し不敬について学ばせてあげたほうがいいんじゃないかな? 今回は、何かしら起こりそうだし、不問にしておくよ」
そう言いながら、”不敬の処理ってめんどくさいんだよね”と、伸びをする最高神。
「……善処しておく」
「何事でしょう……」
テラスが小さな声でつぶやいた瞬間、扉が開いた。
「ご歓談中失礼いたします!」
様々な女神たちや使い人がなだれ込んでくる。
後方で日陰の神がにやりと笑った。
「本当にね。君たち、自分たちが何をしているかわかっているの?」
威圧感を出しながら、最高神がそう問いかける。
「はい……ただ、最高神とディラン様をお守りしたくて! その女からお離れください!」
「その女って、テラスのこと? テラスは単なる地獄の使い人だよ? 害なんてない」
「お前たちに、私のことを名で呼ぶ許可を与えた覚えはないのだが?」
絶対零度の最高神と地獄の神に、一瞬たじろぐ様子を見せたが、勇気を振り絞って奏上する彼女らは、自身の正義を全く疑っていない。
「あの、しかし、その……地獄の使い人は、魅了が使えるのです! 恋愛の神や地獄の神、さらには最高神まで魅了しようとしているのです」
「魅了……ねぇ」
「はい! 私たちは、最高神と地獄の神をお守りしたく、参りました!」
「え? 私って魅了を使えるんですか?」
空気を読めないテラスの小さな声が、響いた。
「……ははは、テラスは面白いねぇ。まぁディラン、落ち着いて」
そう言ってディランを座らせた最高神は、言葉を続ける。
「で、証拠は? 僕・の・見・立・て・では、テラスには魅了の魔法は使えないよ?」
最高神の言葉に、女神たちはざわつく。跪いて許しを請うポーズへと方向転換を行おうとする者も現れている。最高神はすべてを見ることができるのだ。最高神がないと言ったものを疑うことは、不敬となる。神々の常識だ。
「しかし、最高神がすでに魅了されている可能性もございます! わたくしたちではなく、その平凡な使い人を優先していらっしゃるなんて、その最たる証しょう……」
最高神が微笑んだ。異議を申し立てていた使い人は、その後の言葉を紡げなかった。なぜなら、微笑み一つで消滅させられていたからだ。
「美しい自分が平凡な者より優遇されないなんておかしいって? その程度の美で何を言っているの? そもそも、僕の能力を疑う者なんて……天界に必要なのかな?」
絶対的な美しさを見せる最高神。上位の神になればなるほど、人ごときでは言い表せないほど美しい。絶対的な美と権力、力に全員が押し黙る。
「事情を理解したかい? 女神たちを消すのは、事後処理が面倒だし、彼女たちは僕に不敬を働いていないからなぁ……。ディランは怒っているけど、僕の天界だ。僕の処分をさせてもらうよ? 君たち、テラスは地獄の使い人で、天界の者ではない。来訪者へのマナーは守ろうね? ということで、日陰の神以外は行っていいよ。反省を表してもらうための罰は、後で一人ひとり教えてあげるね」
「ひっ」
小さな悲鳴を上げた日陰の神以外の女神は、我先にと逃げ帰っていった。
「うーん……使い人なんて、また補充すればいいし。見た目採用については、僕はもう納得できないから、能力や善行による採用に変えてもらおうか? 見た目なんて面倒くさがらずに修正すればいいし……」
「あの、お許しを」
「ん?」
言葉を発した使い人は、消滅させられた。最高神たちを思って動いたのだから、という驕りを感じとったからだろうか?
「怒っていそうだから、使い人はディランの好きにしていいよ」
「……今まで私の動作を封じ、言葉を発せないようにしておきながら、こいつらの処分はこちらに委ねてくるのだな?」
「ごめんって。テラスは困っていた様子だったし、ディランが天界のことを口出ししてくるのは、あんまりいいことじゃないからね。これでも、かわいい弟のために譲歩したほうなんだよ? 僕だけなら、彼女たちはもう存在していないからね?」
「うーん……」
どうやって消滅させようか、とディランが呟きながら悩んでいる。零れ落ちる単語に、彼女たちは震えあがっているようだ。
「……ディラン様。彼女たちを消滅させてしまうのでしょうか?」
「ん? 私のテラスにあらぬ罪をかぶせようとしたんだよ? 魅了魔法を神に使うことは、重罪だ。地獄での肉体労働の末、消滅が妥当だよ? 地獄の使い人を貶めようとしたところも考慮して、できる限り苦しんでもらおうかと」
「実際に私が罪に問われたわけではないから、地獄での労働では、いけないでしょうか? 淀みの発生があって業務が滞っているので、人手が欲しいです……。天界と違って、地獄の使い人はなかなか補充されないではありませんか」
「うーん……」
「テラス。それは、ディランの領域だ。使い人の立場で」
「いや、最高神。確かに淀みの件で人手は不足しているんだ。テラスは現場の意見を上司に伝えただけだ。彼女たちには、地獄で働いてもらおう」
「ありがとうございます」
「ねぇディラン。彼女たちは、元人間だから、浄化ができないとすぐに消えちゃわない?」
「あの、私が言い出したことなので、都度浄化をかければ……」
「おー。テラスもなかなかえげつないことを言うね?」
「え?」
「いい案だ。テラスは、彼女たちをどこに配属したらいいと思う? やっぱり、一番人手の足りていない血の池?」
「え? あまり淀みのない執務室なのでは……?」
「わ、私は神だから、ディラン様と同じ執務室で働けますよね……」
「あ、忘れてた。今回の騒動を起こしたのは、君だよね? 日陰の神。君の審判の権限は僕だよ? ……ディラン。クロウに日陰の神の権限を承継してもらうことはできるかな? 業務は天界で何とかするからさ」
「おれ!?」
「あぁ。可能だ。天界からの賠償という意味で、クロウの神としての地位の昇進も受け取っておこう」
「手堅いねー。まぁ、二つも司るなら、昇進も必要か。書類を用意するよ。帰りに受け取っていって」
最高神の言葉に、慌てた様子で部下たちが書類の準備に走る。
「……最高神。もう少し、部下にやさしくしてやったほうがいいんじゃないか? 受け取りは後日でもいいよ?」
「今回は、仕方ないよ。……害悪は早めに消滅させたいんだけど。まぁ、あれだけ地獄に行きたがっているんだ。消滅まで地獄で使ってくれるならいいよ」
「わ、私だけじゃありません! 怠惰の神も協力しておりました!」
「ふーん……恋愛の神と相談して、普段の勤務態度も参考にして、降格させないとね」
「おれの意思は無視!?」
混乱中のクロウを横目に、話は進んでいく。
「じゃあ、神ならではの再生力を生かして、抜舌ばつぜつの見本をやってもらおうかな? 噂を流して天界を混乱させ、テラスを貶めたんだ。言葉を発することができると困るからね」
微笑みを浮かべる地獄の神と最高神の姿に、テラスとクロウは、手を取り合って震えるのだった。
「……クロウ?」
「すみません! すぐにテラスから手を離します!」
「じゃあ、ディランとテラス。またね?」
ひらひらと手を振る最高神に見送られながら、逃げ出したクロウを追いかけ、地獄への帰途に就くのであった。
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