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エピソード
「ジュリエット! お前との婚約は破棄して、ここにいるメアリーと結婚することにする!」
妹メアリーを抱き寄せたわたくしの婚約者ジョセフ第一王子がそう宣言します。
どうして、メアリーが裏切るなんて、可愛がってきた、かわいいかわいい妹の裏切りに、心が焼けるように痛みます。
「なん……で」
わたくしの言葉は、言葉の体をなしません。
「ジュリエットがメアリーをいじめ抜いた証拠はここにある! 実の妹であるメアリーを、」
記憶にもない冤罪が並びます。メアリーのことは可愛がってきたつもりです。
「ごめんなさい。お姉様」
そう言ったメアリーが歪に笑うのを見て、わたくしの世界は真っ暗になりました。
……ふーん、これ。あたし、転生でもしたのかしら? 妹に裏切られたお姉ちゃんがショックで倒れそうになったところで、前世のあたしの記憶を思い出したって? 単なる平凡OLにすぎないあたしが、この場をねぇ……仕方ないから牛耳ってやりましょうか!
「……身に覚えがないわ。証拠はあるの?」
突然変わった口調に、王子様が困ったような表情を浮かべた。
「証拠もないのに人を疑うなんて、腐ってるんじゃないかしら」
そう言って、あたしは後ろを向いて出ていこうとする。その後ろ姿を王子様が呼び止める。
「どこにいく?!」
「婚約? 浮気者なんてごめんよ。そんなの破棄でもなんでもいいわ! なしなし! あんたのことも、今後は妹と思わないから。普通、姉の婚約者を寝取らないでしょ」
ぶつぶつ言いながら、あたしが出ていくと、メイド服姿の人が走ってくる。あー……記憶にある。この子のメイドだわ。
「お嬢様。いかがなさいます?」
「とりあえず、領地にでも引っ込んどく? 病気とかでいけるっしょ!」
そうして、あたしはメイドと二人領地に引っ込んだ。
「……ジュリエット! いつまで領地にいるんだ!」
「え、あれがお父様? わっかーい! ていうか、妹が悪いのに、あたしを怒る感じ?」
領地まで怒りにきたお父様も、あたしの口調を聞くと頭を抱えて帰っていく。医師も口々に言う。
「精神的に疲れておいでです」
「ご令嬢はかなりショックを受けたのでしょう。自分の生存価値に疑問を感じるくらい。そのせいで別人格が形成されたのでは?」
「悪霊がついたのかもしれません。教会にご依頼ください」
異世界転生だっつーの。そう思いながら、前世を思い出そうとするが、はっきりと思い出せない。ただ、ショックを受けたせいで、前世の人格のあたしが……え、医師の言うことって、当たってる?
自分の存在に不安を感じながら、仕方なく慣れていく。一つひとつ。
「ジュリエット。遠方の医師に診てもらいなさい」
お父様の指示は絶対だったようで、いくら拒否しても最終的に馬車に押し込まれた。メイドがいくらあたしを守ろうとしたところで、無駄だった。見捨てるくらいならついていきます、と震えながら言ったこの子は、きっとどこに連れて行かれるか知っていた。
『悪霊付き療養施設』
そんな文言が書かれた施設に送り込まれた。施設内は想像以上に快適で、下水も完備。ウォシュレットから温水の出るシャワー、お風呂。完全に前世の記憶がある人が作った施設だ。
「ここはね、少し精神的に疲れた人と、まるで他人に身体を乗っ取られたような症状の人がいるところでね」
そう説明する施設長の髪の色は見覚えがあり、目に優しい黒色だった。
「この髪が悪魔付きって言われる所以でね」
優しいおじさんという感じの施設長。あたしは思わず口を挟んだ。
「その髪色、見ていて落ち着きます」
「……おや。そうかい」
そう言った施設長は、あたしの後ろにいるメイドをチラッと見る。
「この子は天涯孤独な身だからって、あたしについてきてくれたんです」
「ふーん……じゃあ、いいかな。ここから先は一度入ったら決して出られないからね」
施設長の言葉と共に開かれた扉の先には、街が広がっていた。見慣れた、少し田舎な街。あぁ、こここそ我が故郷。田んぼが整えられ、魔術具製だというトラクターも走っている。小規模な街だから、車はないと施設長が説明し、代わりに電動キックボードのようなものがあちこちに置いてある。
「和食屋さんはこっち、中華があそこでイタリアンにフレンチ、ファミレス風からラーメン焼肉。なんでもあるよ」
ありえない品揃えに、思わず施設長を振り向く。笑った施設長が教えてくれた。
「私は転生者ではなく、転移者でね……この世界を良くしようと向こうの知識をいろいろ応用しようとしたんだけど、怖がられちゃって……仕方なく、誰も管理していないここを開墾して、いろいろ作って、仲間を集めようと思って、悪魔付きとか悪霊付きとか言われる転生者が苦労なく暮らせる街を作ったんだよ」
あちこちでカラフルな頭の人が楽しそうに暮らしている。あたしは幸せになったが、巻き込んでしまったメイドは問題ないだろうか。ちらっと振り向くと、目をキラキラさせている。何がそんなに興味を引いたのかわからないが、とりあえず和食でも食べさせてみるか。
「え、生肉ですか?」
「絶対旨いから。後悔させないから。この牛肉のレアな部分が旨いんだって!」
和牛風ステーキには目を輝かせ。
「な、生魚!? 餌じゃないですか!」
「騙されたと思って食べてみて? ほら、寿司っていうの」
「ん! おいしすぎます! 何これ!」
寿司に感動して食べすぎる。
和食でも洋食でもいちいち驚いてオーバーなリアクションをするメイドを見るのを楽しみながら、あたしは今日も『悪霊付き療養施設』で平和に暮らしていくのだった。
妹メアリーを抱き寄せたわたくしの婚約者ジョセフ第一王子がそう宣言します。
どうして、メアリーが裏切るなんて、可愛がってきた、かわいいかわいい妹の裏切りに、心が焼けるように痛みます。
「なん……で」
わたくしの言葉は、言葉の体をなしません。
「ジュリエットがメアリーをいじめ抜いた証拠はここにある! 実の妹であるメアリーを、」
記憶にもない冤罪が並びます。メアリーのことは可愛がってきたつもりです。
「ごめんなさい。お姉様」
そう言ったメアリーが歪に笑うのを見て、わたくしの世界は真っ暗になりました。
……ふーん、これ。あたし、転生でもしたのかしら? 妹に裏切られたお姉ちゃんがショックで倒れそうになったところで、前世のあたしの記憶を思い出したって? 単なる平凡OLにすぎないあたしが、この場をねぇ……仕方ないから牛耳ってやりましょうか!
「……身に覚えがないわ。証拠はあるの?」
突然変わった口調に、王子様が困ったような表情を浮かべた。
「証拠もないのに人を疑うなんて、腐ってるんじゃないかしら」
そう言って、あたしは後ろを向いて出ていこうとする。その後ろ姿を王子様が呼び止める。
「どこにいく?!」
「婚約? 浮気者なんてごめんよ。そんなの破棄でもなんでもいいわ! なしなし! あんたのことも、今後は妹と思わないから。普通、姉の婚約者を寝取らないでしょ」
ぶつぶつ言いながら、あたしが出ていくと、メイド服姿の人が走ってくる。あー……記憶にある。この子のメイドだわ。
「お嬢様。いかがなさいます?」
「とりあえず、領地にでも引っ込んどく? 病気とかでいけるっしょ!」
そうして、あたしはメイドと二人領地に引っ込んだ。
「……ジュリエット! いつまで領地にいるんだ!」
「え、あれがお父様? わっかーい! ていうか、妹が悪いのに、あたしを怒る感じ?」
領地まで怒りにきたお父様も、あたしの口調を聞くと頭を抱えて帰っていく。医師も口々に言う。
「精神的に疲れておいでです」
「ご令嬢はかなりショックを受けたのでしょう。自分の生存価値に疑問を感じるくらい。そのせいで別人格が形成されたのでは?」
「悪霊がついたのかもしれません。教会にご依頼ください」
異世界転生だっつーの。そう思いながら、前世を思い出そうとするが、はっきりと思い出せない。ただ、ショックを受けたせいで、前世の人格のあたしが……え、医師の言うことって、当たってる?
自分の存在に不安を感じながら、仕方なく慣れていく。一つひとつ。
「ジュリエット。遠方の医師に診てもらいなさい」
お父様の指示は絶対だったようで、いくら拒否しても最終的に馬車に押し込まれた。メイドがいくらあたしを守ろうとしたところで、無駄だった。見捨てるくらいならついていきます、と震えながら言ったこの子は、きっとどこに連れて行かれるか知っていた。
『悪霊付き療養施設』
そんな文言が書かれた施設に送り込まれた。施設内は想像以上に快適で、下水も完備。ウォシュレットから温水の出るシャワー、お風呂。完全に前世の記憶がある人が作った施設だ。
「ここはね、少し精神的に疲れた人と、まるで他人に身体を乗っ取られたような症状の人がいるところでね」
そう説明する施設長の髪の色は見覚えがあり、目に優しい黒色だった。
「この髪が悪魔付きって言われる所以でね」
優しいおじさんという感じの施設長。あたしは思わず口を挟んだ。
「その髪色、見ていて落ち着きます」
「……おや。そうかい」
そう言った施設長は、あたしの後ろにいるメイドをチラッと見る。
「この子は天涯孤独な身だからって、あたしについてきてくれたんです」
「ふーん……じゃあ、いいかな。ここから先は一度入ったら決して出られないからね」
施設長の言葉と共に開かれた扉の先には、街が広がっていた。見慣れた、少し田舎な街。あぁ、こここそ我が故郷。田んぼが整えられ、魔術具製だというトラクターも走っている。小規模な街だから、車はないと施設長が説明し、代わりに電動キックボードのようなものがあちこちに置いてある。
「和食屋さんはこっち、中華があそこでイタリアンにフレンチ、ファミレス風からラーメン焼肉。なんでもあるよ」
ありえない品揃えに、思わず施設長を振り向く。笑った施設長が教えてくれた。
「私は転生者ではなく、転移者でね……この世界を良くしようと向こうの知識をいろいろ応用しようとしたんだけど、怖がられちゃって……仕方なく、誰も管理していないここを開墾して、いろいろ作って、仲間を集めようと思って、悪魔付きとか悪霊付きとか言われる転生者が苦労なく暮らせる街を作ったんだよ」
あちこちでカラフルな頭の人が楽しそうに暮らしている。あたしは幸せになったが、巻き込んでしまったメイドは問題ないだろうか。ちらっと振り向くと、目をキラキラさせている。何がそんなに興味を引いたのかわからないが、とりあえず和食でも食べさせてみるか。
「え、生肉ですか?」
「絶対旨いから。後悔させないから。この牛肉のレアな部分が旨いんだって!」
和牛風ステーキには目を輝かせ。
「な、生魚!? 餌じゃないですか!」
「騙されたと思って食べてみて? ほら、寿司っていうの」
「ん! おいしすぎます! 何これ!」
寿司に感動して食べすぎる。
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