魂レベルでビッチです～ヤンデレ彼氏に殺されて悪役令嬢に転生したらしいので、処刑上等で自由な異世界ライフを楽しみます！～

不埒な気晴らし

3

　ジョーに無理を言って少しだけ二人の時間を作ってもらう。不平不満を言うロアシュにはジョーとのデートをセッティングする以前の約束を持ちだして、席を外してもらった。
　レント家の離れの一室を借りて、二人きりで話をしようよ、と見え透いたことを言ってジョーを呼び出す。

　インタビュアーさながらに、ジョーの身の上話を聞いてみれば、フルーティオ国に追放されてから、弟達を連れてソル国に戻ってきたらしい。それぞれ母親は違うけれども、身を寄せ合って育ってきた弟達はかけがえのない存在だ、とジョーは言う。
　屈強な見た目に熱い心を持つジョーは、文句なしのナイスガイだ。

「も～中身までタイプ！ジョー、約束通り、私と遊んでよ？」
　とやや強引に抱きつけば、長いため息をついて、
「好きにしろ」と言った。

　投げやりにチュニックを脱ぐジョーの姿を見つめる。胸から腹部にかけて隆起するきめの細かい筋肉は、垂涎ものだ。
　私が片手で自分のドレスの留め具を外していけば、子どもをなだめるようにジョーは言う。

「ご婦人が破れかぶれで気安く身体を投げだすのは、いただけないな」
「そんなことないってば。投げ出すわけじゃないよ、ジョーとワンセッションしてみたいってだけ」
　いぶかし気にこちらを見たきり、ジョーは何も言ってこなくなった。
　この世界に来て、初めての体験だ、と思うとワクワクしてくる。乙女ゲームの中のメンズってどんな感じなんだろ？
　けれども、ドレスの前がはだけた瞬間に、胸にツキンツキンと痛みを感じはじめるのだ。

　――――な、なんだろ、胸が痛い。
　突き刺さった刃物の痛みが鮮烈に蘇ってきた。
「ジョーは、刺さないよね？」
　と恐々尋ねたら、
「なるほど。誰かのことを思い出しているなら、やめておいた方がいい」
　と端的に指摘し、ジョーは私のドレスの留め具を閉じていく。

「え、ちょっと待ってよ！まだダメだって決まったわけじゃ……。大丈夫だよ！」
「捕食される子ウサギみたいに、フルフルと震えていて、どこが大丈夫なんだ？それに、手負いの華奢な身体に鞭うたせるつもりはない」
　ジョーは右手を見やる。ほどんと動かくなっている腕に真っ先に気づいたのは、ジョーだ。

「ジョーのことが怖いわけじゃないよ、ただトラウマがあるんだよ」
　ランスの顔が頭に浮かぶ。だんだんと記憶が薄れてきているけれど、私は左胸を刺されて死んでいるのだ。
　そう、ランスに似た彼によって。
　脳裏に浮かぶのは切なそうに眉根を寄せる彼だ。今ではなぜかそれがランスとダブって見えていた。

「誘っておいてベッドの上で他の男のことを考えるのは、マナー違反だろ。その程度のことも、教わって来ていないのか？」
　そういってジョーからは皮肉られてしまう。
　この世界に来て、貞操を守ってきているうちに、とうとう焼きが回ってしまったらしい。　
　ベッドタイムを恐いなんて思った記憶はないのに、震えてきてしまうのだ。

「これじゃなんだし、ジョーの方はフィニッシュ決めとこうか？」
　私が視線を下方に向ければ、ジョーには、
「間に合っている。ご婦人の手をわずらわせるには及ばない」
　と一刀両断されてしまう。
「身持ちが堅いんだね」
「お前が本気かどうかくらいは分かるさ。奔放なご婦人の気休め遊びに巻き込まれて、まんまと毒牙にかかってやるつもりはない」
「うわぁ～おっとなぁ！誘われてもちゃんと断る、そのメンタルいいよ。浮気しなそうだし、本命彼氏として推せる！友達に紹介したいくらい！」
「断られてかえって喜んでいる。お前はやっぱり変な奴だと思う」
　とジョーが笑う。

　厳めしい印象がフッと和らぐ瞬間を目撃して、キュンッとしてきた。
　うわ、久々に身体が沸き立つ感じがある。ムラッとしかけた私が、
「ジョー、やっぱり……私と」
　口にした瞬間に、窓枠が飛び散った。ジョーが即座に私の前に立ちはだかり、木片を腕で払いのける。迎えに参りました、という声と共にドアが弾き飛んだ。魔法の気配があった。