184 / 312
調合室のお誘い
3
しおりを挟む身支度を整えて、ぜひ、また……、と告げて名残惜しそうにしながらキャディが出て行く。へとへとになりながら部屋を出れば、見知った顔と廊下で鉢合わせた。
「相変わらず、お盛んだなぁ」
とにやにやとこちらを見やりながら、顎に手をあて見定めてくる。
「王子様がこんなとこにいて、いいわけ?」
私が言えばグレーアッシュの髪をかきあげて、
「いいんだよ、見聞を広めるのも役目だし。それよりも心底尊敬するよ、ラッキーのその絶倫具合にはさ」
とロアシュは冷やかし具合に言う。
絶倫……。
処女な上に、男でもない私にとっては喜んでいいのか悪いのか、分からない言葉だ。
「確かにぃ、ロアシュは早くって有名だからなぁ。そりゃ尊敬するだろうね」適当に返してみれば、はははっなんで知ってるんだよ、と笑う。
今のロアシュは男友達としてはかなりノリの合う相手だ。
「オレ達の計画がいよいよ実るだろ?国を乗っ取れたら、ラッキーはまず何がやりたい?」
アカデミーに入学してからあっという間に年月が経っていた。
もうそろそろ、私が最初に転生した時期になるはずだ。けれど、事情はまったく違っている。
「一番やりたいことは、そうだなぁ。人探しかもしれない」
「へぇ、ロマンチックなことで」
とロアシュは冷やかす。
「ロアシュはどうせ、酒池肉林かトルコ風呂かな?大量の美女とよろしくしたいんだよね。君主色を好みまくり~みたいな感じ?」
「ご名答。でもま、顔だけなら、ラッキーはドンピシャのタイプだな。かなりの美女顔だよ」
私の顎先に指をあててきたので、頭を振って払う。ロアシュは笑った。
「冗談冗談、友達に手は出さないわ」
と冗談めかして言うけれども、どこか視線に鋭さが残っている。性別を疑われている?とこの頃は思うのだ。
児童教育課程を出て、同室を拒否し始めたあたりから、ロアシュの目線が怪しい。
身体のラインをコルセットで隠してみても、そろそろ限界だ。当然のことながら、女の子ならではの現象もあるので、期間限定でリーブル家に帰宅していた。
ギリアン兄の冷ややかな眼差しと言ったらない。
「ラッキーを名乗って、いつまで、おふざけをしているつもりだ?お前は曲がりなりにもリーブル家の令嬢だ」
と言うのだった。
アカデミーで児童課程を卒業した子どもたちは、学問を納める者だけが在学し、ほとんど卒業する。
その後成人までの課程は任意だ。ほとんどの者が、それ以前に家業を継ぐか、領主に雇われるかあるいは婚姻の準備に入るのだった。
ギリアン兄はさっさとアカデミーを出て、リーブル家に戻っている。
私もあと一月もせずにアカデミーを卒業することになっていた。
在学中に魔法力偏重型の国政を変え、国政投票でロアシュを王子に持ちあげることに成功している。
ソル国には王子が不在だ。
王は亡き王妃以外との間に子どもを持たずに、側室を迎えることも拒否しており、後継者がいなかったらしい。王が亡き今、国民の支持を集めた王子が、この国を乗っ取ることになる。
そう、私は今回、王を倒していた。
今回の私は悪役令嬢シュシュであることをやめており、悪役騎士、ラッキーとして生きることにしたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる