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裁き
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しおりを挟む虎煌と虎雨は堅牢な柵のついた馬車に乗るように、静を誘導する。
柵は気を封じ込める素材で作られているようだ。気を放とうとしても、力がまったく入らない。一刻ほどで乾宮に着き、侍女に身体を調べられてから、静は乾宮の牢に通された。
虎煌からは、
「明後日、裁判を執り行う。それまではここで大人しく過ごしているといい」
と言われる。
寝台や厠、食事台など最低限の設備の揃っている簡素な部屋だ。本来ならば不本意な拘留だが、静は初めてみた牢の部屋に新鮮さを抱き、興味を引かれる。何事も面白がれるのが静の美点だ。明り取りの窓には柵がはまっており、当然その柵にも、気を封じ込める素材を使用していた。
一通り触って確認した後で、静は寝台の上で一息つく。
虎煌と対峙し、元より相剋の関係とはいえ、ここまで自分が無力だとは、と静は思った。虎煌は恐らく、麒鞠にまつわる婚外交際のことも、麒鞠の秘密も知っているのだ。
静がしばし考えに耽っていると、
「いつ俺が、お前と婚外交際で子を成した?」
と声が聞こえてくる。
げ、と静は喉の奥で声を漏らした。柵の向こう側に虎牙が姿を現す。
「虎雨様から聞いたのね。それはもちろん苦し紛れの冗談。巻き込んだのは謝ります」
静は少しばかり気まずい思いで、虎牙を見やるが、一歩の虎牙は腕を組み、顎に手を当てまるで珍獣を見るかのように静を見てくるのだった。
「飼いならせない暴れ龍でも、牢獄に放り込まれ着物が乱れてれば、中々どうして、淫らな印象になるな」
「な、何をバカなこと。そんなの趣味じゃないでしょ」
「それはどうかな。まあ、それはともかく。飛鳥が麒鞠王子后の卵生は、俺の子だというものだから、さすがに噂を聞きつけた者たちは焦ったようだ。かねてより、碧羅の第二姫とは懇意であった、子を成しても問題ないだろう、と言う口振りが話題だ。俺は、あの堅物の飛鳥がとうとう羽目を外してくれたのか、期待したものだ」
「飛鳥もまた、妙な期待をされたものね」
飛鳥はかなり渋っていたが、役割を果たしてくれたらしい。
「だが、卵は偽物だろう。飛鳥は俺を信頼してくれたようだ。教えてくれたよ」
「飛鳥の行動は引き金の一つ。それで鬼が出るか蛇が出るかは、私にも分からない」
「言っただろう。俺達には遺恨はない」
「今の状況では、なんとも言えないけれど。お互いにどこまでの情報を得ているのか、確認したわけではないから」
飛鳥とは違い、静は虎牙のことを完全に信じているわけではない。古くからの友人ではあるが、今回ばかりは、白露に疑いの目を向けずにはおけないからだ。
「疑われたものだな」
「麒鞠王が呪を受けたのは知っている?」
「ああ。しかし、ご無事だ」
「それが本当なら、よかったと言えるのだけれど」
「信用できないか」
「相剋の関係ゆえ、そして金気のとても強い乾宮で行われるすべては、私にとっては公平とは言い難い」
「どうすれば信用されるんだ?」
「ここから出してくれる?」
無理を承知で言ってみると、虎牙は笑う。
「それじゃあ、静龍。ここで俺と寝れるか?卵生と胎生の婚姻は難儀とはいえ、前例は山ほどある。お前なら容易に耐えられるだろう?」
すっかりからかいの顔で言うのだ。
「ほ、本意でないことを言わないで。無理に決まっているでしょう!」
「それじゃあ同じだ。無理な相談ってものがある」
「いやな冗談」
「友のよしみで一つ情報をやろう。一連の騒動には二つの流れがあるようだ。根を奪い、五家の安寧を乱す流れと、そして麒鞠王在位の権利を求める流れだ。それぞれ恐らく首謀者は異なるが、鍵となるものは同じ可能性がある」
「抽象的すぎる。何が言いたいの?」
「婚外交際」
「それがなにか」
「麒鞠は難儀なものだな。愛するものがいたとて、自らの手では何もできない。俺ならば耐えられない」
虎牙は芝居ぶりながら、肩をすくめる。虎牙がどの程度聞き及んでいるのかは分からない。
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