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しおりを挟む朔耶は亮に連絡を取ろうとする前に、事務室に行くと、妙に騒がしさを感じた。
何があったんですか?と事務局の職員に聞いてみると、
「登其学が、ランクバトルを辞退すると明言したので、問い合わせが多いんです」と言う。
「え、何で辞退を?」
「ペアを組まないと言っているようなので、必然的にランキングバトルには不参加です」
「な」
よりによって、学が辞退するなんて信じられなかった。ランキングバトルに不参加になれば、退学処理の可能性もある。
モバイルに連絡しても反応がないので、朔耶は急いで学の部屋に向かう。
ノックをしても反応がないので、不在かと思えば、ドアは開いていた。
ドアを開けて中に入ると、中には書類が散らばっている。
拾ってみてみると、医療院の発行した書類のようで、朔耶の矯正措置についての詳細な情報が書かれていた。
「なにこれ」
これまで学の部屋で、こんな書類は見たことはない。
他の書類を見てみても、全て朔耶の構造やこれまでの処置に関する情報だった。朔耶が戦争や内紛に関するテレブラフのコピーもある。
昔、初めて会ったときに言われたことを思い出した。
けれどまさか本当だったとは思わない。その後の学の振る舞いに、そんな生真面目さを感じたことはなかったからだ。
ぼんやりと眺めていたら、ドアが開く音がした。
「何しに来たんだよ」
振り返る間もなく、後ろから抱きすくめられた。これはプラグインするときの距離感で、いつもきく声だから、誰なのかは見るまでもなく分かる。
「学、何でランクバトル辞退したの」
「朔耶がパートナー解消申請出したからだろーが」
そのまま寄りかかられる。重い、と言って朔耶は振り払おうとするが、離してくれない。
「名都とペアを組むんじゃないの、貞操措置をするんでしょ?」
人を変えて、同じことを聞きつづける自分はバカみたいだな、と朔耶は思った。けれど、学が朔耶とのペアを解消したいと言っている、と聞いた覚えはたしかにあったのだ。
「は?何で、境と組まなきゃなんないんだよ」
「だって、学は名都ともプラグインしたんでしょ?だから私とパートナー解消したいって話をしていたって。それに貞操措置の話をしたって聞いたけど」
朔耶の言葉に、学は何も言わない。それをイエスの返事だと思った朔耶は、
「なら、名都とペアを組めばいいのにと思うのは普通のことだよ」
と続けたら、延髄のピットに指をあてがわれた。
指で触られるゾクゾクッと背筋に電気が走る。
「朔耶お前バカじゃねぇの、よりによって特例の兄貴をペアにしようなんて。プラグインしてんのは、お前じゃん」
なんで亮とのことを知っているんだ、と朔耶は思う。
「は?学が先に名都に手を出すから悪いんでしょ?他の人とは、好き放題しててくれてもいいけど、名都だけはやめてほしかった」
「手を出すってなんだよ」
「手を出すは、そりゃあ。ペアリング向上のためのアレコレで。恋愛関係にあるんじゃないの?」
「なんだそれ。兄貴に手を出されてたのは、朔耶だろ。核へのプラグインを許すって」
「責任転嫁しない欲しい。学が名都とプラグインしたから、ペア解消した、だから私はペアを探した。それが正確な流れだし」
長いため息が背後から聞こえてから、
「バーカ、バァーカ」と言われる。
「は?」
よりにもよって子どもレベルの悪口を言われるとは思わなかった。腹が立った朔耶は後頭部を思い切り後ろに下げ、学の肩口にあてる。
「いて!朔耶てめぇ!」
そして、隙をついて学から離れた。
「バカバカってうるさい!引く手あまたの天才パペッティア様なら、ペアも選び放題じゃん!気まぐれにバトルを辞退なんかするのは、なんかのポーズなわけ?」
「うるさい」
「こっちは必死でマスターを探してるんだから」
「解消申請出したからだろ、バカ」
「誰が出させたんだよ!バカ。学が私と解消するって言ったのはたしかでしょ?それに貞操措置の話を名都にしたって、そう聞いた」
朔耶が問い詰めると、学は唇を曲げ、気まずそうに歯をかみ合わせる。
ほらみろ、とヒートアップした朔耶は思ったが、学の口から出たのは想像とは違った言葉だった。
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