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編み目の契り

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 お酒を飲んではいけない。大抵それで恋愛を失敗してきている。万理との出会いもお酒の席だし、その前も、その前もお酒なしには人と付き合っていない。

 素面では――――。
 この裏稼業がある限り、人と付き合うことなんて出来ないと思う。関係が深まって、真正面から見つめ合ってしまえば、見えてしまうから。

 その人の喜びや挫折、興奮や絶望や、その他のもろもろが。その人の中にある深く刻まれた記憶を見てしまうと、そんなもの背負えない、といつも思ってしまう。
 万理には見えなかった。それは彼がきっと、その日暮らしだからだ。だから、万理との関係が健全じゃないと分かっていても、彼を捨て置けなかったのだ。

 私は今のところ分かっている情報をまとめておく。そして、本局への報告書の他に、自分用のデータを作っていくことにした。本局に持っていってしまえば、その情報いかんによっては、もみ消される可能性もあるからだ。本局所属の挑文師が、自分たちに都合の悪い痕跡を調整するかもしれない。

 私はその作業を終えた後で、表の仕事の作業をして、シャワーを浴びに行った。
 寝室は別々だ。そしてそれぞれに自室がある。
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