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編み目の契り

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 シャワーを浴びた後、リビングで電子書籍を読んでいた融に、
「当麻さんが美景さんの寝室に入り込みたがるので。防止のために、今日から寝室を一緒にしますか?」
 と言われて私は思わずのけぞってしまった。

「それじゃ、よく眠れません」と私が言えば、「寝かせません」と融は言う。冷や汗が出てきてしまった。
「冗談はやめましょう?」
「結婚した以上、俺は美景さんと運命共同体だと思っています。美景さんも恋愛経験はあっても。編み込む契りは、さすがにしたことはありませんよね?」
「もちろんです。挑文師と付き合ったことなんて、ありませんし」
「一編み、一編み。ささやかな編み目でも構いません。少しずつ、織り重ねていきませんか?」
「それは、その。世間一般の契りも含まれていますか?」

 融の言葉の意味は分かったけれど、しっかりと認識をすり合わせていかないと、後々困ったことになるかもしれない。
 私がおずおずと尋ねると、融はくすくすと笑う。

「服は着ましょう。終わった後は、別に眠ります。これでいいですか?」
「あ、はい」
「粘膜の接触はしない、と念書を書きましょうか?」
 融はその中性的で端正な顔立ちに、悪戯な笑みを浮かべる。

「さ、さすがに野暮です」
「では、行きましょう。美景さん」
 と融はタブレット端末をたたみテーブルの上に置いてから、私の手を取る。
 私は融の顔を見て、うなずいた。
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