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恐ろしい者になったかな

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 最後に私と千景は特別授業を受けた。担当は鴉先生だ。
 資料や本が左右の棚にうずたかく積まれている狭い部屋には、木製のテーブルと三つの椅子があるきりだ。上にステンドグラス製のランプがあって、テーブルに七色の色だまりを作っていたのを覚えている。
 そこで、私と千景は、「恐ろしいものにならないための授業」を受けた。

 挑文師の技術は、人を狂わせるのに十分なもので、自分を狂わせるのにも充分だ、と。禁書と禁術について教わった。禁術については詳しく教えてくれたけれど、禁書がどんなものなのかは、詳しく教えてくれないので、
「ケチだなぁ、というか。鴉先生もホントは知らないんでしょ」と千景は憎まれ口を叩く。

 授業の最後に、鴉先生は言った。
「ハヤテが連れて来ただけあって。お前たちはいい子たちだ。そして、ここの教員たちはみな、お前たちの記憶を見ているものも多い。この意味は分かるか?」
 私は千景と顔を見合わせる。私たちの目的を、気づいているという意味だ、と思ったから、首を横に振った。

「私たちはお前たちの最奥にある傷について、例え本局に問われても、答えないだろう。その傷がこのスクールに来た動機だとしても、本局の調査では答えるつもりはない」
「傷」
 私と千景は復唱した。

 このときの言葉はハッキリと覚えている。鴉先生はある意味で、私たちを煽っていたように思うのだ。あるいは、試していたのではないか、と思う。
 我々は秘密裏にする。
 そして――――お前たちはどうするのか?と。

「だからこそ、お前たちには、恐ろしい者になって欲しくない。護る者になって欲しい」
 まるで、恐ろしい者になった人がいるかのようだ、とその時幼心に思ったのを、覚えている。
 これが最後の授業だった。私と千景はハヤテ先生からもらった扇を武器に指定し、スクールを卒業する。

 ハヤテ先生、鴉先生。私と千景は、恐ろしい者になったのかな?
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