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紅い女とヒーロー参上

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 まずい、と思ったら、今度は紅い網が上空から降って来る。女性の上に覆いかぶさるように降って来たけれど、女性ははらりと身体をひるがえして避けた。
「あらあら、次々といらっしゃる。分が悪いですね」と言って、女性は燕の姿に変化し、去って行った。たしかに、燕も移動速度が速い鳥だ。
 一方では急降下して来たイヌワシが、変化を解いて人の姿を作る。
「融さん」
「逃げられましたね」と融は飛び立った燕を見あげる。
「垣根さんだけは確保できましたが、手ごわい人でした。あの人はただの挑文師でしょうか?」
「特殊な気配でしたが……ひとまずは深追いはやめておきましょう」
 と融は言った。
「十分だけ。あの串刺し鳥肉男に、クリニックを任せました」
 随分な呼び方だとは思うけれど、つまり、甲子童子に任せて来たというだろう。融は垣根州を抱き留め、頸動脈と手首で脈を測る。

「爪で身体を貫かれていたはずですが」
 と私は伝えておく。傷の有無を確認して、融は首を横に振った。
「それにバイタルサインにも異常はありません。身体を傷つける種類のものではないようです」
「挑文師の武器ということですね」
「はい。生命の危機ではありませんが、記憶の面では色々といじられている可能性はあります。このまま放置はできませんね」

「それに、この漠をどうにかしなければ」
 辺りはすっかり靄にまみれてしまっていた。
「それでは、当麻さん。一足先に垣根さんをクリニックにお連れしてくれませんか?」と融は万理に言う。
「えーいやだよ。重そう。オレより体重あるでしょ」
 不平不満の声を言う万理は、私の知る万理だ。

「では。当麻さんが話す前に、あなたの秘密を美景さんにお話ししてしまっても構いませんか?」
「秘密?」
 頭の上の耳、お尻に見える尻尾、謎の武器と驚異的な身体能力。各方面で色々と気になることはあるけれど。その状態を説明できる理由は、私には思い浮かばない。

 融の声がけに、万理は眉根を寄せて唇を尖らせる。さらに頬を膨らませていた。
「ホントいやな奴だな、後から来たくせに」
 とぶつくさ言いながら、融から垣根州を受けとる。そして、その尻尾を一振りしたかと思うと、二回りほど身体が大きくなった。そして、肩に垣根州を抱える。

「え、ば、万理!?どういうこと?」
「ごめん、美景。冷酷男からのパワハラがあるから、行くね」と言って、すたすたと歩いていってしまった。
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