上 下
144 / 228
夫の強敵、それは

3

しおりを挟む
「手ごわいと思います。女性の中にある母親像に敵うのは、難しいです。母親像の影響の度合いによっては摂食障害、自傷行為、性依存、様々な形をとります。母娘の共依存も、比較的多い症例ですよね。特に母親になるときに子どもの頃のイメージが邪魔をするということもありますし」

 と融は言う。職業上の見解や一般論なのだと思うけれど、私と「彼女」は、その一般論に当てはまるのだろうか、と疑いたくなるのだ。

「その人に変化されると、やりにくい。それだけです」
 と私は言った。それ以上に形容できる言葉がないのだ。融からの視線を感じたけれど、それ以上何か言うことは出来ない。

「どうぞ」とルイしゃんが剥いた柿を出してくれたので、
「ありがとうございます」と私はピックをさして食べた。

 人間の姿のルイしゃんがいると、私はどこか安心してしまう面がある。勝手に人を見た目で判断してはいけないと思いつつも、祖母のような見た目の彼女に、私はどこか心を寄せてしまうのだ。母性的なものに対する幻想かもしれないけれど。

「ルイしゃん」
 と言って思わず抱き着いてしまった。融と万理が目を丸くする。
「野郎じゃ敵わないことも、あるな、寧月融?」
 と甲子童子が言い、
「それは分かっています」と融は言う。

「美景。じゃあオレが美景のお母さんになってあげるよ?」と万理が不思議なことを言い、変化をしたので、私は思わず目を見張った。

 白いワンピースの「彼女」が出てきて、私は思わず瞬きを忘れてしまう。

「ば、万理」
 私は自分の声が震えてくるのを感じる。

「時と場はわきまえた方がいいですよ、当麻さん」
 と融が言って、私の肩の手に手を当てた。
「え、ダメだった?」
 と万理が言いながら変化を解く。

「そういうのは、いいよ。万理、期待してないから」
 と私は言った。
 私は一足先に、部屋に戻るね、と告げて自室に戻る。
「美景」と心配そうな万理の声がして、融の視線を感じていた。
しおりを挟む

処理中です...