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落日、朧月夜に少女を想う

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 落日は街並みを見おろす。生きていないような気がしていた彼女の生きた痕跡の入った、玉器を手にしていた。
 玉器の中で蛇行する糸は、明滅をくり返している。

 鉄塔の足場には彼女に似た顔の少女が横たわっていた。周りの記憶を消し、その存在を消し去った「存在しない」少女だ。 
 この記憶の糸を編みこめば、佐鶴汐として動き出すだろうか?
 生きていないような気といった彼女の言葉が気になって、落日は忘れられなかった。

 生きること。落日は人としての生命を持たないからこそ、人の生死にずっと興味があった。
 何度魂送りをしても、分からなかったけれど。

 赤子の魂送りをした日に出会った寧月灯と、そして、佐鶴汐との出会いで何かが分かったような気がしたのだ。
 佐鶴汐は、何かを教えてくれるかもしれない。

 そんな期待を込めて、落日は罪を重ねようとしていた。
 咲綾という少女を消すという形で。

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