上 下
217 / 228
初夜もまた試練

3

しおりを挟む
 じっと睨みつけたら、
「こういう時こそ、抱っこしてって言うべきじゃないんですか?」とからかわれてしまう。
 私の夫は、結構いやな人だった。

 どうしよう?
 これから起こることを、素面で耐えられる気がしない。神経回路のどこかがプチッと断絶する可能性がある。
「や、優しくしなかったら。業務完了にて離婚します」
「どうかな、それは難しいかもしれないな?」
 難しいのは優しくすること?
 離婚すること?
 耳の後ろを撫でて扇を取りだそうとしたら、手をとられて指先を舐められた。そのまま吸われて、背筋に刺激が走る。

「こ、これが。見せていない、本性ですか?」
「そんなこと言いましたっけ?」
 融はぼけたことを言って、微笑んだ。

 失われた記憶の糸を整えて咲綾を元の生活に戻すこと、樹内兄妹の処遇、甲子童子の木像を作ること、万理が食べてしまった禁書の確認などなど。
 今回の業務では、まだやらなければいけないことがたくさんあるのに。

「諦めてください」
 人差し指でおいでおいでをして、視線をよこせと言う。

 ――――うぅ、恐い。融さん。

 視線が交わる瞬間に唇が触れ合う感覚がある。
 しびしびっと身体の芯が痺れた。

 そして記憶の部屋が見えてくるのだ。
 見えるものは分かっている――――!

 これが今日一番の試練になるとは、思いもしなかった。
しおりを挟む

処理中です...