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あなた方が死ぬまで観察します

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「佐鶴汐さんの記憶を解放してあげます」
 ある日落日は言った。
 ルイしゃんが佐鶴汐のことを覚えていることを知ってから、落日はルイしゃんの守護者のようにくっついている。

「生きることと死ぬことを観察することにしました。寧月融、あなたが生まれた日のことを知っています。ですから私は、あなたが死ぬまで観察することにしました」
 と落日は奇妙なことを言って融を困らせていた。

 満月の綺麗なその日、落日は塔の上に降りたって佐鶴汐の記憶を玉器から取り出した。
 私と融は挑文師の鳥姿で見守る。

 落日は黒爪の先に記憶の糸の束を取り、宙に放った。ほろほろと糸がほどける。
 赤黄橙黄緑緑水色青紫とグラデーションのように瞬間ごとに色を変えて、記憶の糸が飛んでいく。闇夜に光り輝く記憶の糸はとても美しかった。


「陽乃埜(ひのの)におりたち、志野頭(しのず)で迷い、雲井(くもい)で洗われ、虹尾(にじお)に送り、志野尾(しのお)で飛びたつ」

 私と融は遊び歌を口にする。
 願わくば迷わずに清められ、眠れますように――――
 いつかまた望まれたら、新しい生命として誕生しますように。

 落日は記憶の改ざんをした罪で、本来は黄昏の監獄に行くはずになっていた。改ざんの件数はとてつもなく多いので、永久刑はまぬがれない。けれど融が本局からやって来た挑文師を捕縛して、記憶を改ざんして追い返してしまう。

「落日さんには、御子柴さんの護衛の仕事をしていただきましょう」
 役割を与えてクリニック併設のアパートに住むように言った。

「あなた方が死ぬまで観察しますね、寧月夫婦」
 そう言って落日は嬉しそうに微笑むのだ。
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