別れを告げたら、赤い紐で結ばれて・・・ハッピーエンド

KUMANOMORI(くまのもり)

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鳥府潤とかいて「かこ」と読む

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 鳥府潤との関係を説明するのは、難しい。私は付き合っている、と思っていたけれど、実は単なるひとり相撲の片思いだと気づいたのは、彼の結婚が決まったときだ。鳥府くんは大学在学時に結婚を決め、卒業とともに先輩と住み始めたと人づてに聞いた。
 元々、鳥府潤という人は高校入学時からその容姿や振る舞いから注目の的だった。アイドルというのがぴったりで、在学時にモデルの仕事をしたこともあったらしい。私は同じクラスの慧ちゃんと仲が良くて、慧ちゃんと潤くんとが仲が良かったことから、私にもかすかな繋がりが出来たのだった。

 綺麗な顔だと思ったし、柔らかな物腰には好意的だったけれど、アイドルのような遠い存在だったので、別に特別な関係になりたいとは思っていなかったのがファーストインプレッションだ。

「二人って仲いいね、オレも混ぜてよ」
 と鳥府くんが私たちの間に潤くんが入ってきたのが、大きな分岐点だったと思う。始めは三人で遊ぶことが多かったのが、いつの間にか鳥府くんと二人きりになる機会も生まれて、鳥府くんはよく言うようになった。

「オレといるときに、慧梓の話するのはやめてよ」
 私はこれまで慧ちゃんと遊ぶことや過ごすことが多かったせいか、どうしても話のフックは慧ちゃんのことが多かった。鳥府くんはそこを見抜いて、ズバズバと言ってくるのだ。
 ただ、そう言う鳥府くん自身は、他の女の子と好きに話をしていたし、私以外とも過ごしているようだった。割に合わないとは思う。


 一方で鳥府くんと親しくしていれば、コンサートやライブでアーティストからファンサービスをもらうかのように、特別感があるのも事実だ。率直にそんな話をしたことがある。
「なんか、鳥府くんといると私まで特別視されるね」
「え?」
「好きなアイドルと共演したタレントさんと、握手したくなる感じなのかな。話しを聞きたいみたいな気持ちなのかな。知らない女の子から、私いっぱい話しかけられるんだけど」
「それヤダ?」
「別にイヤじゃない。特権感楽しめてラッキーくらいの気分」
「那々巳はモテる人が好きなの?」
「好きか嫌いかなら、好きかなー」
「慧梓もモテるよね」
「そうなの?まあ、優しいしモテるかもね」
「慧梓の話禁止」
「鳥府くんがし始めたけどね」
「禁止だよ」
 不機嫌になるので、私はなるべく鳥府くんと二人きりのときに、慧ちゃんの話をしないよう努めた。とはいっても、慧ちゃんとはずっと親しかったし、二人きりで遊ぶこともある。
鳥府くんの前では慧ちゃんの話を控えても、慧ちゃんとの友達付き合いは自由に続けていた。慧ちゃんの関係と鳥府くんとの関係が競合になるとは思っていなかったのだ。


 最初の一歩を踏み出したのは、鳥府くんの方だったと思う。
 当時鳥府くんには付き合っている人がいたみたいだったけれど、休み時間にたまたま一緒にご飯を食べていたときに、付き合うなら那々巳の方が楽しそうだな、と言って、唇が触れるか触れないかの軽いキスをしてきた。
「なにこれ、モテ男のあいさつ?チャオみたいな?」と私は見当違いなことを言ったと思う。
「違うよ」と鳥府くんは笑って言った。
 経験のなかった私は、これは何なんだ?と思って慧ちゃんに相談。
 これが失敗だったのだと思う。
「潤のことが好き?」
と慧ちゃんに聞かれて、
「好きかな~」と答えたのは、アイドルや俳優を好きなような気持ちだったからだけど。
 そして慧ちゃんから「協力しようか?」と言われて、そこから流れが明らかに変わったと思う。

 好きと口にしてみてから、
「これって恋愛としての好きなのかな?」
「どちらかと言えば推しみたいな感じ?」
「なんか違うな?」
という思いも生まれてきたけれど、慧ちゃんが私と鳥府くんとの接点を増やそうとしてくれたので、私は自分の気持ちに蓋をした。


 いつもなら、慧ちゃんと過ごしていた時間が鳥府くんとの時間になる。
鳥府くんはイケメンだし、柔らかな物腰や口調は心地がいい。それに、一緒にいるだけで特権を得たかのように思われるのは、優越感を感じる面もあった。けれど、一緒にいない間に、誰といるのかが気になってしまうし、他の子と仲良くしていると、自分のポイントが下がったかのような感覚になるのはイヤだった。

 好きというよりも、離れたら負けだ、と思いはじめている自分がいたのだ。競う感覚が常にあるのが苦しかった。
それでも決定的に付き合おう、と言われたわけではなくて、「ここまでするのは那々巳だけだよ」と鳥府くんは言って、大学二年になったとき私たちは初めて結ばれることになる。

 鳥府くんの言葉の意図は分からなかったけれど、「ここまでしない人は他にもいるんだ」と思うだけで、苦しい。だから最中、私は鳥府くんの顔を見なかった。同じ光景を見ている人が何人もいる、そんな風に思うのがイヤだったから。


「那々巳、なんでこっち見ないの」
 と毎回鳥府くんに言われるけれど「恥ずかしいから」と言って押し通した。見たら負けだと思う。鳥府くんも同じように、何人も見てきているのだろうと思うと、同列に並べられるようでたまらなくなった。

 別に強引にされたわけでもなければ、イヤだったわけでもないのに、涙が出て止まらなくて、中断したこともある。
「なんで泣くの。イヤだった?」
と言われたけれど、首を振って続けてと私は言う。
 なぜか義務的に鳥府くんとの関係を維持しなければと思っていた。「ここまでする」のが、私だけなら、それをキープしなければいけない、と思ったんだ。
 だから、鳥府くんから「こういうのが好きじゃないならやめようか」と言われたあとは、私からアプローチをかけるようになった。関係をキープしなければ、って脅迫的に思っていたんだ。

 すがっていたと言われれば、すがっていたと思う。そして結婚が決定打になって私は鳥府くんから逃げた。
性根が良いか悪いかと言えば、鳥府くんは性悪だと思う。生かさず殺さず。キープし続ける。尽くされるのはイヤと言う割に、別れるとは言ってくれないのだから。
 ただ、それももう過去の話。私は鳥府くんと離れたし、もう未練はない。



 
 その日は慧ちゃんと紐で結ばれることはなかった。喧嘩やギスギスした感じになると、紐で結ばれるのかもしれない。帰り道、妙に名残おしかった。二人とも明日の準備もあるので、昨日や一昨日のようにはいかないのもたしかだ。
 分かれ道で、やっぱり心配だ、という慧ちゃんに私は言う。
「私は、絶対に浮気しないよ」
「私はって。オレだってしてないし、しないよ」
「じゃあ、慧ちゃんにとっての浮気の定義は?」
「合意のキス、セックス、貝殻繋ぎ?食事は微妙なラインだな」
「それ、するがわ?されるがわ目線?」
「え、と。するがわ?かな」
「される側なら、どんなのが浮気なの?」
「那々自身が、誰かの肉体的な接触に那々がこたえること。想像自体がめっちゃイヤだけど、無理矢理なにかされるとかは、浮気ってより犯罪だし」
「私はしないよそれ。絶対に」
私が力強くいうと、慧ちゃんは目を細めて、頭を撫でてくる。
「たしかに、那々は変わったな。なんか強くなった」
「慧ちゃんのおかげだと思うよ」
「しれっと、カワイイこと言うじゃん。まあ、那々の意思は信じてるけど、潤の動きは信じられない」
「過去引きずりすぎ」
 手を伸ばして、ハグを催促してみる。
「そう思っとく」
 抱き寄せてくれて、Tシャツ越しに体温を感じた。しばらく、おあずけか、と思うと寂しかった。これまではハグをしなくても、なんとも思わなかったのに。
 また連絡する、と言い合って、私たちは別れた。

 
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