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復讐心
しおりを挟む撮影も中盤を越えたところで、ある人から呼び出しがかかった。
望月暁也様だ。
父を通して連絡が入る。お屋敷に呼び出されたので、滅多に足を踏み入れない望月家のお屋敷に行く。
ご依頼があれば遂行するが、暁也様からご依頼を受けたことはなかった。暁也様は、柳典様よりも何歳か年上で、既に涼月家の女性と婚姻している。
そして、既に望月グループを引き継いでいらっしゃるのだ。
お屋敷に伺えば、謁見室に通され、暁也様は出し抜けに、
「気をつけろ、蛍都」と言う。
「一体何を?」
「香月桐典の事故は意図的なものだ。それに、名月家との遺恨に心当たりはないか?」
「何をおっしゃっているのか、私には」
香月桐典様の事故が、意図的なもの?そんな話は初耳だ。
「御三家の事業を統合する流れがある。香月桐典はそれに迎合していたが、反対勢力もあった。排除された可能性が高い。そして、名月家。憐花は柳典と関係があったことはあるか?」
ピンポイントに放り込まれた質問に、私はぎくり、と肝を冷やす。私の知る限りでは、憐花と柳典様との関わりはあの一件しかない。
「そ、それは。暁也様が直々にお調べになったのでは?」
と私は探りを入れてみる。
「琉聖は口が堅いな。その義理堅さは見あげたものだが。妹の意向とはまた違うのかもしれない。憐花には、恐らく遺恨がある。蛍都お前は特に警戒すべきだな」
と言うのだ。
「なぜ、暁也様がそのようなことを?」
「俺が桐典から引き継いでいるからだ。アイツらの、償いに関する采配を」
「償いに関する、采配?」
「護衛家との婚姻、そして償いの完了を経験している。ゆえに俺が選ばれたようだ。俺は、アイツらの本来知り得ない情報を知ってしまっている」
「知り得ない情報?」
「ああ。蛍都、お前も無関係ではない。ただし、これは他言無用だ。柳典にも、桜典にも知らせてはいけない。警戒のための助言程度に留めておいて欲しい」
「承知いたしました」
「桐典の事故に関しては罪人が分かり次第、護衛家に関係者が受け入れられる可能性がある」
「椎月でしょうか?」
「順当であれば。しかし、罪人がどこの者、どこの家の者かにもよるだろう」
と暁也様は言う。
「くれぐれも、身辺の警戒は怠るな。アイツらの面白おかしい撮影の際にもな」
時間と取らせて悪かった、幸いを祈る、と暁也様は締めくくった。
桐典様の事故のお話、そして、燐花の話が頭に残る。
燐花に遺恨がある?
私が警戒すべきとはどうして?
いくら考えても、分からなかった。
私が今できることは、お二人のご依頼である、映画を撮り終えることだ。
撮影は一見つつがなく進んでいた。葉の出会いのシーンを撮影したり、咲との高校生の頃のシーンを撮影したりする。
制服を着て演じるシーンでは、どこか不思議な心地がした。高校時代の桜典様のことは、記憶にほとんどない。
だからこそ、今制服を着て、桜典様といると、高校時代を過ごしているかのように感じて、不思議な感覚になるのだ。
そして、同時に呼び起されてしまったのは、「失敗」だ。
陸上部の練習のシーンは、柳典様演じる葉とのシーンの直後に撮影された。
ユニフォームを着て、練習に参加するシーンで、咲の視線が洸に向いている。洸は他の生徒と、楽しく話していたり、トレーニングをしていたりするシーンだ。
僅かなシーンだけれど、咲が洸に惹かれていたことを表す重要な場面だった。
生徒役の役者と話す演技をしていたら、スッと誰かが不自然な形で輪の中に入り込んでくるのを感じる。
違和感は一瞬だった。
けれど、マロンブラウンのロングヘアーには見覚えがあり、即座に、暁也様の言葉を思い出す。鋭く光るものを目にしたときには、即座に頭の中で動きをイメージしていた。
手首を打ち、それを叩き落とす。そして、下着の両脇に隠している麻酔針で、動きを止めればいい。
けれど、ただ切っ先が自分に迫るのを見ているのだ。彼女が、私になぜそれを向けているのか、と図りかねていたからだ。身体は何テンポも遅れる。
判断が遅すぎるその時点で、護衛としては最低だ。マズい、と思ったときには、
「燐花」
と柔らかな声がして、私の前には柳典様がいた。
そして、血痕が私の頬をかすめる。
柳典様の握りしめた手のひらから、血液がこぼれ落ちるのを見た。ナイフを手に握っているのだ。
「あぁ」
と声を震わせる燐花を見て、失敗したことを悟る。周りはにわかに騒ぎ出し、燐花をそばにいた生徒役と麻梨様が押さえる。
「誰か、手を貸してください!人を呼んで」
と私は慌てて応援を呼ぶ。しかし、事を起こしてしまった。失敗だ。
けれど、身体が上手く動けない。
寧ろ、身体が後ろに倒れそうになったところで、桜典様が肩を抱きとめてくれた。
そして、
「抜かったな、兄さん。なんで手を抜いた?燐花に可能性を残したのかよ?」
と桜典様は言う。
柳典様は首を振り、燐花を見て、言うのだ。
「桜典が想像しているのとは、多分違う。燐花が復讐したいのは、俺だと思うよ。あの依頼の歪な、二重構造に」
床に花びらのように落ちる赤いしみを見て、
「柳典様、手当てをいたします」
と私は告げる。
柳典様はこちらを向いた。
「これで、お揃いだ」
と言うのだ。
「お揃い?」
「そう、高校生の頃のね」
柳典様は私の頬の血を指でぬぐう。
「俺の頬にも蛍都の血が飛んだんだ。あの日からすべて始まった。でもこれであいこだよ」
と柳典様は言う。
私はそのとき、高校生の頃の失敗を思い出した。
スタッフが動き出し、柳典様の手当てにあたる。そして、警察が呼ばれ燐花は連れていかれた。
「なぜ、柳典様はあんなご依頼を?」
去り際、燐花は柳典様に尋ねる。
「俺の目的のためだよ。ごめん、燐花の思いは知らなかった。そして、琉聖の思いも知らなかった。すべて、俺の罪だ」
スタッフに囲まれ、柳典様は手当てされる。
そして、今日は一旦休止にしよう、と全体に声がかかった。
そして、桜典様が支えてくれた手を離す。そのときに桜典様が視線を向けてきたので、私は少し気まずくなり、逸らした。
「抜かりました、最低ですね」
と私が言えば、桜典様は首を横に振る。
「今のは、護られるのが正解だ。じゃなければ、兄さんは後悔したと思う」
と言う。
「護衛としては、最低なミスです」
「兄さんは蛍都に護られたくは、ないと思う。好きな相手が傷つくのを見たい奴なんかいないよ」
そう言ってから、桜典様は、あ、と息を飲む。
「桜典様?」
「いや、これは、セーフだよな」と謎の自問自答をしていた。
事情聴取が行われ、その後解放される。柳典様は病院での手当ての後に、警察署に行き、秘書の車で自宅に帰ったようだ。
柳典様の状態を気にしていた私に、桜典様が詳細な情報を教えてくれた。
私は桐典様のこともあり、桜典様の警護に関しても気になっていたので、
「本日はマンションまでお供してもよろしいですか?」と聞いてみる。
今日ばかりは断られても、ついて行こうとは思った。
予想外に、桜典様には、
「そうだな、来てくれ」と言われる。
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