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屈強でしおらしい婚約者
しおりを挟むそしてオレの頭に浮かんだのは、オレが不正を暴かれた未来だ。あの場合、柳は麗史様のパートナーに選ばれていた。
つまり、その後狙われていた可能性がある。
とはいっても、あのケースはオレが柳と競る関係だったのだし、オレが消えたことで柳がひとり浮上したパターンだ。
あの未来の柳は無事だったんだろうか?
それとも?
「もし、オレが帝王のパートナーとして有力だったら、オレが消されるんだろうか?」
「いや、オレがそれはさせない。かりに花菱が有力だったとしたら、何かしらの方法で花菱をパートナー候補の闘いの外に置こうとするだろうな」
「何らかの方法……」
「例えばパートナー投票やデュアルに不正があることにするとか。とはいっても、あくまでも仮定のことだな。不正があったことにすれば、ペナルティが大きい。花菱の将来への影響は多大だ。最善の策とは思えない」
「え?まさか?」
ひとつの可能性が見えた気がした。てっきりオレは、邪魔をされてパートナー候補から引きずり降ろされたと思っていたが、実はそうじゃなく守られていた可能性もあるのか。
あの未来ではオレは救われ、柳は何者かの手にかかっていた可能性が高いのかもしれない。
しかも、柳はその可能性を知っていて、挑んでいたということになる。
とすれば、オレが認識していた姿と全く変わるじゃないか。
「麗史様はそのことを御存じなんだろうか。パートナー候補が危険だということを」
「御存じだ。最良の方法がないかと考えていらっしゃる。ただ、麗史様はその足元も危うい。麗史様の素性や出自をよく思わない者も多いからな」
「引きずりおろすつもりだったとして、学園長や麗史様を指示する者たちが許すかな。それに、麗史様に匹敵し、凌駕する奴なんて思い浮かばないけど」
「それこそ、ご本人を消す方法をとるんじゃないか?」
「お前さ、あっさり怖いこと言うなよ」
「最悪の事態を想定しておかなければ、守れないだろう」
「たしかにそっか。けど、それを聞いてオレには未来が見えたよ」
「どういうことだ?」
「麗史様が帝王に君臨して、お前がパートナーになればいい。しかも、確実に、誰にも邪魔されることなく。そうすればお前もお前の母上の将来も安泰だ」
「絵空事だな。理想的ではあるが、手段もなく道のりも困難だ」
「オレが手伝う。何のためにこの魔法があるのか考えていたけど。どうも、この学園の一部の連中は女に対する免疫が低いようだ。桐峯や一派も、どうも色への関心が高くていらっしゃる。それを利用しない手はないだろ?情報を得るためには最適な魔法だ」
オレの言葉に柳の表情がみるみる曇っていく。
「この学園のどこにパートナーを引きずりおろすシステムが生まれているのか、探りをいれる」
「花菱を危険な目にあわせたくはない。それに、花菱を誰かに触れさせるのは、吐き気がするほどイヤだ」
柳は置き去りにされた子犬のような顔をする。
「もちろん、みなまでさせるつもりは、ないけど」
「八つ裂きにするかもしれない」
「お前、そんなにオレのことが好きなのか?」
「好きだよ。何が悪い。オレは遥か昔にお前に心を奪われている」
「すっげー照れるし、嬉しいよ。けど、お前と麗史様のふたりを擁立する未来を描くには、必要な働きだと思う」
「自分で魔法を発動できない今の状態でどうするつもりだ?」
「そうだな。その点はたしかにそうだけど。柳はどうやって自分で魔法を発動させられるようになったんだ?」
柳の魔法には見当がついている。相手の心や感情を読む魔法だ。
「兄を失ったときに、発動した。幼いオレのもとには、大した情報は降りてこなかったが、真実を知りたいと願ったら発動していた。以降、自分で自在に扱えている。花菱の場合とは違うな」
「オレの魔法は柳の魔法を受けて発動したものだしな。人からの魔法を受けて発動するようになっているみたいだ。ただ、それじゃあ、あまり使い勝手がよくない」
柳は妙に神妙な顔で、こちらを見てくる。
何か言いたいことがあって、言い淀んでいるようだった。
「なんだよ?」
「性別変換の魔法を持つ者にはいろいろないわれがある。中でも特に広く語り継がれていることがある」
「なんだよ、それは」
「言いたくない」
「はあ?」
「花菱は学園で優秀な成績をおさめて、パートナー争いとは無関係に卒業すればいい。そうすれば、将来は保証される。余計な情報を知る必要はない」
「だとすれば、婚約破棄だな。お前とお前の母上の処遇や安全は保障されない状態であるならば、将来を誓うなんて夢物語だ。婚約は無効だ。消してくれ」
オレは柳の目の前に手の甲を差し出す。
「イヤだ、そんなことができるわけないだろう。やっとここまでたどり着いたんだ」
柳はオレの手を掴んで、きつく抱き寄せてきた。柳に関してはこんな男だったのか、と驚く場面が多い。
「あれは欲しい、あれはイヤだって。子どもじゃないんだ。オレが欲しいなら、教えろよ」
オレが強く言うと、柳はしぶしぶ頷いた。
そして口を開き、
「性別変換魔法を持つ者は、二人の者に愛される」
と言った。
「え?どういう意味だ」
「そのままの意味だ。二人の者に愛されるがゆえに、昔から危険視されてきた」
「愛されるっていうのは、どういう意味だよ?」
「生涯的に二人の結婚相手を持つ。パートナーを持つ、という意味だ。性別変換の魔法は、引きあう力をエネルギーをして発動すると言われている。二人の愛する者との関係があれば、それぞれの引きあう力が生まれる。それを利用した魔法だといわれているんだ」
「なるほどな。そもそも、自発的に使いやすい魔法じゃないわけだ」
「魔法は本人の人格や性質と相関関係にある。この魔法を持つ者はやはり、人を惹きつける魅力がある者が多い。ゆえに、有力者もこの者を求める」
「魔法に詳しいな?」
「兄が亡くなったときに、色々と調べていたんだ。兄がもし陥落させられることがあるとすれば、どんな方法があるだろうか?と。そしてこの魔法のことも知ったんだ。もし愛する者が出来たなら、兄ほどの使い手であったとしても、隙を見せることがあったかもしれない。けれど、それが諜報部員である可能性もあった、かもしれないと」
「オ、オレじゃねーよ?」
「もちろん。ただ、オレがもし兄の立場で花菱がオレを殺しに来たならば、大人しくやられていたかもしれない」
「バカか。そんなひ弱な奴に、デュアルで勝てねーオレの立場は?お前はきっと、ただじゃ殺されてはくれないだろうよ」
「そうだろうか」
「にしても、二人に愛される、か。それが発動の条件だとすれば、難しいな。人の心なんて、オレには読めないし」
と柳をちらりと見る。
柳は額に手をやって、ため息をついた。
「だから言いたくなかったんだ。お前は人の心の機微には疎いが、状況把握は鋭い。落とせそうな奴がいれば、落としてやろうというんだろう?」
「そりゃそうだろ。魔法を上手く使うにはそれが必要なら」
「感覚や勘だけでも、お前ならおそらく魔法を発動させたんだろうな。もう十分すぎるほど傾いている人に心当たりがある」
「誰だよ?」
「言いたくない」
「何で?」
「その人を尊敬もしているし、その人のために尽力する気はある。だが、オレもその人もお前とは違う愛の紡ぎかたで育ってきている。頭で理解しても、感覚で理解するのは難しい。博愛主義じゃないんだ」
「何も、オレだってだれかれ構わず愛するわけじゃないって。柳のことは好きだよ。オレのことを求めてくれるのは嬉しい。オレだって自衛の術を持っている。じゃなきゃ、許してない」
「それは求められれば、受け入れてしまうともとれる。オレ以外でも。お前は恐らく、その者にどこか秀でている部分があれば受け入れるんだろう」
柳の言葉には含みがある。
「お前は使い手であり、優秀でもあるのに。愛に関しては自信がないんだな。どんなに身体を繋げても、愛を囁いてみても自信をつけさせてやることはできないよ。柳にとっての愛の裏切りはなんだ?他の奴と身体を繋ぐことか?心を動かすことか?それとも」
「忘れ去られることだ、そして関心を持たれないことだろうか」
「じゃ、もう心配ないな。オレは学園内でお前の存在を忘れるわけがない。最も大きく感じている自信がある」
「花菱」
「それに、学園にオレを導いてくれたのは、お前だったろ。あの髪飾りは学園にも持ってきている。あとで返すよ」
「あれは、お前のものだ。返さなくていい。ただひとつ、頼みがある」
「なんだよ」
「壮也と呼んでくれ。そして、葉と呼ぶことを許してほしい」
「そんな改まっていうことか?」
「お前のところではどうかは知らないが。名を呼び合うのは、信頼関係の証になる。オレはお前の特別でありたいんだ」
「壮也。じゃあ、教えてくれよ。お前をパートナーに、そして麗史様を帝王にするために」
「葉」
と諫めるように柳は言った。
少し怒りが含まれているのには、気付いたけれど、それでもいいや、と思う。怒ろうが、悲しもうが柳がよりより未来を手にするには、何かしらの手を打たなければいけない。
「言えよ」
とオレが目を逸らすことなく言うと、柳はため息をつく。
「そんなの、決まってるだろう。お前が憧れてやまなかった人だよ」
オレはその言葉に驚くのと同時に、少し安堵していた。
少なくともオレ自身が尊敬できる人として、協力できる人だったからだ。
「約束してほしい。安全を確保して、優勢を担保してから動いてくれ。無謀な真似はしないでくれ」
「大丈夫、約束する。それに、オレは少し前よりはまともにものを見れるようになったと思っているんだ。むやみやたらと、お前をライバル視しなくなっただろ?」
オレはよい変化の例として、そう言ったつもりだったけれど、
「オレは直情的に向かってくる葉も、それはそれでそそられた。闘争欲とそういった欲は近しいものがある」
と柳は言う。
「いや、そんなつもりで言ったんじゃないんだけど。まあ、いっか。オレは花菱一族じゃ、小賢しい方で、利に聡い方なんだよ。じゃなきゃ学園に来れてない。りゅ、いや、壮也の心配はありがたいけど、それなりに出来ると思うんだ」
「誰かに触れさせるなら、その日の最後はオレと寝ろ。その日の最後は、オレとでなければいやだ」
「お前は……。オレのフィアンセの誰よりもしおらしいな。お前自身が他と楽しむって手もあるんだぞ?オレのフィアンセたちは存分にお楽しみだ」
「まみれて、汚れたくはない」
と柳は一言。
「どの口が言うんだよ」
とオレは笑う。
なんにせよ、オレに一途なこの男と、そのパートナーたる帝王の身は守らなければ、と思うのだ。
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