関西弁彼氏くんが一ヶ月かけて処女ちゃんにトロトロ丁寧な前戯をする話(前)

ちひろ

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関西弁彼氏くんが一ヶ月かけて処女ちゃんにトロトロ丁寧な前戯をする話

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 これはハルくんと付き合い始めた頃の話だ。
 ハルくんと出会ったのは4年前である。大学を卒業し、新卒として広告会社に勤務し始めてすぐの頃だった。

 学生気分の抜けないまま、ガラッと変わった生活環境。毎日が手探り状態で、気を抜く暇もない。
 何かをデザインさせてもらうだとか、企画を立案だとか、そんなものをするよりももっともっと初歩的なことで手一杯だ。
 社会人メールの打ち方、電話の受け取りと引き継ぎ方、初めて使う大型コピー機の使い方、来客へのお茶の出し方。『なんだ、そんな簡単なこと』と思っていたことが、あまりにも難しい。社会人ってこんなに大変なのか……。

 今日もなんとか午前の業務を終え、先輩たちへ声をかけると、一目散にオフィスビルのエントランスへ向かった。
 学生時代は、社会人になったら毎日カフェでランチ、なんて理想を思い描いていたが、現実甘くない。毎日外食ランチをしていたら破産する。そもそもこのオフィスビル周辺のカフェ開拓すらできていない。知っている場所は一番近くのコンビニくらい。
 だから、作ってきたお弁当を川沿いのベンチに座って食べることにしている。もう少し余裕ができたら、カフェを見つけて、たまのご褒美に外食ランチをするんだ。 

 そう思いながらエントランスを抜けようとした時だった。

「すんませーん!」

 突然、後ろから元気な声が飛んできた。私は反射的に立ち止まる。
 振り向くと、紺色のスーツに身を包んだ、いかにも『営業!』な男性がこちらに向かって駆けてきている。散髪に行きたてのような爽やかな短髪と、整った顔面に浮かぶ愛嬌のある笑顔。年齢はたぶん、私と同じくらい。先月まで大学生活を満喫していたような、自分と同じ仲間のような雰囲気を漂わせているからだ。
 ――遠目から見てもかっこいいと思った。
 
 男性が目の前で立ち止まると、私は彼のその背の高さに内心驚いていた。……180は絶対ある。スポーツでもしていたのだろうか。近寄られると迫力があって少し怖い。
 私の思惑も露知らず、男性ははぁはぁと肩で息をしながら笑った。

「どうも、すんません。立ち止まってもらって。俺、このビルの13階にある革下製作所の営業で入った鈴叉(すずさ)って言います」
「は、はぁ……」
 
 ここではほとんど聞かない、関西のイントネーションが印象的だった。
 突然の自己紹介に呆けたような返事しかできなかったが、彼は気に留めた様子もなく笑顔のままだ。

「いやー、俺、営業で採用されたんすけど、上司からこのビルの上から下まで挨拶回りしてこーいって言われて……。だから受け取ってくれません? 改めまして、鈴叉ハルと申します!」

 そう言って差し出された名刺。丁寧な所作ではあるものの、どこか軽やかで、慣れないながらも一生懸命さが伝わってくる。私は少し迷ったあと、名刺を受け取った。

「えっと……ありがとうございます?」
「いやいや、こっちこそ受け取ってもろてありがとうございます。……で、ちょっと正直に言うとですね」

 鈴叉くんは、ふはっと息を吐くように笑ったあと、演技めいたように口元に手を当てて、私の耳元で内緒話をするように言った。

「半分ほんまで、半分ナンパ目的やねん」

「……え?」
 私は思わず彼の方を振り返っていた。ずいぶん近い距離に綺麗な顔があって、それでまた驚いてしまう。
 鈴叉くんは、私と目が合うと少年のようにくしゃっと笑った。

「初出社の日、エレベーターで君のこと見つけてん。あ、絶対俺と一緒で新卒やって思てんな。何となくわかるやろ? あ~ついこの間まで学生してたんやろなぁって感じる仲間の雰囲気」
 ついさっき私が思っていたことを、鈴叉くんはニコニコと屈託なく話す。ちょっと嬉しくなって「私もそれさっき思っていたよ」と答えると、彼は「ほんま!? 嬉しい!」と、大きな目をもっと大きく開いた。

「次の日もその次の日も、んー、ぶっちゃけ今日も、毎朝同じエレベーター乗っててん」
「えっ、そうなの? 気づかなかった……」
「うん、だって君いっつもイヤホンしてスマホいじってるもん。歩きスマホあかんで」
「う……」

 スマホばかり見るのは本当に良くない。こんなにもかっこいい人がすぐ近くにいることに気づけないからだ。静々と反省していると、鈴叉くんはセットした髪を掻いて「うーん」と唸った。

「あんま伝わってへんね?」
「えっ、何が?」
「いや、これは俺が男らしくはっきり言わなあかんだけや」

 よし、と鈴叉くんは自分の胸を叩いた後、ぎゅっと目を瞑っていった。

「一目惚れしました!」

 あんなにかっこよかった顔が、梅干しみたいにくしゃくしゃになっている。まさかの告白に普段なら絶対驚くはずなのに、告白とその表情にギャップがありすぎて、思わず吹き出してしまった。鈴叉くんは、きょとんとしている。そりゃそうだ。

「え、俺おもろかった?」
「うん、すごく。ごめんね、笑っちゃって」
「うわ~もしかしてださかったんかな!? まぁ好きな子笑わせられたら百点満点か……」

 鈴叉くんはポリポリと頭を掻いた後、「引いてへんかったらお昼ご飯一緒してもええ?」と首を傾げた。大型犬が甘えるような顔だ。

「あー、でも私お弁当だ……。そこのベンチ座って食べようと思ってて……」
「え~!? お弁当!? めっちゃ家庭的やん!! ますます好きんなってまう!!」

 人目も気にせず、あまりにも自然に告白を重ねられ、私は思わず「声が大きい!」と彼の腕を叩いていた。鈴叉くんは嬉しそうに「キャッ」と声を上げる。なんてノリの良い人なんだ。たくさんの友達に囲まれている姿が容易に想像がつく。

「ほな俺ダッシュでそこのコンビニで買ってくるし待ってて!?」
「えっ、ちょ――」
「俺も明日からはお弁当男子やで~~!」

 鈴叉くんは叫びながら私の前を走り去っていった。彼がいなくなると、急に時間が動き出したように感じる。私の左右を、知らない会社員の人たちがどんどんすれ違っていく。お昼休みだから当たり前だ。
 忙しなく行き交う人たちの中、私は今更うるさく鳴り出した心臓の音を聞きながら、彼が帰ってくるまで呆然と立ちすくんでいた。


 ◇ ◇ ◇
 

 初日のランチだけで、私は彼のことを『鈴叉くん』から『ハルくん』と呼ぶようになっていた。『同じオフィスビルに出社している新卒くん』から『恋人』に昇格することだって、一ヶ月もかからなかった。
 ハルくんは、変に駆け引きを持ちかけてくるわけでもなく、心を開いて会話をしてくれる人だった。大らかな明るい声で、正直になんでも自分の気持ちを伝えてくれるので、何でも身構えがちな私の心を呆気なくほぐしていく。

 すっかり社会人生活に慣れてきた7月。
 私たちは週末のお決まりになってきたデートで、喫茶店のアイスコーヒーを味わっていた。

「コーヒーうま~……生き返るわ……。外暑すぎんねん」
「ね、本当に暑い。また最高気温更新しちゃったしね」
「もうそんな頑張らんでええで、地球……」

 向かいあって座るハルくんは、ストローをずるずると音を立てて吸った。ベンティサイズのグラスの中は、もう氷だけだ。私の視線に気付いたのか、彼は「えまちゃんは、ゆっくり飲んでや? 俺いっつもなんでも早いねん、ごめんな?」と微笑んだ。ハルくんのこういう気遣いが好きだった。
 お言葉に甘えてのんびりと飲む。ハルくんは頬杖をつきながら、微笑んでいる。優しい眼差し。ふと、彼が何かを言った。
 昼時を過ぎているのに、店内は涼しさを求めて人が多く、私はハルくんの言葉が聞き取れなかった。

「なぁに。ごめん、聞き取れなかった」
「んー? わざとちっさい声で言うたもん」
 ハルくんはくすくすと笑っている。眼差しはずっと優しいままだ。何かいいことでもあったのだろうか。

「もっと大きい声で言ってよ。気になるじゃん」
「え~、ほな言うで?」
「はい、どうぞ」
「なぁなぁ、もう付き合って三ヶ月やん?」
 ハルくんの目尻がきゅうっと細くなる。彼は記念日などを大事にするタイプなのだろうか。私は彼の意図していることがわからず、とりあえず「うん」と頷いた。すると、ハルくんは眉を八の字にした。

「え~俺が何言いたいかわからへんの~」
「えっ、なに?」
「も~、えまちゃん~……そう言うとこも好きやで?」
「あ、ありがとう?」
「えまちゃんは? 俺のこと好き?」
「ん、ん? 好きだよ?」

 話の先が全く見えないまま、ひとまず求められるまま答えると、彼は満足したように頷いた。「ほな、言うで?」と前振りを入れ、頬杖をついたままぐっと顔を寄せてきた。ハルくんの綺麗な瞳がよく見える距離で、彼は声を落とした。

「そろそろお泊まりせえへん?」

 お泊まり。それはつまり――

「えっ!!」
 思わず大きな声が出ていた。ハルくんは「えまちゃん声おっき~、お客さんいっぱいおるで~」とニコニコと笑っている。私は慌てて周りを見渡したが、こちらのテーブルを気にしている人がいなかったので胸を撫で下ろす。いや、そんなのはどうでもよくて――

「お泊まり!?」
「そー。せやかて俺らもう付き合って三ヶ月やで?」
「…………」
「学生ならまだしも、大人の交際やん?」
「…………」
「えまちゃんが良かったら俺んちこーへんかなー思たんやけど……」

 最初こそハルくんは笑顔で話していたものの、私の表情を見つめているうちにだんだん尻すぼみになっていき、ついにはその端正な顔に絶望の色を浮かべた。
「えっ、浮かれてたん俺だけ……?」
 顔面蒼白になったハルくんは、自分を落ち着かせるように、震える手で空っぽになったグラスを掴み、唇を戦慄かせながらストローを吸った。もちろん飲み干しているので、ずずずず……と間抜けな音が聞こえるだけである。
 私は慌てて両手を振った。

「わ、ごめんごめん! 違うよ、お泊まり嬉しいよ!」
「あ、よ、良かった。……えっ、でも、ほななんで……なんでそんな真顔なんの。お泊まりってもっとワクワク~キャッキャ~ってならへん?」
「それは、その……」
「あ、ごめんな。言いにくいことある?」

 ハルくんはテーブルに投げ出したままだった私の手に、そっと自分の手を重ねた。大きな手で包まれる。顔を上げると、彼は柔らかい表情で「言いにくかったら無理せんでええよ。俺、お外デートもめっちゃ好きやねん」と言った。
 困ったように笑うその表情があまりにも優しくて、あんなにも強張っていた口が、するりと開いた。

「違うの、ハルくん」
「……ん?」
「私、お付き合いするのが初めてだから、その、お泊まりで、……ちゃんとできるか不安だったの」

 引いちゃった? おずおずと伺うと、ハルくんは目をまんまるに開いたまま硬直していた。「あれ? 聞いてる?」慌てて目の前で手を振ってみると、彼はパチリと一度瞬きした後、「ええ~~!!??」と素っ頓狂な声をあげた。
 あまりにも大きな声に、ざわめいていた店内が静まり返り、一斉に視線がこちらのテーブルに集中する。私は反射的にハルくんの頭を叩いていた。

「声大きすぎる!!」
 声にならない声で叫ぶと、ハルくんも小声で「えまちゃん俺が初めての彼氏なん!?!?」と叫んだ。

「そうだよ。言うタイミングなくて言えなくて……ごめんね?」
「……信じられへん」
「女子高出たあとは女子大だったから、なかなか縁もなくて。……引いてる?」
「あ~か~ん~! 嬉し過ぎる!!」

 ハルくんは勢いよくテーブルに突っ伏すと、もう一度小声で「最高!」と叫んだ。よくわからないが喜んでくれているようで一安心だ。いつもの明るい声で『処女なんか面倒や』なんて一笑され捨てられてしまったらどうしようと、密かに不安だったのだ。
 胸を撫で下ろし、アイスコーヒーを飲んでいると、ようやくハルくんが顔を上げた。

「えまちゃん! 俺、えまちゃんに最高の初体験贈ったる!!」
「えっ……?」
「せやから、来週末から早速俺んちお泊まりおいで」
「えっ、ちょ――」
「一ヶ月かけて、ゆーっくりたーっぷり気持ちいこと覚えてこな?」

 ハルくんが太陽みたいな笑顔で、とんでも無いことを宣言した。
 かくして、私の初体験までの物語が強制的に幕を上げたのである。


 ◇ ◇ ◇
 

 ハルくんの宣言通り、次の週末は映画デートの後そのまま彼の住むマンションへと帰宅した。夕飯も外で済ましてしまったので、あとは本当にエッチをするだけである。なんて卑猥なんだろうか。街ですれ違ったカップルも皆、平然とした顔で手を繋いだまま帰宅したあとエッチするのだろうか。
 想像しただけで変に鼓動が速くなる。顔も熱い。
 ハルくんは、ガッチリと指を絡めたまま『さっき食べたドリアのエビ、めっちゃデカかったな!』と楽しそうに話している。いつもの普通の彼。私だけが変に意識していることが恥ずかしくて、努めて平静を装った。

「うん、美味しかったね」
「えまちゃんの食べてたデザートプレートも盛り沢山やったなぁ~ええ店やった……」

 エレベーターで7階まで上がり、ハルくんの住む部屋に入るといよいよ心臓が煩くなってきた。玄関に置いているルームフレグランスは、いつの日か百貨店でお買い物デートをしている時、お揃いで買ってくれたものだ。なかなかいい値段だったので、もったいなくて私はまだ開けてすらいないのに。こんなにいい匂いなんだ、と頭の片隅で思うも、脳内を占領するのは『これからエッチ』である。

「どうぞ我が家へ~」
「あ、うん、失礼します」
「えまちゃんならいくら失礼されてもええで」

 ハルくんが明るい声で機嫌よくずっと話しかけてくれているのに、頭に入ってこなくて適当に相槌を打つしかできない。リビングに通され二人がけのソファに座ると、彼は私の顔を覗き込んだ。
「……やっぱ、やめとこか?」
 優しく微笑まれながら、前髪を撫でられる。目を見開くと、ハルくんは「かわいいなぁ」と困ったように笑った。

「えまちゃん、晩御飯食べてる時からずっと顔固いもん。どうにか緊張解けたらええなぁ思っていろいろ話しかけてたみたんやけど……」
「ハルくん、ずっと気づいていたの?」
 どうやら私の緊張は見透かされていたようだ。当たり前やん~、とハルくんは私を抱きしめた。

「好きな女の子やもん。ずっと見てるから分かるに決まってるやん~!えまちゃんが乗り気ちゃうなら、今夜は普通にお泊まりしよ? 俺、スマブラとマリパ持ってるしそれやろうや。絶対負けへんし」
 えまちゃんはなんも気にせんでええんやで、と頭を大きく撫でられる。ハルくんの優しさが、きゅっと胸を締め付ける。大事にされている、と嫌でも思わされる。私は彼を抱きしめ返した。

「ハルくんありがとう。大丈夫。今日、する」
「無理せんでええよ?」
「ううん、最後までできるか不安だっただけだから。でも、ハルくんとなら大丈夫な気がしてきた」
 
 よろしくね、と顔をあげるとハルくんが目を丸くしていた。……なんだこのリアクションは。私も何を言っていいかわからず数秒無言で見つめ合っていると、ようやくハルくんが口を開いた。

「えまちゃん、今日はキスだけやで?」
 何を言ってんのという顔をされる。
「えっ!?!?」
 今度は私が目を丸くする番だった。すかさずハルくんが堪えきれんとばかりに吹き出した。

「えまちゃん、今日最後までするつもりやったん~? すけべやなぁ~」
 つんつんと指で頬をさされる。一気に顔に熱が集まるのが分かった。私は無言で彼の肩を何度も叩いたが、ハルくんは「かっわいいなぁ」と笑うだけだった。

「じゃあ最初からそう言ってよ!」
「え、俺言わんかった? 初エッチは一ヶ月かけるって」
「そういう意味だと思わないよ!」
「え~ごめん~。一ヶ月かけてゆーっくり進めるから安心してや? 今日はキスだけ。来週のお泊まりはもうちょっとだけえっちなことするな?」

 楽しみやねぇと微笑まれ、私は何も言えずもう一度彼の肩を叩いた。ハルくんは嬉しそうだった。

「ふふふっ、ほなお風呂入っといで? 予約しといたからもう沸いてんねん」
 
 彼に促されるままお風呂に行けば、新品のおもちゃのアヒルと、まっさらなバスタオル、入浴剤が用意されていた。おもてなしすごいなぁと感動していると、「お水のお届けやで~」と冷水の入ったタンブラーが渡された。
 ハルくんは、ホスピタリティ100点満点の恋人だった。


 ◇ ◇ ◇
 

 ハルくんのお風呂が終わるまで、私は彼のベッドで待っていた。部屋のもん好きに見ててええよ、と言われていたので、本棚の漫画を一冊読んでいた。老若男女に愛されている有名な長編漫画だ。ハルくん、最新刊までちゃんと買ってるのすごいな。
 あんなに大らかな彼なのに、漫画はきっちりと順番に並んでいる。意外だなぁと思っていると、ドアがノックされた。返事をすると、「お待たせ~」と軽い調子でハルくんが入ってきた。Tシャツにスエットを履いた、初めて見るラフな彼。いつもの、髪をセットしてお洒落にきめた彼ももちろんかっこいいが――

「ハルくんって、どんな格好でもかっこいいね」
 思ったことが素直に口から出ていた。ハルくんは大げさに跳ねながらベッドの方へと寄ってきた。
「嬉し~! どしたん、何のご褒美? えまちゃんもパジャマめっちゃ可愛い。これ、俺んち置いとく? 置いとこっか? な? いつでもお泊まりきてええしな?」
「めちゃめちゃ早口じゃん」
「好きな子が自分のベッドにおんのが嬉しいの」

 語尾に音符がつきそうなくらいご機嫌なハルくんは、ごく自然にベッドに乗り上げると私の隣に座った。
 「緊張しとる?」
 大きな手が頬をゆるゆると撫でてくる。

「ううん、全然。ハルくんだから。しかも今日はキスだけでしょ? 余裕だもん」
 私はその手に自分の手を重ね、頬を擦り寄せた。
 ハルくんは「んー」と「うー」の間みたいな唸り声を上げた。

「えまちゃん~……ほんまになんも分かってへんくて可愛いなぁ」
「えっ、キスだけじゃないの!?」
 思わず彼の手から距離を取ろうとすると、ハルくんは可笑しそうに笑って、また私を引き寄せた。

「ううん、ほんまにキスだけやで。ほんまに。えまちゃんに嘘つかへん」
 優しく微笑まれたあと、ちゅ、といつもの軽いキスが落ちてきた。
 ちゅ、ちゅ、ちゅ、と何度か唇にキスをされたので、私も嬉しくなって彼の頬を両手で包みながらキスをした。
 息がかかるような近い距離で、ハルくんは目を細めて「えまちゃんからのキス、嬉しい、もっとして」と言った。
 
 可愛いなぁと思った。ハルくんは優しくてかっこよくて、時に父のような兄のような大らかな愛で包んでくれるような存在なのに、小さな子供みたいに思えるほど可愛い瞬間がある。
 ハルくん、大好き。私も微笑み返して、彼の唇だけじゃなくて、高い鼻や頬にたくさんのキスを贈った。
 それから前髪を上げて形の良い額にもキスをした。ハルくんは前髪を上げてもかっこいいことに気づいたので、今度はオールバックでセットしてもらおうかな。
 ぼんやりとそんなことを考えていると、目の前の彼はふにゃふにゃに蕩けていた。

「あかん……いっぱいキスされて死にそう……幸せすぎる……」
「死なないで」
「当たり前や。えまちゃんと結婚して新婚旅行のモルディブで可愛い水着着てもろて7泊8日イチャイチャするまで死なれへん」

 新婚旅行はモルディブですでに決まっているらしい。私が吹き出すと、ハルくんもつられて笑った。二人してしばらく笑っていると、ふいに彼が顔を寄せてきて囁いた。

「今度はもっと大人のキスしてもええ?」

 大人のキス? どんなキスだろう。
 もちろん、と頷くと、ハルくんは私の腰に片手を回してグッと引き寄せた後、もう片方の手で私の頬をゆっくりと撫でた。さっきと全然違う、真面目な顔が近づいてくる。綺麗な目が、じっと私をとらえたまま離さない。
 
 ――こんなハルくん、見たことない。

 そう思った時には互いの唇がくっついていた。先ほどのキスとは違って、ハルくんの唇が私の唇全部を覆い尽くすように重なっている。ちゅく、ちゅく、と今まで聞いたことないような卑猥な音を立てながら、ゆっくりと唇を喰まれる。
 その度に、ぞわぞわとしたものが背中を駆け上がっていき、腰あたりが妙な熱を持ち始める。

「ん、ぁ…………ぅ……ん……」
 キスの合間で、自分でも初めて聞くような声が漏れて驚く。キスは止まらない。
 頬を撫でていたハルくんの手が、耳の方へと移動する。それから、耳たぶを摘まれたり、耳のふちをゆっくりと撫でられる。
 そのうち、耳の中へと彼の指がゆっくりと侵入してきた――

「~~~んぁ゛っ……」

 勝手に体がびくんと震え、大きな声が漏れてしまった。
 ずるずると耳の中を撫でられるたびに、自分の意思とは関係なくぴくぴくと肩が揺れてしまう。
 
「ぁ、ん……ふ、……ぅ……」
 キスをしながらも、声が止められない。すると、ハルくんがキスを止めて唇を触れ合わせたまま「嫌?」と囁いた。至近距離にある真剣な表情。私は、初めてのキスに圧倒されて声が出せなかったが、大丈夫の意思を込めて微かに首を振った。
 私の反応を見て、ハルくんの目に安堵の色が浮かぶ。
 次の瞬間、またキスをされた。唇の隙間を分厚い舌が撫でてくる。初めて知る他人の舌の熱さとぬるぬとした感触に、驚いて口を開けてしまうと、ずるりと舌が入り込んできた。

「……~~ぉあ……っ」

 舌と舌が絡み合った瞬間、無意識にお尻の穴がきゅっと締まった。そして、こぽぉ……っと膣液が溢れ出てきた感覚。自宅でひっそりとえっちな漫画や動画を見ているときや、布団の中で夢中になってクリトリスを撫でている時に感じる感覚。――最高潮の性的興奮。

 私、キスだけですごく興奮してる。
 そう自覚したら、ハルくんの熱い舌がくちゅりくちゅりと口の中を舐め回すたびに、「ん、ん、」と甘えたみたいな声が止められなかった。
 恥ずかしい女と思われていたらどうしよう。そう思うのに、えっちな声を出して甘えることを止められない。

 ハルくん、もっとして。もっと大人のキスをして。もっとえっちなキスをして。
 うまく言葉にできない代わりに、顔を傾けて自分から深いキスを求めにいく。
 すると、ハルくんの大きな手が頭を何度も撫でてきた。指に髪を絡ませながら、何度も何度も優しく撫でられる。

「……っん、ちゅ、はぁ……えまちゃん、上手。大人のキス上手」
「んぁ、ぁ……っは、はぅ、くん……っ」
「耳んなか撫でられただけでびくびく体震わせて、舌くちゅくちゅしただけで幸せいっぱいの顔しとる。ほんまにえっちで可愛い子」
「ぁ、ん……っ」
「耳もいっぱいキスしてええ? もっともっと幸せにしたげたいねん」

 ふぅ、と熱い息が耳にかかる。それだけで頭がくらくらする。私は何も考えられないまま、本能で頷いていた。
 微かな頷きも、ちゃんとハルくんに伝わっていて、彼は耳元でくすっと小さく笑った後、私の耳にしゃぶりついた。

「ぅぁ……~~~~っ……♡」

 熱くヌルついた舌が差し込まれると、自然と背中がのけぞる。離れないでと言わんばかりに、ハルくんが私の腰をしっかりと引き寄せて、もっともっと深く耳を舐めてくる。

「ぁ、っひ、ぃ……っは、♡」
「ん、ちゅ、えまちゃん、…ぢゅるっぢゅるっ……耳、気持ちええ? 真っ赤んなって可愛い……っ」
「んぁっ~~……だ、め……だめ、ぁ……っ」
「ちゅ、ちゅ、ぢゅるっ……っん? あかんの? 腰びくびくぅってして、ちょっと涎垂らしとるけど?」
「ひゃぁ……~~~~っ♡」

 ハルくんは、くすくすと笑いながら耳たぶを甘く噛んだ。それだけでまた恥ずかしい声が出てしまう。
 耳ってこんなに気持ちいところなんて知らなかった。トロトロと溢れてくる膣液でパンツが冷たい。えっちな気持ちが止まらない。
 お股のムズムズする感覚がもどかしい。

「は、はる、くん……っ」

 もっともっと触ってほしくて、私はハルくんの腕をギュッと掴んだ。
 彼は私の手に自分の手を重ねる。それからわざとら引く困ったように笑った。

「ほなやめよかな、えまちゃんが嫌なことは一個もできひんし」
「えっ、ぁ、だめ……!」
「だめ~? どっち? もっとしてもええの?」
「ぅ、う……!う……!」

 こくこくと必死に頭を縦に振る。ハルくんは「えっちなことに正直でええ子やなぁ」とまた私の耳を舐めしゃぶった。

「ちゅ、ぢゅうっ、ぴちゃ……っはぁ、えまちゃん耳されて、体むずむずする? ん?」
「ぁ、んっ♡す、する……っする……っ!」
「うんうん、ええ子。おまんこ濡れてきた感じする?」
「ぁ、ぁ、んぁっ♡ぬ、濡れて気持ち悪いの……っは、はぅくん、助け、助けてぇ……っ」

 掴んだハルくんの腕を引き寄せて、自分の股間部分に当てる。こんなに大胆な自分が信じられない、と意識の遠くで思うも、ハルくんの指がお股に当たる感覚が心地よくて、すりすりと腰をゆすってしまう。
 ハルくんが目を見開く。はしたないって思われたかもしれない。でも止められない。

「は、はるく……っあ、ん、ぁ、パンツ、びちゃびちゃ……っあ、ねぇ、さわって、あ、んぅ♡」
「~~~っ!! あーもー、どんだけエロくて可愛いねん……っ」
「ふぇ……? ぁ、ぁ、」

 ハルくんは自分の頭をぐしゃぐしゃと掻くと、私のパジャマ越しにおまんこをずりずりと撫で始めた。余裕のない乱暴な手つきが、心地よくてたまらない。

「こんなえっちな子やと思わへんかった……! 我慢するのも大変やねんで!」
「ぁ、ご、ごめ、なさ――」
「ええよ! 来週はもっともっとえっちなことするから! もっとえっちなとこ見せて!」

 あーもう可愛すぎる! と苦しそうにうめきながら、ゴシゴシとおまんこを揺さぶられる。布越しにおまんこのスジ全部が擦られて、むずむずしたものが解消されていく。
 ハルくんは手を止めないまま、また私の耳に舌を差し込んだ。ヌルついた舌でなぶられながら、熱く囁かれる。

「ぢゅるっぢゅるぢゅるっ……おまんこぐちゅぐちゅなってんねやろ? パジャマ越しでもわかるもん。おまんこあっつい。ここだけ熱持ってる。えっろい」
「ぁ♡ぁ♡ぁ♡ぁ♡」
「口と耳くちゅくちゅされただけで、とろっとろにえっちなお汁いっぱい出して、俺とセックスする準備万端なおまんこ作って、えまちゃんはほんまにええ子。ちゅ、ちゅ」
「ぁ、んぅ……っ♡はるくん、はるくん、♡はるくん、はぅ、く、♡」
「一ヶ月後は、俺の勃起ちんこでおまんこのナカいっぱいにしたるからな? むずむずの子宮に、あっつい精子流し込んで、二人でいっぱい幸せになろう
な……っ?」
「うん、うんっうんっ!♡ ぁ、きもちぃ、ぎもぢぃ……っ! ぁ、ぁ、ぁ、――

 パジャマ越しのわずかな快感が、ハルくんのいやらしい言葉を想像するだけで、大きなものへと変わっていく。

「ぉぉ゛っ、……~~~~~♡♡♡」

 背中をのけぞらせて絶頂する。一人でするオナニーよりも、ずっとずっと大きな快感。太ももがガクガクと震える。
 ハルくんは私をぎゅっと抱きしめると、優しく何度も背中をさすってくれた。耳や頬に、触れるだけのキスがたくさん落ちてくる。

「可愛い。こんなんで軽くイッてもうて……来週からどうすんの? ハルくん、ちんこ苦しい……」
「ぁ……♡…………♡」
「ぽやぽやしてる……可愛い……。お水とってくるから待っててな?」

 彼は私の頭を撫でると、ゆっくりとベッドに寝かせた。私は放心状態で天井を見つめていた。
 こんなにも気持ち良くて、来週は何が待っているのだろう。一ヶ月後、彼のおちんちんが挿入された時、私はどうなってしまうのだろう。
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