孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

かし子

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第1章 家族編

【2】今世は弟。そして兄様。

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赤ん坊になった僕はどうやら“アステル”という名前で、地球ではない星に生まれた...らしい。誰も何も説明してくれないから分からないが、とりあえず転生ということになるのだろう。
うーん...なんで前世の記憶を持ったまま生まれたのかは謎だ。重要な使命を言い渡された記憶もない。でもまぁ無いよりはマシ...なのか?

そんな僕はなんと運のいいことか、お金持ち貴族である公爵家に生まれていた。家には普通にメイドさんや執事さんが居るし、アンティークな調度品が広い部屋に所狭しと並んでいる。

今僕が寝ているベビーベッドもふかふかで、まるで雲の上で寝ているみたいだ。

「ぁう。」

下半身の違和感を感じて、喋れない口と動きにくい手足をバタつかせる。

「あら、アステル。どうしたのかしら?」

そう言ってベビーベッドから僕を抱き上げたのはとんでもないお胸と綺麗なブロンド髪を持ったとんでもない美人だ。この人が僕を産んだ、母のフェルアーノ様。
今日も水々しいお花の匂いをさせながら、エメラルド色の目を細めて美しく微笑んでいる。

その姿は、自分の“母親像”からかけ離れすぎていて、未だにこの人が母親だという実感がないのが正直なところだ。

「アステルがどうかしたか。」

近くの机で何かしていた黒髪長身の男性は、声からもわかるイケメン顔を覗かせた。金色の瞳がまっすぐ僕をとらえる。この人が父親のディラード様。父は僕の頬をふにふにと優しくつつきながら、低く耳馴染みのいい声で可愛いな、と呟いた。

いやいやまさか~自分は平凡顔ですよ!なんて初めは思っていたが、こんなとんでも美人と、とんでもイケメンから生まれたのならそりゃあ今の僕も整った顔をしているのかもしれない。
だって、子供の顔は親に似るらしいから。

『____は父さん似だなぁ。』って前世でも...あれ、うまく思い出せない。まあいっか。赤ん坊の脳みそならそういうこともあるだろう。

「何かが気に入らないみたいです。アステル、どうしたの?」
「ぅ~。」
「可愛いな。」
「もう。ディラード様はそればっかりじゃないですか。あら、そういえばそろそろおむつの時間ね。」

そうなのだ。精神年齢的にはきついが現在赤ん坊の僕はおむつに排泄をしなければいけない。


しかし、幸いなのがこの、



「“クリーン”」




魔法である。




どうやらこの世界には魔法が存在している。魔法なんて御伽話でしか見ないような世界で生きていた僕からするとこの世界の魔法がどんなものなのか正確には分からない。しかし、こうして母が指輪をした手を僕に翳して“クリーン”と言うと指輪の宝石が光ってオムツの違和感が消えるのである。魔法は使える人と使えない人がいて、母は使えないからこの魔道具?とやらに頼っているらしい。
しかしお風呂もこれで済ませるのは、温泉文化の日本人としては少し寂しい。
それでもまあ母のおかげでスッキリして気分が良くなったので、ありがとうの意味を込めて、うっうっ!と自己主張する。

すると父の顔が険しくなった。

「なんだ。本当に可愛いな...。」
「ふふっ、スッキリしてご機嫌なんですよ。ね?アステル?」
「ぅあう。」
「かわいい...。」

まるで太陽でも見るかのように目を細めた父は口癖のように僕に可愛いと言う。そんな父を見てやれやれ、と笑う母。


前世で微かに味わったような幸せな家庭がここにあった。


そんな時、コンコンとノックが聞こえる。
入れ、と父が言うと扉が開いた。そこに居たのは小さな父のようなイケショタである。
ただ違うのは父の瞳は金色で、この子の瞳は真っ赤だと言う事。
手には黒い革手袋をしていて、その手を胸に当てながら綺麗にお辞儀をした。顔だけでなく所作まで美しい。

「失礼します。ディラード様。」

「ああ、どうしたイーゼル。」

「エインツさんからの伝言で、今日の午後にアーノイド伯爵がいらっしゃるそうです。」

「分かった。応接間に通してくれ。」

「畏まりました。」

「イーゼル。」

「はい。」

「お前もアステルを愛でていくか?」

父がそう言うと、真っ赤な目が僕を射抜いた。
何を考えているのか分からない無表情。
この家に生まれてから何度か顔を合わせているが、僕は彼のこの無表情以外の顔を見た事がない。

...まるで、笑う事を忘れてしまった前世の僕みたいだ。


しばらく見つめ合ったが、その子は「...いえ。」と短く言って一礼するとスタスタと出て行ってしまった。
すごく素っ気ない。僕は何か嫌われる事をしてしまったのだろうか。

そう考えていると父の大きな手が僕の頭を撫でる。

「すまんな、アステル。イーゼルはお前のことが嫌いなんじゃない。...あの子にも、考えがあるんだ。」
「ぅ。」

悲しそうに彼が出て行った扉を見つめる父に短く返事をする。すると、「分かってくれるか。賢いなアステルは。」と笑いながら再び優しく撫でてくれた。

”イーゼル“は、僕にとっての兄であると聞かされている。ただ、少し事情があるようだ。それがなんなのか分からないが、...まるで前世の僕を見ているようで少し気になる。



親に対して、絶対的な壁を作っているのが特に。





(イーゼル兄様。...仲良くなりたいです。)






僕みたいに何かが、手遅れになる前に。


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