孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

かし子

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第1章 家族編

【1】前世と今

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_____目が覚めたら、赤ん坊になっていた。



...ふむ。全く意味がわからないので、とりあえず目が覚める前を振り返りつつ自己紹介をしておこうと思います。















僕は高校3年生の18歳、相良夕緋さがらゆうひです。

赤ん坊の頃から孤児院で育ったので実の親の顔は知らないのですが、きっと僕と同じように平凡な顔だったのだと思います。恨みは特にありません。

そんな僕は小学校に上がった頃、相良さん夫婦に引き取られ、この苗字を貰いました。

なんでも相良さん夫婦は長い間子供ができず、3年間の不妊治療もうまくいかなかったため、それならば養子を貰い受けようという事になったらしいです。そんな経緯で孤児院へとやってきたお二人と出会った僕は、孤児でありながら人懐っこく他より多少可愛げがあったため、気に入っていただけたようです。

お二人にとっては念願の子供だからなのか、僕はそれはそれはたくさん甘やかされました。おもちゃやゲームはたくさん買って貰ったし、旅行や外食にもたくさん連れて行ってくれました。

勇気を振り絞って「お母さん」「お父さん」と呼んだ日には泣きながら抱きしめてくれました。


血が繋がっていないのにこんなに愛してもらえるなんて、僕はなんて幸せ者なんだろうと思いました。親に捨てられた時点で既に終わっているような僕を拾い上げてくれたお二人にはとても感謝しています。
だから僕は、勉強も運動もお手伝いもたくさん頑張りました。

拾って良かったって、二人に思ってもらえるように。














しかし、その幸せも長くは続きませんでした。





それは僕が“相良”の苗字を貰ってから二年後の事です。

二人の愛は奇跡を起こしたのです。

そして、二人の愛の結晶として涙と笑顔に迎えられながら生まれたのは可愛い可愛い弟の朝陽あさひでした。クリクリとした可愛いお目目は希望でキラキラと輝き、ふくふくの頬には幸せがぎっしり詰まっています。
僕もとっても喜びました。
お子さんは、相良さん夫婦の念願でしたから、それが叶って僕も嬉しかったのです。



...自分と弟には明確な壁がある事をすっかり忘れて。







初めは少しの居心地の悪さから。


「ぁう~。」
「あらー朝陽は本当に可愛いわね。」
「そうですね!本当に可愛いです!」
「今週末ドライブにでも行こうか。」
「いいですね!きっと朝陽も喜びます!」
「あら、夕緋は週末お勉強をするんじゃなかったかしら?」
「...ぁ、えっと」
「そうか。なら仕方ない3人で行こうか。」
「そうね。」

「............いって、らっしゃい。」

次第に二人の優先は朝陽になって行きました。僕は後回し後回し。

でも、弟はまだ幼いから仕方ないんです。
僕はお兄ちゃんだから、まだ赤ん坊の朝陽を優先するのも当然!
...ただ、それがいつまで続くのか。終わりはあるのか。

その時は考えるのをやめていました。





「お母さん!これ今日のテストで100点を、」
「ごめんなさい。朝陽が熱を出したの」
「...あ!それは大変ですね!早く病院へ行かないと!」
「ええ。夕緋にお皿洗い頼んでいいかしら?」
「あ!はいっ!」



朝陽は体が弱く、しょっちゅう熱を出していました。そんな時こそお兄ちゃんの僕が支えなければ!と、お手伝いをがんばるのです。
朝陽はちいちゃくてまだか弱いからお兄ちゃんである僕が沢山頑張って、頑張って頑張って、...そうしたらまた二人が褒めてくれるかもしれない、なんて淡い期待を抱きながらせっせと皿を洗った。

久しぶりに僕の名前を呼んでくれて嬉しかったんです。

「朝陽~、おもちゃを買ってきたぞ~」
「ぱぱ!」
「ははっ!そうだパパだぞ~!可愛いなぁ!」
「あら、私の事は呼んでくれないの?」
「まぁま!」
「そうよ、ママよ~。今日の夕飯は朝陽の好きなトマトのスープにしましょうか!」
「しゅーぷ!」

そんな幸せそうな家族団欒を、昼食で使った食器を洗いながら眺めます。
...僕はトマトが苦手だから、今晩の夕飯は憂鬱だなぁと思っていると、ふっと手から力が抜けて、

____ガチャン!

お皿がシンクに当たって割れてしまいました。

「っぅわぁ~~ん!!」
「朝陽!大丈夫よ。びっくりしちゃったわね。...ちょっと!」
「こら夕緋!何やってるんだ!」
「ぁ、す、すみませんっ。すぐ片付けます!」

朝陽が生まれてから、僕は怒られることが増えました。前まで怒鳴るなんて事は一度もなかったため、大きな声で怒られてしまうと心臓が速くなってしまいます。
そして、もう僕を『怪我はしてないか?』と心配してくれる人はこの家に居ないのだと、血の滲む指先を見つめながら絶望しました。

こんなに怒られてばかりの僕では、きっともう二度と褒めては貰えないでしょう。

僕を引き取った事を、後悔しているかもしれません。



弟に構い続ける両親。
何もかも放置される僕。
もうこの家は、僕の家ではなくなってしまいました。

(元々、捨て子の僕に居場所なんて...。)

ふと過ぎる最悪な考えを頭を振って消します。
まだまだ!頑張れば大丈夫です!!



しかし無情にもその努力が無駄だと言うことを突きつけられます。



それは、僕が中学に上がった頃。
夜中に目が覚めてしまって、水を飲もうと一階に降りた時に聞こえた会話でした。
お母さんとお父さんは朝陽の事について話しているようでした。

「朝陽は好き嫌いが激しくて困るわ。夕緋はそんな事なかったのに。」
「はは!朝陽は私に似たのかもしれないなぁ。それに、

___夕緋とは血が繋がってないのだから仕方ない。」

「そうよねぇ。それにいまだに敬語だから、あまり家族って感じがしないのよ。」
「まあ養子ならそんなものだろう。」







そのあと、どうやって部屋に戻ったのかは覚えていません。ただ、布団の中で必死に声を殺しながら泣きました。



家族に突き放された悲しみと、
家族だと勘違いしていた惨めさと、
捨てられるかもしれない恐怖。






その日からは深く眠れなくなりました。






「...居場所が、なくなってしまった。いいや、元から無かった。全部勘違いだった。」





高校を卒業したら家を出よう。
本当は大学に行きたかったけど、もうこの家で家族ごっこを続けるのは辛い。これ以上僕にかけるお金を無駄だと思われたくない。
そう決心して胸の内を恐る恐る両親に打ち明けた。

この時の僕は、もしかしたら二人が引き留めてくれることを心のどこかで望んでいたのかもしれない。

しかし、僕が出ていく事を知った両親の明らかに嬉しそうな顔を見て、僕の心は...本当に、壊れてしまったんだ。
























そして、とある雨の日。
僕はトラックのブレーキ音が鳴り響く中、命の終わりを迎えた。

自分から飛び込んだのか、ただトラックが雨で滑ったのかはよく思い出せない。
全身が痛くて呼吸も痛くて、でもどれだけ僕が痛くても、もう心配してくれる人なんていないんだと思うと、その痛みは段々と薄れた。


それが、最期。










ただ、その日は僕の18歳の誕生日だった。
夕飯はトマトのスープだった。吐き気を抑えながら飲み込んだ。
父親が懐から取り出したプレゼントは、最近風邪が治った朝陽への物だった。
良かったわねと笑う母。喜ぶ朝陽。突然立ち上がる僕に、怪訝そうな顔をする父。

自分の足元がぐらつくのを感じて、咄嗟に外へ飛び出した。
雨の中を傘もささずに裸足で走った。
そして、カッと目に強い光が飛び込んで僕の体は固まった。


そんな、最期。































肺が潰れたのか呼吸ができず、手も足も捥げたように痛む中、死に際で霞む目に映ったのは______真っ赤なお月様だった。


「(きれい。)」


雨が降っていて、月なんて見えないはずなのに、僕はなぜかそれを見てひどく安心した。








そういえば僕が孤児院に捨てられたのも、雨の日だったらしい。
だったらこうして雨の日に死ぬ事は、とても理に適ってる気がした。

そんなどうでもいい事を思って、僕は、事切れた。






















「(...で、ここはどこでしょうか)」




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