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第2章 魔塔編
【23】暴走
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🌸お久しぶりです。第2章もお願いします!
この世界では魔力を持つ人と持たない人がいる。魔力を持つ人は、貴族平民に関わらずとても希少だ。
そしてその魔力は年齢を重ねると増え続け、12歳で魔法が覚醒する。
魔力さえあればどれだけ幼くとも小さな魔法は使えるものの、この覚醒を経ると使える魔法の種類も規模もぐんと広がるのだ。
ただ、覚醒したからといって全員が強力な魔法を使えるようになるわけではない。
要は、この覚醒によって「天才と凡才」に二極化するということだ。
と言っても天才に分類される人は、一つの国で片手で数えられるくらいしかいないとかなんとか。
ちなみに父は大きな魔力を持っているらしいが、操作が苦手らしくあまり日常で使っているのは見かけない。母も魔力はあるが、魔法具を操作する程度の力しかないらしい。
そして兄様は今年12歳で既に魔法覚醒の可能性のある者として選ばれている。これがとても希少な事だというのは最近知った。
魔力を持ち、12歳になった子は全員がその国の魔塔に集められ、儀式を行う。
この覚醒は特別な儀式によって引き起こされるのだが、同じ年の子は平民も貴族も玉石混合され魔塔に集められるという事だ。
僕はこれをベッドに寝ている兄様の横で父に説明された。というか現状に混乱して大泣きする僕を安心させ、宥めるために説明してくれたのだ。
というのも、現在兄様は高熱で寝込んでしまっているのだ。
今日の魔法の授業時間に突然倒れ、ベッドに運ばれた。そして診察の結果“魔力暴走”とやらを起こしているとのこと。
「...にぃしゃまぁ...。」
そそて、ベッドで寝ている兄様を見つめて半泣きの僕。額に濡れタオルを置いた兄様がそんな僕を見て弱々しく微笑む。
「大丈夫だ、アステル。心配ない。」
「うぅ...。」
魔力暴走というのは覚醒前の子供にたまに起こる事で、覚醒しきれていないのに魔力が急に増え続けることで体に異常をきたすらしい。
それも、魔力を抑える薬を飲めば良くなるとお医者さんは言っていた。だとしても、生まれて初めて見る兄様の弱った姿を目の前に、僕の不安は拭えない。
「イーゼル。お前は、ユノの忠告を無視して規定以上の魔法を使っていたらしいな。」
僕の後ろで仁王立ちする父が兄様に問いかけるが、その声は珍しく少し怒っていた。
ちなみに父の言った“ユノ”とは兄様の魔法の先生の名前で、父の古くからの友達らしい。兄様がこの家に来てから着任している先生らしいが、僕はまだ会ったことはないのだ。
父のお叱りを受けた兄様はしゅんとして素直に謝罪をする。
「はい。すみません。」
「どうしてそんな無茶をするんだ。」
「...少しでも、早く上達したくて。」
「...はぁ。お前は今でも十分すぎるほどの魔法の腕があると聞いている。何をそんなに焦ってる?」
「...自分に、守る力がない事が不安になったからです。」
そう言った兄様はゆっくりと手袋のない手で僕の頬を撫で迷子のような顔をする。
...正直、苦しんでる兄様には悪いが、普段は発光してるみたいに白いのに熱で赤くなっている頬とうっすらと潤んだ瞳のイケメンは破壊力が半端じゃない。見慣れてる僕ですら一瞬クラッときてしまうほどだ。
そんな僕のことなど知らない二人は真剣に会話を続ける。
「イーゼル。お前はまだ子供だ。守りたいものができて焦る気持ちも分かるが、お前も守られていい歳なんだ。だからアステルをこんなに不安にさせてまで無茶をするな。」
「はい。肝に銘じます。」
兄様の手が僕の頭の方に伸びて、髪を撫でる。
「...あしゅも、にいしゃま、まもりゅ。」
「そうだな。...いつも俺を守ってくれるのはお前だ。アステル。」
「ん!」
「では私達は席を外そう。アステルがいるとイーゼルはずっと起きようとするからな。」
そう言われ、いやだ!兄様と一緒にいる!とぐずったが「ゆっくり休ませてやれ。」という父のごもっともな意見に黙るしかなかった。そんな父に抱っこされて、少し寂しそうにする兄様へ手を振ってから部屋を出る。すると、ちょうど一人の男の人が兄様の部屋の前にやってきたところだった。
その人はは父の前で両足を揃えて、お辞儀をする。
「ご無沙汰しております、ディラード様。」
「ああ、イーゼルなら今寝たところだ。」
「そうですか。なら大丈夫そうですね。」
「息子が迷惑をかけるな。」
「迷惑だなんてそんな。私もしっかり注意して見ておくべきでした。指導する身として不十分だったことを反省しております。...おや、そちらはアステル様ですね。初めまして、イーゼル様の魔法の先生をしています、ユノと申します。」
初めて見たユノ先生は晴れた空みたいに薄い青色の髪が肩ほどまで伸びていてサラサラしており、優しそうな顔は丸メガネの中でにっこりと微笑んでいた。そして体のラインがわからないような上等な黒いマントで体を覆っているが、絶対にスタイルはいいだろう。
だって父には及ばないがとても背が高い。あとイケメン。
何はともあれ小学校の先生みたいに優しい人なのは声の穏やかさからも伝わってくる。
僕は兄様にこんなに良い先生がついていたという安心で、瞬時に緊張と警戒が解けた。
僕も今年で4歳になるから、自分から挨拶だってできるんだ。
「こんにちは!ゆのせんせい!」
「はいこんにちは。元気な挨拶をありがとうございます。イーゼル様のお話の通りお可愛らしいですね。本当に天使がいらっしゃったのかと思いました。」
「そうだろうそうだろう。アステルはとっても可愛いんだ。」
そう言って父が自慢げに腕の中の僕をユノ先生に見せつけるから少し恥ずかしい。
たとえ親にとって息子が可愛くても、他人から見てもそうとは限らないだろう。
それでもユノ先生はなんの混じり気もなくええ、と肯定して笑ってくれた。
「アステル様も魔力を持っているのでしたらぜひ私がお教えしたいですね。」
「いいんですか?」
「勿論です。」
「わぁ~!!」
すごい!
僕もいつか兄様と一緒に魔法を使えるようになるのかなぁ...とわくわくしていたら、僕を抱っこしている父が渋い顔をした。
「いいやダメだ。ユノは確かに優秀な魔法師だが、指導がスパルタすぎて過去に何人も教え子が音をあげているだろう。」
なんと。
ユノ先生はこんなに優しそうなのに、実はとっても厳しいのか。以外にも、怒ったら一番怖いタイプかも。
「酷いですねぇ。それは生徒の事を常に思って指導した結果ですよ。魔法は才能の割合が大きいですが、努力で補える部分は限界まで高めるべきだと思っているだけです。」
「それは分かるが、いったい今まで何人泣かせてきたんだ?イーゼルは賢い上に胆力もあるからお前の授業もついていけるかもしれないが、もしお前の授業でアステルを泣かせてみろ。イーゼルが何をするかわからないぞ。」
え...?兄様?
つまりモンスターブラザーってこと?モンスターペアレントではなくて?
そう思ったが、父の顔は真剣そのものだった。
まあ、兄様は少し過保護なところがあるし、とっても優しいから両親以上に僕のために怒ってくれる可能性は大いにある。
「確かにイーゼル様はとても優秀な方です。しかし、だからといってアステル様に同じ授業をするわけではありませんので、安心してください。”ゼルビュートの天使“を泣かせたら公爵家を丸々敵に回すようなものですからね。」
ちらり、とユノ先生と目が合う。
「...ただ可愛すぎると少しいじめたくなる性分「よし、イーゼルに伝えておこう。」冗談です。」
ユノ先生...。まともで優しそうに見えて、少し変なところがあるっぽい。
ていうかゼルビュートの天使って何だろう。赤ん坊は可愛いから、みんながそう呼ぶだけか。
それより兄様大丈夫かな...。急に不安になってきた。
兄様は同い年に比べたら大人びていて強いけど、流石に先生になるほどの魔法師にいじめられたら勝てないのではないだろうか。
怖いこととかされてないかな...。
「大丈夫ですよアステル様。イーゼル様は私なんかよりよっぽど強い魔法師になります。」
「ひゃ...。」
「おや新鮮な反応ですね。」
急に心を読まれて驚く。
しかしユノ先生はニコニコと先ほどと変わらない顔で僕を見ていた。
魔法師怖い...。
「怖くないですよ。」
「ぁうぅっ...!!」
「ユノ。アステルを怖がらせるなら接触禁止にするぞ。」
「すみません。アステル様が表情豊かで分かりやすいものですから、つい楽しくなってしまいました。イーゼル様は一切表情を変えないので、兄弟でありながら対照的ですね。」
「一切変えないわけじゃないぞ。イーゼルもアステルの前だと常に笑顔だ。」
「...本当ですか?」
「お前じゃないんだから冗談なんか言わない。」
「にいさま、いっぱいにこにこ。すきです。」
「...興味深いですね。」
ニコニコの顔から一転、真剣な顔で顎に手を当てたユノ先生は「それでは今度、一緒にお茶をしましょう。イーゼル様も交えて。」と僕を誘った。
絶対に兄様を観察したいだけだ。
▼
イーゼルと一緒に居られなくて寂しそうなアステルをメイドと共に庭へ遊ばせに行き、執務室にユノと共に入る。
執務室の扉がゆっくりと閉まると、ユノは真剣な顔で話し始めた。
「ディラード様。」
「ああ、なんだ。」
「イーゼル様のことですが、事前の魔力検査の結果からも、おそらくとても強い魔法が覚醒すると思われます。」
「ほぉ。」
イーゼルはとても賢く努力家であるから、優秀な魔法師になるだろうとは思っていたが、そこに天性の才能まであるなんて。うちの息子はなんて素晴らしいんだ。帝国中に自慢したい。
その思いをそのまま、「私の息子は天才なんだな。」とユノに伝えると、若干微妙そうな顔をした。
「まぁ...そうなんですが...。前代未聞なので、何が起こるか分からないのです。魔塔のには予め別室で儀式を行うように伝えておきました。」
「そうか、感謝する。で、イーゼルの体はどうだ?」
「何もなければ、儀式まではもつと思います。」
もつ、と言ってもその間イーゼルは苦しまなければいけない。親として、子供の苦しみは長引かせたくはないものだ。当たり前に。
「はぁ...。どうして決まった日に儀式をやらなければいけないんだ。今のイーゼルだったら今すぐにでも魔法が覚醒できるだろう。」
「ええ、私も同感です。むしろ初めてお会いした頃には既に可能でしたよ。近年の研究では、魔法の覚醒に年齢は必ずしも関係するわけではないと言われています。あくまで9割以上の人間にとって12歳が適齢なだけであって、それよりも遅いことも、早いこともあり得ると。」
「だがなぁ。魔塔や魔法協会の方は頑固だから今までの形式を変える気は無いだろう。」
「そうですね。魔塔もそうですが、協会の方は更に頭が硬く、体制を整えるのも遅いですからね。」
「ふむ。やはり、イーゼルは魔塔や協会には入れさせないようにしよう。」
「というよりアステル様と離れることは、まずあり得ないのでは?」
「そうだな。」
ユノも今日アステルと会ったばかりなのによく分かっているじゃないか。
その言葉には、全面的に同意して残りの仕事に取り掛かる。
庭園の方からはアステルの元気な声が聞こえてきた。
この世界では魔力を持つ人と持たない人がいる。魔力を持つ人は、貴族平民に関わらずとても希少だ。
そしてその魔力は年齢を重ねると増え続け、12歳で魔法が覚醒する。
魔力さえあればどれだけ幼くとも小さな魔法は使えるものの、この覚醒を経ると使える魔法の種類も規模もぐんと広がるのだ。
ただ、覚醒したからといって全員が強力な魔法を使えるようになるわけではない。
要は、この覚醒によって「天才と凡才」に二極化するということだ。
と言っても天才に分類される人は、一つの国で片手で数えられるくらいしかいないとかなんとか。
ちなみに父は大きな魔力を持っているらしいが、操作が苦手らしくあまり日常で使っているのは見かけない。母も魔力はあるが、魔法具を操作する程度の力しかないらしい。
そして兄様は今年12歳で既に魔法覚醒の可能性のある者として選ばれている。これがとても希少な事だというのは最近知った。
魔力を持ち、12歳になった子は全員がその国の魔塔に集められ、儀式を行う。
この覚醒は特別な儀式によって引き起こされるのだが、同じ年の子は平民も貴族も玉石混合され魔塔に集められるという事だ。
僕はこれをベッドに寝ている兄様の横で父に説明された。というか現状に混乱して大泣きする僕を安心させ、宥めるために説明してくれたのだ。
というのも、現在兄様は高熱で寝込んでしまっているのだ。
今日の魔法の授業時間に突然倒れ、ベッドに運ばれた。そして診察の結果“魔力暴走”とやらを起こしているとのこと。
「...にぃしゃまぁ...。」
そそて、ベッドで寝ている兄様を見つめて半泣きの僕。額に濡れタオルを置いた兄様がそんな僕を見て弱々しく微笑む。
「大丈夫だ、アステル。心配ない。」
「うぅ...。」
魔力暴走というのは覚醒前の子供にたまに起こる事で、覚醒しきれていないのに魔力が急に増え続けることで体に異常をきたすらしい。
それも、魔力を抑える薬を飲めば良くなるとお医者さんは言っていた。だとしても、生まれて初めて見る兄様の弱った姿を目の前に、僕の不安は拭えない。
「イーゼル。お前は、ユノの忠告を無視して規定以上の魔法を使っていたらしいな。」
僕の後ろで仁王立ちする父が兄様に問いかけるが、その声は珍しく少し怒っていた。
ちなみに父の言った“ユノ”とは兄様の魔法の先生の名前で、父の古くからの友達らしい。兄様がこの家に来てから着任している先生らしいが、僕はまだ会ったことはないのだ。
父のお叱りを受けた兄様はしゅんとして素直に謝罪をする。
「はい。すみません。」
「どうしてそんな無茶をするんだ。」
「...少しでも、早く上達したくて。」
「...はぁ。お前は今でも十分すぎるほどの魔法の腕があると聞いている。何をそんなに焦ってる?」
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「はい。肝に銘じます。」
兄様の手が僕の頭の方に伸びて、髪を撫でる。
「...あしゅも、にいしゃま、まもりゅ。」
「そうだな。...いつも俺を守ってくれるのはお前だ。アステル。」
「ん!」
「では私達は席を外そう。アステルがいるとイーゼルはずっと起きようとするからな。」
そう言われ、いやだ!兄様と一緒にいる!とぐずったが「ゆっくり休ませてやれ。」という父のごもっともな意見に黙るしかなかった。そんな父に抱っこされて、少し寂しそうにする兄様へ手を振ってから部屋を出る。すると、ちょうど一人の男の人が兄様の部屋の前にやってきたところだった。
その人はは父の前で両足を揃えて、お辞儀をする。
「ご無沙汰しております、ディラード様。」
「ああ、イーゼルなら今寝たところだ。」
「そうですか。なら大丈夫そうですね。」
「息子が迷惑をかけるな。」
「迷惑だなんてそんな。私もしっかり注意して見ておくべきでした。指導する身として不十分だったことを反省しております。...おや、そちらはアステル様ですね。初めまして、イーゼル様の魔法の先生をしています、ユノと申します。」
初めて見たユノ先生は晴れた空みたいに薄い青色の髪が肩ほどまで伸びていてサラサラしており、優しそうな顔は丸メガネの中でにっこりと微笑んでいた。そして体のラインがわからないような上等な黒いマントで体を覆っているが、絶対にスタイルはいいだろう。
だって父には及ばないがとても背が高い。あとイケメン。
何はともあれ小学校の先生みたいに優しい人なのは声の穏やかさからも伝わってくる。
僕は兄様にこんなに良い先生がついていたという安心で、瞬時に緊張と警戒が解けた。
僕も今年で4歳になるから、自分から挨拶だってできるんだ。
「こんにちは!ゆのせんせい!」
「はいこんにちは。元気な挨拶をありがとうございます。イーゼル様のお話の通りお可愛らしいですね。本当に天使がいらっしゃったのかと思いました。」
「そうだろうそうだろう。アステルはとっても可愛いんだ。」
そう言って父が自慢げに腕の中の僕をユノ先生に見せつけるから少し恥ずかしい。
たとえ親にとって息子が可愛くても、他人から見てもそうとは限らないだろう。
それでもユノ先生はなんの混じり気もなくええ、と肯定して笑ってくれた。
「アステル様も魔力を持っているのでしたらぜひ私がお教えしたいですね。」
「いいんですか?」
「勿論です。」
「わぁ~!!」
すごい!
僕もいつか兄様と一緒に魔法を使えるようになるのかなぁ...とわくわくしていたら、僕を抱っこしている父が渋い顔をした。
「いいやダメだ。ユノは確かに優秀な魔法師だが、指導がスパルタすぎて過去に何人も教え子が音をあげているだろう。」
なんと。
ユノ先生はこんなに優しそうなのに、実はとっても厳しいのか。以外にも、怒ったら一番怖いタイプかも。
「酷いですねぇ。それは生徒の事を常に思って指導した結果ですよ。魔法は才能の割合が大きいですが、努力で補える部分は限界まで高めるべきだと思っているだけです。」
「それは分かるが、いったい今まで何人泣かせてきたんだ?イーゼルは賢い上に胆力もあるからお前の授業もついていけるかもしれないが、もしお前の授業でアステルを泣かせてみろ。イーゼルが何をするかわからないぞ。」
え...?兄様?
つまりモンスターブラザーってこと?モンスターペアレントではなくて?
そう思ったが、父の顔は真剣そのものだった。
まあ、兄様は少し過保護なところがあるし、とっても優しいから両親以上に僕のために怒ってくれる可能性は大いにある。
「確かにイーゼル様はとても優秀な方です。しかし、だからといってアステル様に同じ授業をするわけではありませんので、安心してください。”ゼルビュートの天使“を泣かせたら公爵家を丸々敵に回すようなものですからね。」
ちらり、とユノ先生と目が合う。
「...ただ可愛すぎると少しいじめたくなる性分「よし、イーゼルに伝えておこう。」冗談です。」
ユノ先生...。まともで優しそうに見えて、少し変なところがあるっぽい。
ていうかゼルビュートの天使って何だろう。赤ん坊は可愛いから、みんながそう呼ぶだけか。
それより兄様大丈夫かな...。急に不安になってきた。
兄様は同い年に比べたら大人びていて強いけど、流石に先生になるほどの魔法師にいじめられたら勝てないのではないだろうか。
怖いこととかされてないかな...。
「大丈夫ですよアステル様。イーゼル様は私なんかよりよっぽど強い魔法師になります。」
「ひゃ...。」
「おや新鮮な反応ですね。」
急に心を読まれて驚く。
しかしユノ先生はニコニコと先ほどと変わらない顔で僕を見ていた。
魔法師怖い...。
「怖くないですよ。」
「ぁうぅっ...!!」
「ユノ。アステルを怖がらせるなら接触禁止にするぞ。」
「すみません。アステル様が表情豊かで分かりやすいものですから、つい楽しくなってしまいました。イーゼル様は一切表情を変えないので、兄弟でありながら対照的ですね。」
「一切変えないわけじゃないぞ。イーゼルもアステルの前だと常に笑顔だ。」
「...本当ですか?」
「お前じゃないんだから冗談なんか言わない。」
「にいさま、いっぱいにこにこ。すきです。」
「...興味深いですね。」
ニコニコの顔から一転、真剣な顔で顎に手を当てたユノ先生は「それでは今度、一緒にお茶をしましょう。イーゼル様も交えて。」と僕を誘った。
絶対に兄様を観察したいだけだ。
▼
イーゼルと一緒に居られなくて寂しそうなアステルをメイドと共に庭へ遊ばせに行き、執務室にユノと共に入る。
執務室の扉がゆっくりと閉まると、ユノは真剣な顔で話し始めた。
「ディラード様。」
「ああ、なんだ。」
「イーゼル様のことですが、事前の魔力検査の結果からも、おそらくとても強い魔法が覚醒すると思われます。」
「ほぉ。」
イーゼルはとても賢く努力家であるから、優秀な魔法師になるだろうとは思っていたが、そこに天性の才能まであるなんて。うちの息子はなんて素晴らしいんだ。帝国中に自慢したい。
その思いをそのまま、「私の息子は天才なんだな。」とユノに伝えると、若干微妙そうな顔をした。
「まぁ...そうなんですが...。前代未聞なので、何が起こるか分からないのです。魔塔のには予め別室で儀式を行うように伝えておきました。」
「そうか、感謝する。で、イーゼルの体はどうだ?」
「何もなければ、儀式まではもつと思います。」
もつ、と言ってもその間イーゼルは苦しまなければいけない。親として、子供の苦しみは長引かせたくはないものだ。当たり前に。
「はぁ...。どうして決まった日に儀式をやらなければいけないんだ。今のイーゼルだったら今すぐにでも魔法が覚醒できるだろう。」
「ええ、私も同感です。むしろ初めてお会いした頃には既に可能でしたよ。近年の研究では、魔法の覚醒に年齢は必ずしも関係するわけではないと言われています。あくまで9割以上の人間にとって12歳が適齢なだけであって、それよりも遅いことも、早いこともあり得ると。」
「だがなぁ。魔塔や魔法協会の方は頑固だから今までの形式を変える気は無いだろう。」
「そうですね。魔塔もそうですが、協会の方は更に頭が硬く、体制を整えるのも遅いですからね。」
「ふむ。やはり、イーゼルは魔塔や協会には入れさせないようにしよう。」
「というよりアステル様と離れることは、まずあり得ないのでは?」
「そうだな。」
ユノも今日アステルと会ったばかりなのによく分かっているじゃないか。
その言葉には、全面的に同意して残りの仕事に取り掛かる。
庭園の方からはアステルの元気な声が聞こえてきた。
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