孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

かし子

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第2章 魔塔編

【33】激昂

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「貴様はユノ様に教えを頂いておきながら、自分の事だけを考えていると言うのか?はっ、流石公爵家だ。とても貴族らしい行いだな。」

シェラルクは眉毛を上げながらあからさまに挑発を顔に出した。

「俺は、公爵家を愚弄する事だけは許さないと言ったはずだが。」

「事実を申したまでだとも言いました。」

沸々と湧き上がる怒りのままに牽制すれば、出会った頃と同じ文言で返される。

「お前の幼稚な偏見でものを語るな。魔塔にばかり籠っているから見聞が狭いな。」

「たかが12歳が何を。」

「たかが12歳にそう感じさせている自分を恥じた方がいい。」

「...ガキが。」

その時、シェラルクは右手に何かを“集めた”。

「っシェラルク!やめんか!」

「視野の狭い子供は一度痛い目にあった方が良いですよ!!」

シェラルクが右手を振りかぶって、何かを投げる動作をした。
その一瞬、その手の輪郭が歪むのが見えた。そしてその歪みを発生させている“何か”はものすごい勢いでこちらに飛んでくるため、横に飛んで避ける。
するとさらに追撃があり、俺が横へ飛ぶたびに、元いた場所には真っ黒な穴が空いていた。こんなものを体に当てられては、大怪我をしてアステルとの約束を破る事になってしまう。

そしてアステルはきっと、泣いてしまう。

「それはダメだ。」

帰って最初に見るアステルの顔は笑顔がいい。
再会を喜ぶ涙ならまだしも、悲しむ顔なんて言語道断だ。

部屋の中が壊れるのも厭わずに逃げ回る。時に近くの本棚に手をかけ宙に飛び上がり、体を捻りながら床に着地。時に執務机に飛び乗り、シェラルクの首筋を適当に拾った万年筆で狙う。しかし流石1級、簡単に魔法で防がれてしまった。まずいな。自分の手への反動が思ったよりも強く、衝撃を受けた手首が少し痛む。
今は攻撃せずに逃げる事を優先したほうがいいだろう。

そうして魔法攻撃と逃げの攻防が続くと、突然魔塔主の声が上がる。

「やめんかと言っておる!!シェラルク!!」

その時バチンッ!!!と何かが弾け、シェラルクは気を失ったように地面に伏した。
攻撃が止まった事で、俺も動きを止める。

至る所に穴が開く部屋は、酷い有様だった。

「はぁ...。すまない、イーゼル。魔法師が未覚醒の子供に攻撃魔法を使うなど、あってはならない事だ。お主が動ける人間で助かった。怪我はないかの。」

「ない。」

「なら良かった。それにしても見事な身体能力じゃ、さぞ良質な魔力が宿っていることだろう。シェラルクにはきつく言っておく。本当にすまない。」

「...俺を試したか?魔塔主ともあろう人間が1級を止められないとは思えないが。」

「さてのぉ。して、本当に魔塔に入るつもりは「ない。くどい。」...残念じゃ。お主が魔塔の一員になってくれれば、魔法研究は100年先に進むと思うのじゃが。」

「俺の他にも優秀な人間は沢山いる。そんな安っぽい甘言には靡かない。」

「事実なんじゃがのぉ...。」

仕方ない今の所は諦めるとするかの、と言って魔塔主は倒れたシェラルクを数人の魔法師を呼んで運ばせた。

「...あの坊主はユノの事になると周りが何も見えなくなるのじゃ。平生であれば怖いくらいに冷静なんじゃよ。」

「どうでもいい。俺は帰る。」

「ああ、長居させてすまなかった。明日の予定は無しにしておこう。ゆっくり休むといい。」

フッと魔塔主が手を振ると、視界は一瞬で自分の部屋の景色に変わった。
どうやら転移魔法で俺だけが飛ばされたらしい。

魔法師は勝手な奴らばかりだ。
それはユノ先生しか魔法師を知らない自分にとっては、嬉しくない認識の変化だった。

「...アステルには会わせないようにしよう。」

あんな傲慢で自分勝手な人間は、アステルの教育に良くない。


そう決めた俺は、とっととベッドに入り寝る事にする。







眠りに落ちる寸前、俺に魔法をぶつけるシェラルクの色んな感情がない混ぜになった瞳が頭をよぎった。

あの目と同じものを、俺は知っている。

















夢を見た。
嫌な夢だ。




『よぉ、元気か。』


2日に一回やっってくるその男は、俺をガキと呼ぶ。しかしまともな食事も無く水も日の光も新鮮な空気もないこの場所では体が弱るばかりで、俺は顔も上げられずに地面に転がっていた。

自分は、ゴミなのだと思った。

こんなものが、“生き物”のはずがなかった。

そんな事を思っていると、前髪が掴まれる。

『はっ、相変わらず不気味だなァ。こーんなに痩せちまって。...おら、これが最後の食事だ。』

そう言って落とされたのは、腐ったパンだった。そしてそれは汚い靴で目の前で踏み潰される。

『ちなみにそれが最後の飯だとよ。...お前はとうとう父親に見放されたんだ。じゃあな、

_____悪魔の子。』




男の目は明らかな恨みによって澱んでいる。全く身に覚えはないが、俺はこの男の恨みの対象になっているらしい。

俺が、悪魔から生まれたからだろうか。
赤い瞳をしているからだろうか。






だが、俺にはその“恨み”という感情が今でもよく理解できないのだ。




しかし、もしここにアステルがいたのなら「兄様をいじめるな!」と怒ってくれるんだろうなと思うと、そんな感情とは無縁でいいと思えた。





だからどうせ夢を見るなら、アステルの夢を見たかった。






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