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第2章 魔塔編
【35】衝突
しおりを挟む「にいさまにてがみをかきます!」
「あら、我慢できなくなっちゃったかしら?」
「はい!ぼくは、にいさまのてがみがいっぱいほしいです!」
母の言う駆け引きも分かるが、そもそも僕と兄様は兄弟なのだ。それにすでに大好き同士なのだから、駆け引きよりもたくさん文通したい。
という事でもう次の手紙に取り掛かる事にした。
と言っても兄様の手紙を受け取ってから、もう一週間は経ちそうだ。
返事が遅い事で兄様が不安になってたらいけない。早く出していっぱい好きを伝えないと。
「じゃあ、今回は何を書きましょうか。」
「このまえゆのせんせいとおさんぽしました!ってかきます!」
「あら先生に?良かったわねぇ。」
「はい!ゆのせんせいとにいさまのことをいっぱいはなしました!にいさまがすごいんです!にいさまは、すごいまほうをつかえるようになるんです!」
「ふふっ、そう。イーゼルの才能はユノ先生のお墨付きね。」
母が聞き上手なおかげで、でねでね、と口が止まらない。ああ、文にするには長すぎるから短くしなきゃいけない。でも全部伝えたい。
僕は元気に暮らしてるから、兄様もどうかお元気でって。
僕は離れていても兄様が大好きだよって。
そうしてまた兄様の愛が詰まった手紙を貰うんだ。
「イーゼルの返事が楽しみね。」
「はい!」
▼
コンコン、と部屋がノックされる。
俺は1日の休暇を経て、再び眠りにつこうとしていた時だった。ドアの向こうの気配はシェラルクだった。
昨日あれだけ一方的に攻撃してきたのに、どんな用事があると言うのだろうか。
魔塔主に謝罪に行けとでも命令されたのか。
なんて考えを巡らせながらドアを開ける。
そこには予想通りシェラルクが立っていた。
しかし、顔は俯いていてどんな表情をしているのかわからない。余程、俺に謝るのが嫌らしい。
「...何の用だ。」
声をかけるが反応がなかった。
そこで気づく。...なにか、様子がおかしい。
しばらく待っても動きがないためドアを閉めようとすると、そのドアがガッと手で止められる。
シェラルクは、やっと顔を上げ、同時にドアを掴むのと反対の手も上げた。
その手には、手紙があった。前と同じ黒い封筒だ。
アステルの大きくて可愛い金色の文字で『イーゼル兄様へ』と書かれているのが見える。前より更に文字が上手くなっている気がして心が温かくなる。
今度はどんな幸せを俺にくれるのだろうか。
それだけで、こいつに理不尽に攻撃されたことすら全てどうでも良くなった。
「その手紙を届けにきたのか。」
すぐにそれ受け取ろうと手を伸ばすが、なぜか手紙は遠ざかった。
なんだと思って見たシェラルクは、不躾にその深い金色に俺を映すとギュッと目を細める。
嫌な予感を感じたのは一瞬。
「...ハハっ。」
シェラルクは、口元を歪めて抑えられない笑みのまま何も言わずに、手に持ったアステルの手紙を見る。
くしゃ、と手紙に皺が寄った。
「おい、なにを、」
_____その時、手紙が火を吹いた。
「っ!?」
あまりに信じ難い光景に、体が固まる。
その間にも、手紙は燃え上がる。
そしてせいぜい数枚程度の紙でできている手紙は、
あっという間に影も形もなくなり、
炭となり、
花びらのように宙を舞って、
虚しく床に散ってゆく。
「..................は.........?」
目の前で起こった事が理解できずに、呆然と地面に落ちた灰を見つめる。先ほどまでアステルの手紙だったものだ。
そんな俺を見てシェラルクは更にくすくすと笑った。
俺を嘲笑っていた。
その顔が、地下牢にいた俺に食事を運んでいた野郎と被って見えた。惨めな俺を下に見ることが、たまらなく楽しいという表情。
いや、そんな事はどうでもいい。
今こいつは何をした?
アステルの手紙を燃やしたか?
俺の、全てを。
「ぁ゛、」
現状を理解すると共に握り潰すように掴んだ己の腹の奥が、急激に熱くなり、息が詰まる。
今までに感じたことのない苛烈な感情が、体を引き裂いて出てきそうだった。
「はっ。...いい顔ですね。」
シェラルクの恨みを込めた目。
___拙いアステルの文字。
こいつの愉快そうな顔。
___受け取るはずだったアステルの言葉。
灰をゴミのように払う手。
___アステルの想い。
嘲笑。
頭の奥底で誰かが慟哭する。
こいつを、許すなと。
____《にいさま、いってらっしゃい!》
「少しは自分の行いを反省する気になりましたか?」
____《にいさまは、げんきですか?》
「贅沢な暮らしに身を肥やす貴方には分からないかもしれませんが、」
____《ぼくは、とってもさびしいです。》
「...あの方を失った私の苦しみは、こんなものじゃない。」
《“イーゼル兄様、大好きです!”》
「あなたは、「殺す。」」
「お前は、絶対に殺す。」
そう口に出すのと同時にバキン!と体の中で何かが割れる音がした。
[アァ、やっとか。久しぶりだな。]
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