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第2章 魔塔編
【37】心配
しおりを挟む「イーゼルが、倒れた...?」
執務室でいつものように仕事をしていたディラードは執事のエインツからの報告に言葉を失った。
エインツの手には魔塔からの報告書がある。
「はい。完全ではないですが、魔法が覚醒した可能性があるらしいです。」
「儀式はまだ先の筈だが。」
「それが...どうやら向こうの魔法師と衝突があったようで、その影響と考えられます。」
「衝突?」
「はい。報告書には1級魔法師との衝突と書かれていましたが、イーゼル様に非は無いようです。その時、感情の制御ができずに魔力が溢れ覚醒した、と。」
「アステル以外に無関心なイーゼルをそこまで怒らせるなんてその魔法師は一体何をしたんだ。アステルからの手紙でも燃やしたのか?」
まさかそんな蛮行をする奴は居ないだろうと思い冗談で言ったのだが、苦笑いでエインツは答えた。
「その通りです。」
「冗談のつもりだったのだが...。...はぁ。それは、どれだけイーゼルが傷ついたのか想像もできないな。相手は?死んでいないか?」
魔塔の人間を殺してしまったとなると少々手続が複雑だ。揉み消さなければいけないことも増える。まあ可愛い息子のためならその程度の事は厭わないが。
しかしそれは杞憂だったようでエインツは大丈夫です、と報告書に目を落とした。
「相手の怪我は両腕の骨折で、現在は回復薬で治っています。」
「イーゼルに怪我は?」
「急な魔力解放と無理やりな魔法使用で気絶しただけで、命に別状はないと。すぐに補佐官に診察させるとの旨と丁寧な謝罪が届きましたよ。」
「はぁ、そうか良かった。ではすぐに魔塔に向かおう。詳しい事とこれからの事を話し合う。...アステルの手紙を燃やした人間にも話を聞かなければな。」
「残りの業務は。」
「息子の身の安全以上に優先する事はないだろう。ああ、アステルにはなんて言うか...。」
____「おとーさま!!」
「...アステル?」
突然扉の外から声がしたかと思うと、子供の弱い力で扉が叩かれる音がする。まさかと思い開けると、足元で必死な顔をしたアステルが私を見上げていた。その小さい体でここまで走ってきたのか息はきれ、額に汗が浮かんでいる。すぐに執事にタオルと飲み物を取りに行かせながら、こんなに焦ってどうしたのかと思い抱き上げながら話を聞く。
「一人で来たのか?どうした?」
「なんか!なんか、もやもやします。はやく、にいさまにあいたいです。いますぐあいたいです!っいますぐです!!」
はやく!!と必死に急かすアステルは今にも泣きそうだった。
「...そうか。」
さすがは私の息子。随分と勘がいいようだ。そして兄の事が大好きなようで何よりである。
「イーゼルが魔塔で倒れたらしい。」
「!!に、さまが...?」
つい先ほど報告された事を伝えれば、アステルは途端に顔色を悪くしてぽっかり空いた口を手で塞いだ。見開かれた瞳に水の膜ができる。
「大丈夫だ。命に別状はないらしいからな。それで、今から魔塔に行こうかと「ぼくもいきます!!」...やはりそうか。」
▼
ある時、母にもらった絵本を読んでいると、びびっとやな予感がしたのですぐに父の執務室に行った。すると、なんと兄様が倒れたと言うではないか。
すぐに手を上げて自分も行く事を宣言するが、父は申し訳なさそうに笑った。
「ごめんな、アステル。魔塔は魔力の有無が分からない子供にはとても危険な場所なんだ。」
「やだ!!ぼくもいきます!!」
「駄目だ。」
「っ...ぅ~...。」
家族に甘々な父がここまで言うのなら、きっと本当に行かしてはもらえない。しかし早く兄様に会って無事を確認したいのに、という思いとぶつかって素直に頷く事ができない。
子供の体では“我慢”という事をするだけで勝手に涙が溢れてくるのだ。
「アステル...。」
「...わかってます。おとうさまは、ぼくのためにいってるんだって。...でも...でもぉ...っにいさまがぁぁ...!」
「では私に協力させてくれませんか?」
「...ユノ?」
いつの間にか部屋にいたユノ先生は、僕の顔を見て優しく笑った。
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