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第2章 魔塔編
【38】判断
しおりを挟む私、魔塔主補佐官のディエゴは、遠方への学会出席の最中に突然出ていった魔塔主に呼ばれて魔塔に帰ってきていた。魔法覚醒の儀式はまだ先だが、騒がしい魔塔内の様子から何やら緊急事態があった事を察する。
そもそも、学会に代理で出席していた私が呼ばれた理由も、今日突然に公爵家の当主が魔塔にやってくることになったからなのだ。
魔塔に着いてまず向かったのは魔塔内の救護室。それも一番機密性の高い部屋だった。
そこにあるベッドに寝かされているのは作り物のように綺麗な顔をした黒髪の少年だった。その子には帝国で最も名の知れてる貴族、ゼルビュート公爵家の当主の面影があった。確か今回の儀式への参加者の中にその長男の名前があったはずだ。
そして魔塔主様に言われるがまま彼を診察するが、すぐにその結果に愕然とする。
「なっ...。潜在魔力値がクラス、SS...?しかし解放度は...60%ほどでしょうか。完全な覚醒には至っていないようですが、今の所身体機能に影響はありませんね。」
自力で魔法を覚醒した事もそうだが、魔力量がクラスSSとなれば、魔塔主に軽く匹敵する。それも、魔塔主の魔力の量は長年研鑽を積んだ結果であるのに、この子のこれは生まれ持った才能だ。
これから伸びる可能性があると思うと想像を絶する。
「魔塔主様、この方は一体...。」
ベッドの横に立っていた魔塔主に聞くと、魔塔主は神妙な面持ちで目を細めた。
「そうじゃのお...。稀代の天才、といっても足りない______生まれながらの王だ。」
「王...。」
尊大な言葉かもしれないが、この子供は寝ていながらも圧倒的な“強者”の覇気を放っている。
生まれながらに人の上に立つべき人。その気配がこの子供から感じられる。
「ディエゴ。あれを見てみろ。」
目を細めた魔塔主の指差す方は、ベッドの脇にある一つの小さな机だった。花瓶に一輪の花が入ってるそのそばに、手紙が一通置かれていた。黒い封筒というのは珍しいが、特になんの変哲もない手紙に見える。
「これが、なにか?」
魔塔主に問いかけると、主は顎髭を撫でながらこう言った。
「シェラルクは一度、その手紙をイーゼルの目の前で燃やした。それに怒ったイーゼルが魔力を無理やり解放させ、覚醒したんじゃ。」
「燃やした...?て、ことは...。」
もう一度手紙を見る。
手紙には燃えた跡など一つも無く、綺麗な形を保っている。
同じものを用意したのかと考えていると、魔塔主から信じられない言葉が出る。
「“再生”じゃ。」
「なっ...12歳の子供が...なぜ、特級の魔法を...?」
転移魔法や広範囲の攻撃魔法などが上級に分類される中、“特級”はそのさらに上の魔法だ。今現在の世界にも、特級の魔法が使える者は片手ほどしか居ない。
それを、この子供が...?
信じられないと言う目で未だ眠り続ける子供を見つめていると、魔塔主がゆっくりと喋り始めた。
「魔法は古来、人の願いを叶える力として生まれた。その本来の役割に、イーゼルの強い思いが反応したんじゃろう。もちろんイーゼルに宿る才能とそれを裏付ける膨大な魔力がある事が前提じゃが。」
「...はぁ、これは協会に報告しないわけにはいかないですね。」
「それは儀式が終わって、イーゼルの魔法が完全に覚醒してからで良い。儀式に協会が介入すると面倒だからの。」
「分かりました。では儀式には私も同席します。勿論他の子供達とは別で執り行うんですよね?」
もしこの膨大な魔力が突然爆発でもしたら、そんじょそこらの魔法師では死んでしまう可能性もある。それには魔塔主も同意のようで深く頷いた。
「さすがにな。」
二人で救護室を出ながら儀式について詳しい事を話し合う。
「1級は何人集めましょう。」
「シェラルクを除いた中から2人じゃ。2級は5人かの。」
「シェラルクは無事なんですか?」
「ああ。あの手紙を燃やしてイーゼルに両腕を折られて、腹を刺される前に止めたからの。二人はしばらく接触禁止にするのが良いじゃろう。」
「あの冷静な男が何故そんな横暴な事を?」
「イーゼルの魔法の教師はユノだと言えば分かるじゃろう?」
「あぁ...。」
その名前を聞いただけで納得してしまう。
ユノと言えばこの魔塔で知らない人はいない。魔法学校を首席で入学、卒業。その後彼の師匠だと言う男と旅をしながら2級の資格をとってからは、地位にこだわる事なく各地で魔法研究に没頭していた変わった男だ。
その男が突然子供を拾い魔塔に戻ってきたかと思うと、親代わりになって育て、見事に1級魔法師に成長させた。
そして、手塩にかけて育てた拾い子のシェラルクの懐きっぷりと言ったら、異常なほどで、ユノの言うことしか基本的に聞かず、ユノの側を離れる事は決して無かった。
あの姿はもはや崇拝に近かった。
そんな中、何があったのかは知らないが、ユノは突然魔塔を出て行ったのだ。その時のシェラルクの動揺は凄まじく、魔塔の一部が倒壊する被害にあった。
それほどユノに入れ込む男と、ユノの教えを現在進行形で受ける者。
確かに、衝突はするか。
衝突というよりシェラルクの一方的な嫉妬と恨みだろうが。
「では、ディラードを迎えるとするか。きっと、とんでもなく怒っておるぞ。」
「そうですね。あの方は家族の事に敏感ですから。」
公爵様が愛する息子の地雷を踏み抜いたシェラルクを殺さなければいいが。
▼
「協力させてください。」と言ったユノ先生は不思議なものを持っていた。それはオルゴールの様に小さな箱だった。
「これは、通信器具です。」
「それは魔塔内でしか使えないんじゃ無かったか?」
「はい。元来この通信具は魔力を伝って声を届けるので、魔力の充満する魔塔でしか使用できません。しかし、これは最近私と...イーゼル様にも少し知恵を貸していただいて作った新しい通信具です。」
どうやら兄様はユノ先生との授業の中で、通信具の研究を協力して行っていたようだ。遠くにいる人と通信ができる。つまり前世でいう電話のようなものだろう。
「まさかそれで魔塔にいるイーゼルと話せるのか?」
「空間魔法の応用なので、せめて2級以上の魔法師が近くに居なければ扱えない代物ですが、向こうには優秀な魔法師がたくさん揃っていますからね。どうかこれを持っていってください。」
「凄いな。制限はあるにしても、画期的だ。」
「イーゼル様の助力のおかげですよ。...どうやら私の弟子がとんでも無い事をしてしまったようですので。」
「ああ、だろうなと思った。お前の代わりに私が叱っておこう。」
「...必ず私も罰を受け入れます。何も言わずに出てきた、私の責任でもあるので。」
そう言ってユノ先生は申し訳なさそうに深く、頭を下げた。
「ふむ、全てはイーゼル次第だな。...アステル、私がイーゼルに会ったらすぐにこの通信具を通して報告する。アステルの声が聞こえればイーゼルもすぐに目を覚ますだろう。」
「私もそう思います。」
「...わかり、ました。...おるすばんします。」
「ありがとう優しいアステル。イーゼルは絶対に大丈夫だから、お前の元気な声を聞かせてやってくれ。」
父の手が優しく頭を撫でる。
「はい。...ゆのせんせいも、ありがとうございます。」
「いえ、本当にイーゼル様が倒れたのは私が原因でもあるので、罪滅ぼしにもなりません。この魔法具は私が操作しますね。」
「はい!おねがいします!」
そうして父はその日のうちに馬車に乗って魔塔へと向かって行った。
その姿を見送った日の夜。
僕は、兄様が無事でありますようにとお月様に両手を合わせて願ったのだった。
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