42 / 74
第2章 魔塔編
【40】会話
しおりを挟むゆっくり目を開けると眩しい光に一瞬眩む。数回瞬きをしながらアステルを探すように周囲を見渡す。
「...アス、テル...?」
「目が覚めたか、イーゼル。良かった。」
聞き慣れた声に顔を上げると、父上が安心したように微笑んでいた。ここは家ではなく、魔塔なのになぜ父上が?
「父上...?なぜここに。」
「お前が倒れたと聞いたから飛んで来たんだ。」
《にいさま!?にいさまのこえがします!!》
「っアステル...?」
聞き慣れた幼い声がして、その方を向くと知らない男が持っている箱からアステルの声がしていた。
《にいさま!よかった!めがさめたんですね!っほんとに、よかったです...!》
どうやらこれは通信具のようだ。ユノ先生が完成させたものだろう。しかしそこから聞こえるアステルの声は震えている。泣いてしまったようだ。俺が、泣かせてしまったんだ。
通信具にそっと触れながら、アステルの声に耳を傾ける。
《ぼく、にいさまが、たっ、たおれたってきいて、とっても、しんぱいで...!》
「ああ、心配をかけて悪かった。俺は元気だ。」
《よっ、よかったぁぁぁ...!!》
俺の声を聞いてアステルの声は明るくなった。泣き笑いのアステルが脳裏に鮮明に浮かんできて、ここ数日無意識に詰めてた息が吐き出される。
それでも今この瞬間、抱きしめてその涙を拭ってやれない事がもどかしい。
しかしその反面、俺のために泣いてくれてるのかと思うと胸が締め付けられるほどの喜びを感じてしまう。
「よし。ではイーゼルはしばらくアステルと話してやってくれ。不安なまま家に置いてきてしまったからな。...魔塔主殿は、少し話がある。」
「分かった。」
「私も行きます。イーゼル様、この通信具は魔塔の魔力回路に繋げておきますので。」
「ああ、感謝する。」
そう言って渡された通信具をそっと受け取ると、父上を含めた3人は部屋を出て行った。目が覚めると父上がいたことには驚きだが、今はこちらの方が大切だ。
「アステルは、元気にしてたか?」
《はい!さいしょはとってもさびしかったけど、おかあさまがおてがみをかこうといってくれたんです!》
「ああ。前よりも字が上手くなっていたな。手紙も本当に嬉しかった。ありがとう。」
《ほんとうですか!ぼくも、にいさまのてがみとってもうれしかったです!!にいさまがかいてくれる、ぼくのなまえ、とってもきれいでだいすきです!》
「...そうか。」
アステルの“光”を久しぶりに浴びて、若干目が眩む。アステルの手紙を燃やしたシェラルクは何が何でも殺してやろうと思っていたが、朧げな記憶でそれはなぜか元に戻せたし、今もベッドの横の机に綺麗な形のまま置いてある。
ならば、まあ殺すほどでもないか。アステルに触れる手をわざわざ他人の血で汚す必要はない。
《えへへ...ほんとうにげんきそうでよかったです。あ!このつうしんぐ?は、ゆのせんせいがまとうにいけないぼくのために、つかわせてもらってるんです!》
《そうですね。ギリギリ完成したので。》
「先生は天才ですね。」
こんな遠方でもアステルの声を聞けるようにしてくれるなんて。本当に感謝しかない。どこかの1級とは大違いだ。
《大袈裟ですよ。...しかし、私の弟子が迷惑をかけたようで、それも貴方に魔法で攻撃までしたと聞きました。本当に...なんと、お詫びすればいいか...。》
《...こう、げき...?っ、に、にいさま、どこか、けがをしたんですか?!》
ユノ先生の言葉を聞いてすぐに俺を心配してくれるアステルのなんと可愛い事か。それだけで、たとえ俺の腕が一本飛んでいたとしても平気だと思える。アステルが泣くだろうからそんな道は選ばないが。
「怪我はしてない。大丈夫だ。」
《ちょっとも、ですか?》
「ああ。」
《...だれ、ですか。だれにやられたんですか。》
珍しく暗く沈むアステルの声。それが俺のために怒ってくれているのだと分かるから、どうしたって喜んでしまう。
アステルが俺を守ろうとしてくれているのは十分に伝わって、俺は口角が無意識に上がるのを止められなかった。
...でも、今はアステルの明るい声が聞きたかった。俺がこの世で1番好きな声だ。
「相手は魔塔の魔法師だが、俺は一切怪我をしていない。だから大丈夫だ。」
《にいさまは、ぼくをしんぱいさせないように、だいじょうぶっていいます。ぼくには、おみとおしですよ。》
「ふっ...ああ、そうだな。アステルには何でもお見通しだな。...でも、本当に大丈夫だ。本当に。」
《...........。》
「俺は、無傷だ。どこも痛くない。だから、どうかアステルの可愛い声を聞かせてくれ。」
《...かえってきたら、ぜったいかくにんしますからね。》
「アステルになら、いくらでも。」
愛する人に心配されるのは、何でこんなに心が浮き立つのだろうか。心配はかけたくないと思うのに、もっともっと心配してほしいと欲張ってしまう。
もっと、俺の事で頭をいっぱいにして欲しい。
当たり前のようにそう考えていると、今度はユノ先生の声がした。
《...私は未だに信じられないのです。いくらイーゼル様が優秀だとしても、相手は1級ですよ?》
「らしいですね。魔法自体は見えなかったのですが、とりあえず当たらないように避けたので大丈夫です。」
《それなら、不幸中の幸いですが...。必ず、私の方からも厳重注意をしておきます。魔塔主と話して、しかるべき罰も与えます。》
「怪我で言ったら向こうのほうが重症なので、俺はもうどうでもいいのですが...奴は先生に死ねと言われれば死にそうでしたね。」
俺の前で手紙を燃やした奴の目はまるで狂信者のそれだった。いったいどんな事をすればあそこまで盲信的になれるのか...いや、俺にとってのアステルだと考えれば分からなくもないが。
でも、俺ならアステルのそばに居るのに恥じない行動をするだろう。
《死にそうというか、恐らく死にます。それが良くないと思い距離を置いたのですが...こうして周りを危険に晒していては、単なる自分勝手でしたね。本当に申し訳ありません。》
《ぼくもにいさまいなくなったらかなしいけど、ひとをきずつけちゃめっ!です!》
《その通りです。アステル様は、あの子よりずっとよく物事を考えられています。》
「アステルとあいつを比べないでください。」
あんなのは図体がでかいだけのただの癇癪持ちの子供だ。
耐えられない負の感情を、なんの関係もない俺にぶつけるのだから、ただの癇癪持ちの子供より愚かだ。そんなものとアステルは比べるまでもない。
そもそも、この世界にアステルに敵う存在など居ないのだ。
《そうですね。私の教育も悪かったと、今更ですが反省しています。...イーゼル様。ディラード様は今どちらに?》
「魔塔主と、もう一人...恐らく補佐官と部屋を出て行きました。今頃シェラルクも呼ばれているでしょう。」
《では、その場に行ってもらえませんか?私から、弟子に話をします。》
「......。」
《アステル様と会話を続けたいのは重々承知ですが、どうかお願いします。後ほど時間を作りますので。》
《にいさま!きょうりょくしてくれた、ゆのせんせいのためです!ぼくからもおねがいします!でも、おきたばかりですから、むりしないでくださいね!》
「ああ。勿論だアステル。」
俺はアステルとの時間が何よりも大切だが、他ならないアステルの願いなら叶えるに決まっている。
俺のその思考が分かっている先生は《ありがとうございます、アステル様。》と言った。
3,192
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる