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第2章 魔塔編
【44】再会
しおりを挟むどうやら僕は兄様の魔法によって、兄様の腕の中に瞬間移動したらしかった。
驚いたが、それよりも久しぶりの兄様の抱っこによる喜びが一瞬で勝った。
ぎゅううう、と若干苦しいほど兄様が抱きしめてくるのを、自分も抱きしめ返す。
「アステル...アステル。会いたかった。見ない間に、髪が伸びたか?体重は少し落ちた気がするな。帰ったらたくさんお菓子を作ってやろう。アステルの好きなものを、たくさん。」
「にいさまも、おげんきそうでよかったです!おかしもはやくたべたいです!!さっきの、おおきなほのおは、にいさまのまほうですか?」
「ああ。アステルは熱くなかったか?」
「ゆのせんせいがまもってくれたので、だいじょうぶです!ほのおが、すっごくおおきくて、すごかったです!!にいさますごい!!」
「...そうか。ありがとう。」
「あすてるの、じまんのにいさまです!!かっこいい!!」
「っ......あぁ。」
そんな風に僕達が久しぶりの再会を喜び合っていると、僕の元居た位置から父達が近くまで来ていた。
全員微笑ましそうに僕達を見ている。
「イーゼルは魔塔にいる間にアステルへの免疫がなくなったか?泣きそうじゃないか。」
「ふふふっ、仲良しねぇ。離れていたから喜びもひとしおなのよね。」
「...本当にイーゼル様もそんな顔をなさるんですね。」
「皆様おそろいですか。」
兄様の近くにいた紫髪の長髪の男性が丁寧にお辞儀をした。この人も魔法師なのだろうか。
初めて見る魔塔の人に興味が出てくる。ちなみに兄様は僕の首に顔を埋めたまま動かなくなってしまった。きっと儀式と試験でお疲れなのだろう。
「補佐官殿。イーゼルが世話になったな。こちらが妻のフェルアーノで、イーゼルの腕の中に埋もれているのが次男のアステルだ。」
「初めまして。私は魔塔主補佐官のシャルル・ディエゴと申します。以後お見知り置きを。皆様はイーゼル様のお迎えで?」
「ああ。イーゼルは当然、合格だろう?」
「はい、勿論です。ユノはとても良い生徒を持ちましたね。」
「はい。」
そうか、魔塔の人ならこのディエゴさんとユノ先生は知り合いでもおかしくない。
あれ、そういえばユノ先生のお弟子さんはどこにいるんだろう。
ユノ先生、会えるのかな。
「...アステル、何を考えている?...ああ、もしかして先生からあいつの事を聞いたのか?」
「はい。...ふたりがあえたらいいなぁ...っておもいます。」
「それなら大丈夫だ。あれは先生の気配を察知したらすぐに飛んでくるだろう。だからアステルは俺の事を「ユノ様!!!!!」...チッ。」
言葉を遮られた兄様は、舌打ちをしながら声の主を睨んだ。
僕もそっちの方向を見ると、そこにはガッチリした体の短髪のお兄さんがいた。その目は見開かれていて、今にもこぼれ落ちそうだ。
そしてその視線の先には、困ったように笑うユノ先生がいる。
しかし、次の瞬間、ユノ先生の周囲の地面から氷の棒が伸び、先生の頭上で一箇所に繋がった。それはまるでユノ先生を閉じ込める頑丈な鳥籠のようだった
「...シェル。拘束具をつけたまま無理やり魔法を使うと死にますよ。...それに、こんな事をしなくても、私はもう逃げません。」
氷の檻の中で困ったように笑いながらユノ先生が“シェル”と呼ぶ人に視線を送った。
どうやらこの氷の檻はユノ先生の弟子の人、シェラルクさんが作り出した物のようだった。
「っ、分かって、います。しかし、また貴方が消えてしまうのではないかと思うと不安なんです。どんな形でもいいから、もう離れたくはないです。
もしまた貴方を失うくらいなら、私は...。」
ゆっくりとした足取りで囚われたユノ先生に近づいたその人は、震える手をユノ先生の頬に伸ばした。それを受け入れたユノ先生は、ここにくるための馬車の中で覚悟を決めた時と同じ顔をしていた。
『多少怪我をしてでも、それは逃げた私への罰として受け入れるつもりです。』
先生の言葉が頭をよぎる。
「っだめ!!!」
「...誰ですか。」
とにかく二人を止めようと大声で叫んだ。
そんな僕をシェラルクさんは怖い顔で睨む。
邪魔をするなとでも言うようなその顔に、思わず喉がきゅっとなる。
シェラルクさんは、ユノ先生より強い1級の魔法師だと聞いている。きっと僕なんて一瞬で黙らせることができる筈だ。
ああ、僕は絶対に怒らせちゃいけない相手を怒らせてしまった...、と思っていると、僕を抱っこしている兄様が一歩踏み出した。
そしてその足は躊躇うことなくどんどんユノ先生とシェラルクさんに近づいていく。
「に、にいさま...?」
僕は今1級魔法師の人を怒らせてしまっていて...!近づいたら何をされるか分からないですよ...!!
と言いたがったが、パニックで言葉は出ず、とうとうシェラルクさんの目の前まで来てしまう。僕はもう怖くて顔があげられなかった。もしこのままシェラルクさんが兄様に攻撃をするようなら僕が身をもって庇うしか無い。
そう覚悟を決めるが、兄様は躊躇なく話し始める。
...あれ?
もしかして、兄様も怒ってる...?
「...貴様、今アステルを睨んだか?」
「だから何です?...幼児は大人しくさせておいてください。」
冷たい声だ。胃の底が、スッと冷えるような感じ。
こんな風に大人に怒られるのなんていつぶりだろうか。僕は生まれた時から公爵家で甘やかされて育っているから、こうして真剣に注意をされる事も無かった。
自分がぬるま湯に浸かっていた事をこんな場所で自覚するなんて。
しかしその時、ガチガチに体が固まってしまった僕の頭にぽんと優しく兄様の手が乗った。そっと顔を上げると、兄様は他人に向けるいつもの無表情で、シェラルクさんを見つめていた。
...いや、なんか凄く怒っているな。こんな兄様初めて見た。
「俺は、弟の事に関しては気が長くない。貴様がアステルを視界に入れていると言うだけで虫唾が走る。」
そう言って兄様は、僕の頭に置いていた手を離すとそのまますぐ横の、シェラルクさんが作り出した氷でできた檻に触れる。
そして次の瞬間、
______バリンッ!!!!!!
「っ!?!?!?」
「ここは魔法至上主義の魔塔だろう。...俺はお前の希望なんて、簡単に打ち砕ける。」
氷でできた檻は、粉々に砕け落ちて床に瓦礫のように積み上がった。シェラルクさんは、驚きで目を見開いてそれを見つめていた。
「...強化魔法で、特殊加工していた筈ですが。」
「結果壊れているのだから、お前の方が劣っていたというだけの話だ。」
兄様がパチン、と指を鳴らすと氷が蒸発して地面から真っ黒な蔦のようなものが伸びた。その黒い蔦は、シェラルクさんの咄嗟の防御も打ち砕き、体に巻き付く。それに対し、シェラルクさんは体を捩ってどうにかしようともがくが、身動きは取れないようだ。
「...そのままお前は一生もがいていればいい。魔法も使えず、先生からも見放されて、全てを失ってここで朽ち果てたら、少しは自分の行いを後悔するか?」
兄様の口から出たのは、まるで死刑宣告のように恐ろしい言葉だった。
「っ.........。」
「言ってみろ。お前は、己を省みようとした事はあるか?先生の気持ちを汲み取ろうとした事は?力づく以外に、最良の方法を考えようとしたか?」
「..................。」
「お前は失うべくして、失ったんだ。」
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