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第2章 魔塔編
【45】話し合い
しおりを挟むその時、あたりに流れる空気は最悪だっただろう。
めちゃめちゃ怒ってる兄様に、宙に浮いたまま動けないシェラルクさん。暗い顔のユノ先生。
まるでお通夜のような空気の重さだった。
あれれ??僕はただ兄様をお迎えに来ただけのはずなんだけど...??
目の前の怒涛の展開に僕はぽかんとするしか無かった。
しかしここは、最年少の僕が空気の読めないフリをして場を和ませるしかないのではないだろうか。元はと言えば僕がユノ先生とシェラルクさんの間に入ってしまったから始まった事だし。
よし!
「ぇ、えっと!...あ、あの、しぇらるく「アステルはあれの名前を呼ばなくていい。話しかけなくていい。時間の無駄だ。」えぇ...。」
勇気を出して声を上げてみれば、すぐに兄様に止められてしまった。出鼻を挫かれた僕は、兄様を見上げるが、兄様は拗ねたような顔で僕を見下ろすだけだった。
その時、先程まで暗い顔をしていたユノ先生が僕達を見てフッと表情を和らげた。
「......本当に、仲がよろしいんですね。...イーゼル様、弟子が何度も迷惑をかけて申し訳ありません。アステル様も、怖がらせてしまいすみません。シェルは少し...いや、かなり人付き合いが苦手なんです。」
「あれは苦手の範囲ではありません。欠陥です。」
「おや、イーゼル様に言われてしまっては、シェルも立場がありませんね。」
「むー!!にいさまはとってもやさしいんです!!」
だから皆兄様の事が大好きなんです!と怒れば兄様の腕の力が強まった。
「アステルの方が優しい。誰よりも勇敢で、周りを笑顔にする力も持っている。」
「にいさまはとってもつよいです!!ゆのせんせいの、でしにもかちました!!てんさいです!!」
「ああ。帰ったらもっと魔法を見せてやるからな。お前を守るための魔法もある。だから安心して俺のそばに居ればいい。」
「まほうがなくても、ぼくはにいさまといっしょにいます!!」
「...そうか。そうだな。」
「...あの、お取り込み中申し訳ありませんが、そろそろシェルの魔法を解いていただけると...。」
ユノ先生の申し訳なさそうな声に、宙に浮き続けるシェラルクさんを見ると、顔が真っ青になっていた。急いで僕は兄様の服を引っ張って「魔法を解いてあげましょう?」と目で訴えるとすぐにシェラルクさんは解放された。そしてもう魔法を使って暴れるつもりはないようで、その場に崩れ落ちる。
そこへ、ユノ先生が近づいた。
「シェラルク。」
「は、い...。」
「出会ってすぐ覚醒した貴方と研究にばかり没頭してしまう私は、魔法を使わない交流を全くしてきませんでした。それは師匠として、貴方の手を取り育てた者として間違った事だと今になって反省しています。...私達に必要なのは魔法も何も使わない、ただの人間としての会話ではないでしょうか。これからは貴方の気持ちを理解し、納得するまで私は逃げも隠れもしません。」
言い終わると、ユノ先生は座り込むシェラルクさんに手を差し伸べた。しばらくその手をじっと見つめたシェラルクさんは、ギュッと目元に力を入れた後、無言で頷きその手を取った。
...もしかしたら二人の出会いもこんな風だったのかもしれないなと、ふと思った。
そして立ち上がったシェラルクさんは、おぼつかない足取りでこちらへ近づいてくると、僕の顔をじっと見た。それは、少し前に向けられた鋭いものとは違い、どこか珍しいものを見るような目だった。
しかしすぐに「見るなと言ってるだろう」と低い声を出す兄様によって僕は外套の中にすっぽり隠されてしまったのだった。
「...すみませんでした。...私は自分の感情に囚われて、許されない事をしました。謝罪を受け入れてもらえるとは思いま、ガハッ...!」
か細い声で謝罪を述べるシェラルクさんだったが、途中でなにか液体を吐いたような音がした。
え?なに、なにがあったの...?
気になっても今は兄様の外套に隠されていて何も見えない。
「シェル...!拘束具をつけながら魔法を使うからですよ!っすぐに救護室へ...!」
「いえ、私は謝罪を「いい。さっさと行け。アステルが怖がるだろう。」...分かり、ました。失礼します。」
その後二人は、魔法でどこかへ消えてしまったようで、僕が兄様に解放される頃にはその姿は見えなくなっていた。
しかし最後のユノ先生の声はとても焦っていて、それだけあの弟子の人が大切なんだなと思った。
「話は終わったかしら?」
背後から母の声がかかる。そのそばに居た父は安心したように笑っていた。
「ユノの方もまとまりそうだな。...あいつの友として礼を言う。二人ともありがとう。」
父の両手が僕と兄様の頭に乗って、優しく撫でた。
「あら、イーゼル。やっぱり少し身長が伸びたんじゃない?もう私より大きいわ。」
「おお、確かにそうだな。立派な男になってる。魔法も素晴らしかった。」
「ええ、さすがイーゼルね。昔からたくさん勉強を頑張っていたもの。」
「...そう、でしょうか。」
やはり両親にちやほやされる事が恥ずかしいのか、兄様は視線を彷徨わせた。そこに一級魔法師に対峙した時のような覇気はない。
は?僕の兄様最高に可愛い。
「ははは。帰ったらイーゼルのためにご馳走を作るよう言ってあるんだ。魔塔でたくさん頑張った分、たくさん食べるんだぞ。」
「...はい。ありがとうございます。父上、母上。」
そしてその後、魔塔主という人と最後の面会をした。
「イーゼルの魔法は、本人の希望により60%の覚醒で留まっている。本来の力ならばわしをも凌駕するクラスSSの魔力じゃが...試験の結果を見ると現在の魔力値はクラスAからSといったところじゃ。しかし既に実力は1級魔法師に到達している。これは、数百年に一人の逸材じゃ。...やはり今すぐに魔塔に所属しないかの?」
「断る。」
逸材だと褒め称え、魔塔へ勧誘するその言葉を兄様はバッサリと断った。
「今すぐに研究室を与えよう。」
「いらない。」
兄様が言う。
「魔法学校の学費を無料にしよう。」
「公爵家を舐めるな。金には困っていない。」
お父様が言う。
「衣食住は完備じゃぞ。」
「あら、お洋服のことなら私を舐めないでくださる?それに、広さ美しさ共に公爵邸は申し分ないですし、うちのシェフは優秀よ。」
お母様が言う。
「特別な地位を与えよう。」
「にいさまはぼくのとくべつなにいさまです!!」
最後に僕が言う。
...こうして家族全員で魔塔の勧誘を断ると最終的には渋々と魔塔主は納得してくれた。最後に「いつでも待っておるぞ。」と念押ししていたが、とうとう兄様はその言葉を無視して僕に「アステルも俺の特別な弟だ。」と笑いかけてくれた。
魔塔に僕の兄様をあげることはしないが、兄様の凄さを真正面から認めてくれているようで、そこだけは嬉しかった。
「先ほどここに来るまでに補佐官殿は今年の魔法師は優秀な人間揃いだと言っていたぞ。そっちを勧誘したらどうだ。まあ、イーゼルには遠く及ばないだろうが。」
最後に親バカが漏れてしまっている父のその言葉に魔塔主は唸った。
「そうじゃのぉ...。2級の見込みがあるクラスBが3人。1級の見込みがあるクラスAが1人おったの。クラスBの魔法師すら生まれない年もある中、今年は豊作と言えるじゃろう。そしてその4人はすでに魔塔候補生として、希望の研究室に仮所属することが決まっておる。じゃが、イーゼルなら今すぐ専用の研究室を「いらん。」...はぁ。」
全く意思を変えない兄様にいよいよ折れたのか、魔塔主さんは仕方ないと言って最後の挨拶を済ませる。
「達者でな、イーゼル。償いと言うわけではないが、困ったことがあったらいつでも頼ると良い。では見送りはディエゴに任せよう。」
「はい。」
そうして僕達は、馬車の前まで案内され、最後にディエゴさんが丁寧にお辞儀をして見送ってくれた。
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