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第2章 魔塔編
【46】祝い
しおりを挟む「では、イーゼルの魔法覚醒を祝して、乾杯。」
父の乾杯の音頭に続いて公爵家の人間が乾杯!と声をあげる。
今日は兄様が家を出てから2ヶ月弱。予定よりも早く、無事に帰ってきた兄様のお帰りのパーティーだ。
公爵家の使用人の人達も今日はみんなで仲良くご飯を食べている。
僕は安定に兄様の膝の上だ。
「アステル、ほら。」
「あーん!」
兄様が差し出してくれる食べ物をただ食べる。今日は兄様を労う会なのに僕ばっかりが食べてて良いのかと思ったが、兄様がニコニコ笑顔だからこれで良いのだろう。
僕も兄様にあーん、てしてあげよう。
「イーゼル、体に不調はないか?」
「はい。アステルが居るので。」
「ははっ、そうかそうか。」
「ぼくもにいさまがいると、げんきいっぱいです!」
「そうね。アステルはイーゼルが家を出てからずっと“兄様はいつ帰ってくるの”と言っていたのよ。」
「ああっ!おかあさま!それはいわないでください!」
恥ずかしい事を兄様にバラされて必死に止めるが、お腹に回った兄様の腕の締め付けがぎゅううっと増した。
「に、にいさま...?」
「俺も、寂しかった。アステルがそばに居ないと、生きてる心地がしない。...でも、魔法が使えるようになったから、これからはすぐにお前の元に行ける。」
「ほぉ。転移魔法は上級だろう?」
「そうですね。でも、使えます。」
「あらあら、イーゼルは凄いわねぇ。」
「にいさますごい!てんさい!」
「アステルの兄だからな。」
「ん!ぼくも、にいさまみたいにまほうつかえるようになりたいなぁ...。」
そう呟いた僕の頭を兄様は優しく撫でて、「きっと使えるようになる。」と言ってくれた。
おそらく僕には兄様のようにすごい才能があるわけじゃ無いだろうけれど、ほんの少しでも人の役に立てる力があったら良いなぁと思った。
▽
公爵邸に帰って数日後、イーゼルは手紙によって皇宮に招かれていた。
イーゼルの魔法の先生であるユノはシェラルクを連れて旅に出るという連絡があったため、暫くイーゼルは自分で魔法の腕を磨く必要がある。しかしそれは自分の時間を自由に使えるということでもあった。
つまり、今日は朝から晩までアステルと過ごそうと思っていたのを邪魔されたイーゼルは不機嫌を隠しもせずに殿下の前に現れた。
一つ良かったのは、転移魔法によって移動時間が大幅に削減された事だろう。
この世界では、国を跨いでの転移は階級が上がらないと認められていないが、国内ならば階級に関係なく転移魔法を使うことができる。
「やぁイーゼル、久しぶり。魔法が無事に覚醒したんだってね。どうだった?」
「普通です。」
「そうか。勿論私は結果は知ってるんだけどね。あれを普通というのなら世界中の魔法師が泣くよ。」
「そうですか。」
自分のことには興味のないイーゼルは、無表情のままソファに腰掛けた。
自分にどれだけ天才的な能力が備わっていようと、イーゼルにとっては“そういうものか”程度の認識なのだ。不特定多数の者による評価はイーゼルにとって何の価値もなかった。
彼が欲しいのは、愛する弟の評価だけだ。
そしてそれは十分に得られている。
「魔塔では大変だったみたいだね。裁判で相手は魔法師資格の失効を申し出たらしいけど、イーゼルが却下したんだって?」
「...俺は、あいつがどうなろうと興味はありません。しかしユノ先生には恩があり、結局たくさんの教えをいただいたのに、何も返せないままだったので。」
「律儀だね。君の良いところだ。イーゼルの弟は君のそう言うところが好きなのかもしれないね。あ、今日も一緒に何かするつもりだった?」
「...................。」
「はは。不機嫌だね。」
「..............。」
「“分かってるなら呼び出すな”と顔に書いてあるよ。すまない。せめてものお詫びとして美味しいスイーツを用意したから、弟に持って帰ってくれ。」
「...本題は。」
イーゼルは皇宮の使用人に出されたお茶に手をつける事なく、話を切り出した。
「ああ、実は君が魔塔に行っている間に愛し子召喚についての資料が集まったから、共有しようと思ってね。」
ドサっと殿下が用意した資料が机に置かれる。その紙の束や数冊の本をイーゼルは冷めた目で見つめて、いくつか手に取って中身をパラパラと見る。
「君がこんなに長い間、何かに興味を持つなんて珍しい。愛し子召喚、そんなに気になるかい?」
「...アステルの様子が、おかしかったので。」
「アステルが?」
「.................。」
イーゼルはそれ以上答えるつもりが無いのか、目の前の資料に目を通し続けた。
イーゼルの懸念は、以前アステルと共に皇宮に来た際のアステルの様子の変化にあった。
その時のアステルは初めての外出に緊張と不安があったにしろ、一瞬“愛し子召喚”という言葉に反応を示していた。それもあまり良く無いような反応だった。
...まるで、何かに怯えているようだった。
それをアステルに直接尋ねる事はしない。おそらくアステル本人も理由は分かって居ないだろうから。
だが、イーゼルにとって己の命よりも大切な弟に不安を与えるものは一体なんなのか徹底的に調べる必要があり、こうして定期的に皇宮に通っているのだ。
大事なアステルとの時間を削ってでも。
「...過去の愛し子は、全員が黒髪黒目。」
イーゼルが皮手袋をした手を口に当てて呟く。
「そうだね。ほんの少し茶髪っぽい人もいるらしいけど。そして、決まって若い男だ。」
「...この、“祝福”とは?」
「それが分からないんだ。神官がやるような祝福と同じなのかまた違うのか。ただ一つだけ記述があったのは、その力によって
____人は皆、その子を愛してしまうらしい。」
第2章 END
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