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第3章 お友達編
【52】お友達
しおりを挟む寒い地下牢で、震える両手を擦ってなんとか暖をとる。
...大変なことになった。
よくわからないまま家を飛び出して、そのままサラッと誘拐されてしまった。これじゃあ誘拐されに飛び出したようなものだ。
どうしよう。絶対に家族に心配と迷惑をかける。今はまだ夜だから、僕が居ないことに気づくのは早くて数時間後だ。そして、色んな人が動いて僕を探してくれるだろう。
こんなに愚かでも僕は公爵家の子供なので、捜索は大々的になるはずだ。
...もしや、その騒動に乗じて誘拐犯の人に殺されてしまったり...。
「...いやいや、大丈夫。大丈夫だ。」
『なにが?』
「っぅっっっ!?!?」
ビクゥッ!!!と体を震わせて縮こまる。
声のした方を見るが、暗闇で見えない。辛うじて一寸先の自分の檻の柵が見えるくらいだ。
『ごめんごめん。驚かせるつもりは無かったんだ。ただ本当に来てくれたのが嬉しくて。あ!そうだ!僕とおしゃべりしてくれる?声聞こえてるでしょ?ね!たくさん喋ろうよ!どうせここは時間がわかるものがないからね。時間を気にせず喋れるよ。人間がいつも時間ばかり気にしてるのはいかがなものかと思うけど。』
声は男の子のようで、とても饒舌だ。現状を理解するのに精一杯な僕はその内容までは聞き取れなかったけど。...しかし、そのあまりに堂々とした声色のせいだろうか、ただの人間ではないような違和感がある。
「......ぁ、なた、は...?」
『その前に聞きたいんだけど、君ってもしかして愛し子ってやつ?』
「へ...?ぁ、や...ちがぃ、ます。ぼくは、あすてる、です...。」
『アステル?アステルね。じゃあアステル、僕は名前がないから好きに呼んで?』
「なまえが、ない...?」
『うん。だからアステルがつけて。』
名前がないなんて、そんなはずはないだろう。名前は生まれた瞬間からあるもので、無いと不便だ。だって、それじゃあずっと、オイとかで呼ばれてしまうだろう。
『大丈夫。僕を呼ぶ奴は今まで誰も居なかったよ。』
「...う?」
『僕は君の心が読めるんだ。』
...えぇ!?うそ!?心が読めるの!?
じゃあ全部ばれちゃうじゃん!
この人を怖いって思ってるのとか、怪しいって思ってるのとか、いい加減寒すぎてそれどころじゃないのとか!!
『あ、寒いの?ちょっと待ってね。』
その途端、体がほかほかと温かくなった。
耳の先から鼻の先まで、血が通っていくのが分かる。
『色々あって今はこれくらいしかできないんだ。ね、温めてあげたでしょ?だから僕に名前つけて?』
「...ぇ、と...ぁ、ありがと、ございます...。でも、なまえ、は、もっとたいせつなひとに、つけてもらったほうがいいんじゃ...?」
お母さんとかお父さんとか。恋人とか友達とか。少なくとも初対面の人間に頼むような簡単なものではないのは確かだ。と、至極真っ当なことを言ったつもりなのだが、相手は不満な声を出す。
『えー。僕はアステルがいい。アステルじゃなきゃやだ。』
「えぇ...。」
初対面の人にそこまで駄々をこねられる覚えはないんだけどな。
『初対面じゃないよ。夢で会ったでしょ?』
「ゆめ...?...ゆめ...あっ、ぁの、わんちゃん...?」
『僕は狼だよ!夢だと君が見たことのある動物にしかなれないからああなったの!』
おおかみ...?少なくともこの喋る何者かとは結びつかない。だって狼は喋らない...よね?
この世界の常識がまだ全てわかったわけではないからもしかしたらこの世界では喋る狼が一般的なのか?
ぐるぐる考え込んでいるうちに、自称狼の声の主は痺れを切らしたようだ。
『ねぇ!名前は?なまえ!』
ばしばし、と何かで床を叩く音が聞こえる。
「わ、わかった...。...あ!でも、あの、けがは!?わんちゃん、けがしてた!あし!」
『あー、これ?まあ大丈夫大丈夫。そんな痛くないし。そんな事より名前をつけてよ。』
「っ、だ、だめ!ばいきんがはいっちゃうかもしれないし、...すこしでも、いたいのはいやだよ...。」
『...ねぇ君、本当に愛し子じゃないの?』
「ちがう!いいからけがみせて!」
『あ、はい。』
何かを引きずる音と金属の音を出しながら隣の檻に居たその子はこちらに近づいてきた。暗闇に慣れた目がぼんやりと白い毛を捉える。
その姿は、まさに美の狼というべき美しい姿だった。そして想像以上に大きい。
しかし、鎖に繋がった首輪をはめられ自由が奪われているようで痛々しかった。
「...ほんとうに、おおかみさんだ...。」
『そうだよ。』
「けがしてるの、あし?」
『...あ~、後ろ足は両方。多分骨まで折れてる。変な術も使われてるからポーションとかじゃ治らないだろうね。』
「おっ...!?」
両足が、折れてる...!?
想像以上の大怪我に言葉が出ない。
『うん。だから君は気にしなくていい...ぇ、ちょ、泣いてる...?』
「...ぅ、ぃたい、ぃたぃよぉ...!あぁぁ......。」
想像しただけでとても痛い。それも両足なんて、一体何があったのだろう。どうして病院にも行けずにこんなところに入れられてるのだろう。
動物は、大切にしなくちゃいけないのに。
可哀想、可哀想だ。痛い、痛い。
『いや、痛いのは僕だからっ!大丈夫!泣かなくていいよ!本当に大丈夫だから!』
「ぜんぜんだいじょぶじゃない!...なにもできなくてごめんね...。すぐにたすけ、くるから、おいしゃさん、いこうね。」
『うん...。君凄いね、全部本心だ...。でもここ、それなりに強い結界が張ってあるから探知が難しそうだし、助けは望み薄じゃないかなぁ。』
「ぼくのにいさまは、つよくて、あたまがよくて、かっこいいから、ぜったいきてくれる。」
『かっこいいのは関係あるのかな?』
「ある!そしたら、すぐおいしゃさんいくからね。そうしたら、いたいいたいなくなるからね...。うぅ、いたいぃ...。ごめんねぇぇ...。あぁぁぁ...。」
『あぁぁ大丈夫大丈夫痛くない。痛くないよ。』
「っ!まひしてるの!?どく!?それとも、あどれなりん!?」
『あど...何それ?麻痺毒の名前?いやそうじゃなくて。うーんなんだろう。こう...耐えられない痛みじゃないから...。』
「...?いたいんでしょ?」
『え~~...どうしようかな...。とにかく本当に大丈夫だからまずは名前を、』
「ん、いたいのいたいのとんでけするね。」
『聞いてないね。ていうか何それ。え、名前は?名前つけて欲しいんだけど。』
「いいこいいこ。こっちきてね。」
『そんな僕が駄々こねてるみたいな。いやこねてるんだけどさ。』
「いたいのいたいのとんでけ~。」
『はーいとんでけ~。』
「いたいのいたいの、わるいやつにとんでけ~。」
『はーいとんでけ~。』
____ぎゃあああああ!!!!!
「ぅっ?」
どうやら痛みが麻痺するほど気が動転しているらしい狼さんに気休めのおまじないを行っていると、上の階から叫び声がした。しかし、地下である上に檻に閉じ込められてるここでは何もわからない。
『...何かあったみたいだね。』
「にいさま?」
『いや、気配の数は変わってない。...あれ?...足が、痛くなくなってる。』
「ほんと!?」
『うん。呪具を使われたから簡単に治るはずは無いんだけど...。痛みが消えてる。まだ折れてはいるけど。』
「わぁ!おまじないきいたんだね!」
『えぇ...上級呪具の効果をそんな簡単に...?』
「じゃあじゃあ、ほねもなおるかな?」
『いや、さすがにそれは「きずきず~なおれ~。」.........。』
「いっしょにいって。」
『あ、はい。』
「きずきず~なおれ~。」
『なおれ~。』
「ほねほね~せっちゃく~。」
『え接着??』
「............。」
『...せっちゃく~。』
新たなおまじないを編み出して、狼さんの足を撫で撫でする。どこら辺が折れているのかはよく見えないが、とにかく治れ治れと願う。
くっつけくっつけ。元通りになれ!お願い!と念じていると...。
『...本当に治った...。』
「やったぁ!」
『ねぇ、怒らないから本当の事教えて?アステルは愛し子じゃ無いんだよね???それか神の使い?天使??』
「ちがう!!ぼく、にいさまのおとー、と.......。」
そう叫んだ瞬間、脳みそがグラリと揺れる感覚がして、抗うことすらできないままその場で意識は切れた。
『アステル!?』
最後に、狼さんの焦った声だけが頭に残った。
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