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第3章 お友達編
【63】デビュー
しおりを挟むとある男爵家に生まれた次女フェレナ・ヴェーデンは、今日が初めての帝都、初めての社交界だった。
帝国の東の端に住むフェレナにとって帝都とは、仕事で出かける父の話にあるような多くの主要貴族達が経営する高級店が軒を連ね、人や建物が田舎には無いものばかりで溢れているという煌びやかな夢の国のようなイメージだった。そんな帝都に1週間前から滞在していたフェレナはそのイメージがあながち間違いでない事を知った。どこを見ても流行りのものに身を包み、平民であってもどこか気品で溢れる帝都は、ど田舎で時に土仕事もするほど貧乏な男爵家で育ったフェレナは場違いで、貴族といえど恐怖ばかり抱いていた。
社交界デビューというのは必ずしも出席しなければいけないものではなく、年によっては公爵家、伯爵家のみで行われることもある。フェレナの姉も出席はしなかった、というかそもそも誘いの手紙は来なかったのだ。しかし不運というべきか幸運というべきか、今年は帝国の第二王子も同じく14歳を迎えるため国中の14歳の貴族が集め盛大に開催することとなったのだ。
ドレスや移動費宿泊費は全部皇室持ち。となれば出席しない理由もないため、不安で一ヶ月前からガタガタ震えていたフェレナは今日とうとうその日を迎えてしまった。
会場は見たこともないほど天井の高い場所で、オーケストラが荘厳な雰囲気の邪魔にならない程度に音楽を奏でている。テーブルに並ぶビュッフェ達は、芸術品に見まごうほど美しかった。
「(...帰りたい...。)」
静かに家で本を読むのが好きなフェレナはすでに胃が痛かった。姉には「良い旦那を見つけてきなさいよ!」と背中を叩かれてしまったが、到底無理な話である。呼吸するにもやっとなほどのフェレナは、粗相をして万が一牢屋に入れられることのないように、急遽習った社交会のマナーを頭の中で反芻した。
会場の隅でパーティーを眺める。
すると、有名な伯爵家の歌姫や、帝国騎士団長の息子で有名な跡取りなどなど新聞でしか見かけない有名人が目に入り、何も食べていないのに吐きそうになってしまった。
まだパーティーの始まる前だがすでに周りでは、繋がりを作ろうと自己紹介で輪を作っている人がちらほらいる。
「(無理!無理です姉様!!)」
自分のコミュニケーション能力の敗北を痛感し、遥か遠くの天井に吊るされた宝石の塊のようなシャンデリアを見上げながら途方に暮れていると、オーケストラの音量が上がる。
どうやらパーティーが始まるようだ。
どうか早く始まって早く終わります様にと、ドクドクと鳴り続ける胸の前で汗の滲む手を握りしめた。
「ルーク殿下がご登壇されます。」
声のした方を向くと、そこには輝く金髪の青年がいた。第二皇子のルーク殿下が微笑を浮かべていた。ルーク殿下は澄んだ声で会場の視線を一点に集める。
「本日は集まってくれてありがとう。最遠からはディペルタ地区からも足を運んでくれた様で、とても嬉しく思う。今日は我々の新しい出立を祝うために、特別なパーティーを催させて貰った。今日は面倒なプログラムはなく、自由に交流が持てるようにしてある。君たちの、そして我々のこれからが栄光に照らされる事を、この国を代表して願っている。...では、心ゆくまで楽しんでくれ。」
短く挨拶を終えると、わぁ!と拍手が起こる。同い年とは思えない堂々とした姿に呆気に取られていた自分も少し遅れて拍手を送る。
殿下の挨拶が終わると、だんだんと会場の空気も解けて、皆が自由に動き出す。その雰囲気に自分も少しだけ慣れてくると、帝都随一の料理を食べないのは勿体無い!とテーブルへ近づく。置いてあるお皿で自分で料理を取ってから、窓際に並ぶテーブルに座って自由に食べれるらしい。スイーツも数多く置かれていて、楽しみが増えた。
いくつか料理をつまんで席に着く。
そして一つ一つ味わいながら食べていると、途端に入口の方が騒がしくなった。
そして、自分の近くに座っていた令嬢の声が聞こえた。
「あれっ、ゼルビュート公爵家の長男よ!」
「え、あの赤目の!?」
「そう!実の両親を呪い殺して、叔父であるゼルビュート様に引き取られたのよ。」
______赤目の呪い。
それは田舎に住むフェレナでも知っていることだった。
今回大々的に自分を送り出してくれた家族も、唯一それだけは懸念していた。
今年は、ゼルビュート公爵家の長男も参加するから、呪われないように気をつけろ。
それは全員の暗黙の了解だった。
パーティーが始める頃にはまだ見かけなかったので、もしや欠席かと思っていたが遅れてやってきたらしい。
コソコソと周りが噂をする中、颯爽と現れたのは、
_____御伽話に出てくるような、美青年だった。
顔を顰めて噂をしていた人も、一度その姿を見ると息を呑み、魂が奪われた様に目を奪われていた。
「......なに、あれ...。...綺麗...。」
先ほどまで呪いの噂をしていた令嬢も、ポツリとそう呟いた。
それほどまでに、その公爵家長男は圧倒的な美貌をしていた。
血の通っていないような白い滑らかな肌に、スッと通った鼻筋。伏せ目がちな赤い瞳は、恐怖抱かせつつも一度目を合わせたら離せないような妖艶な美しさを漂わせていた。
そしてこの会場の中の誰よりも長い足で、優雅な所作のまま会場を闊歩する。着ている服や宝石などの装飾も上品に彼の麗しさを際立たせていた。
宮廷画家でも表現しきれないだろう絶世の美男子とはまさに彼のことだった。
「イーゼル、やっと来たか。」
あまりに浮世離れした容姿に周りが固まり距離を取る中、親しげに声をかけたのは先ほどまで壇上で挨拶をしていたルーク殿下だった。彼もまた、歴代一番の美女と言われる今は亡き皇后の血を引くだけだって顔が異常なほど整っている。
「遅れてしまい、申し訳ありません。ルーク殿下。」
「いいんだ。きっと弟と離れ難かったのだろう?今日は君のためを思って帝国中のお菓子を集めたんだ。ぜひ今後の参考にしてくれ。」
「...ありがとうございます。」
そう言って軽く会釈をし、会場を見渡す赤い目にドキッと心臓が跳ねる。あの瞳に映される事を想像すると、途端に緊張する。あんなに美しい人にとっては自分のような田舎娘はきっと見るに耐えないだろう。
ルーク殿下と並ぶとさらに迫力の増す一枚絵になるのを、周りは目に焼き付けるように観察した。
もはやこの会場に、あのイーゼル様を忌避する者は居なかった。むしろ、俗世離れしたあの美貌の上に、公爵家という貴族の中でトップの地位に着く彼とどうにか繋がりを持ちたいという人で溢れている。
「ねぇ、いつ話しかけに行く?」
「私たちじゃきっと無理よ。まずは上位貴族の方からしか行けないわ。」
「そんなぁ...一度でいいから間近で見てみたいわ。きっとこんな機会もう無いわよ。」
その言葉にうんうんと内心で頷く。
あんなに綺麗な人とはもう二度と出会えないだろう。繋がりは持てなくとも、一生の思い出に一言くらい言葉を交わしたいものである。
「(まあ、私は見れるだけでラッキーだけど。)」
上位貴族の男性がぞろぞろとイーゼル様に話しかけに行ったのを見ると、次第に新聞や絵本を読んでいるような気分になってきた私は、会場の隅で美味しい料理に舌鼓を打つのに集中することにした。
綺麗な人も見れて、美味しい料理も食べれる。
このパーティーも慣れて仕舞えば悪いことばかりではなかった。
この後待ち受ける地獄も知らないで。
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