孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

かし子

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第3章 お友達編

【64】研究

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意外とアステルとの別れに時間を使ってしまったのか、会場には開始時刻から少し遅れて到着した。これが伯爵家以下だと印象が悪いが、公爵家は許されるのを考えると本当に自分は恵まれた地位にいるなと思う。

止まった馬車から降り、一直線に続くレッドカーペットを歩いて会場へ入る。会場の中に入ると、視線が一気に自分に集まるのを感じた。そして、隣と耳打ちするように噂話を始める人々が目に入る。予想通りの反応に少し落胆さえ覚えながら、顔を上げて会場内を進むと、前から殿下が歩いてきた。

「イーゼル、やっと来たか。」

「遅れて申し訳ありません、ルーク殿下。」

「いいんだ。きっと弟と離れ難かったのだろう?今日は君のためを思って帝国中のお菓子を集めたんだ。ぜひ今後の参考にしてくれ。」

「...ありがとうございます。」

短く言葉を交わして会場を見渡すと、確かにお菓子の置かれているテーブルが見える。最近のアステルは、味に加えて食感にもこだわりが見えてきたから、この際にしっかり研究して帰ろうと思った。どうせ自分はこの会場では爪弾き者だろうから。

そう考えていると、不意に殿下の後ろから人が近づいてくる。その顔を見るに、確かウェルグンド公爵家の長男だ。帝国で二つの公爵家のうちのもう一つ。つまりこの会場で唯一俺と並ぶ家柄を持っているという事だ。
同年代だとは聞いていたが、会うのはこれが初めてだった。

その男は、笑顔で近寄ってきて殿下と軽く挨拶を交わすと、俺に握手を求めた。

「イーゼル様、初めまして。ウェルグンド公爵家の長男、シェンベルです。お会いできて光栄です。」

と、差し出される手。
今日はもしかしたらこういう事もあるかと、以前まで片時も外さずつけていた手袋をつけていたため、躊躇う事なくその手を握る。少し目線が下の相手の目をじっと見る。しかし、特にそらされることは無かったため、それなりに度胸があるのかもしれない。

同じ公爵家で、今は特に家同士の軋轢もない。普通に仲良くするべきだろう。

「...初めまして。ゼルビュート公爵家長男、イーゼルです。こちらこそお会いできて光栄です。」

笑顔が作れないのはいつもの事だから真顔のまま挨拶を返す。すると、俺の隣にやってきていた殿下が俺の肩に手を置きながらフォローする。

「すまないね。イーゼルは少し表情が固いんだが、いい奴なんだ。」

「そうなんですね。大丈夫ですよ。気を遣わずに接してください。先ほど少し聞こえましたがイーゼル様は甘いものがお好きなんですか?」

サラリと長い髪が揺れた。表情を読むに、この人間に特に悪意は無いようだ。単に公爵家同士で顔を合わせたかっただけなのだろう。気が楽で良い。

「いえ、私ではなく弟が。」

「弟さんでしたか。」

「そうだよ。イーゼルは愛しの弟くんのためにお菓子を手作りするんだ。」

「手作り?」

「はい。なるべく弟の好みのものを作りたいので。」

「へぇ...。」

「シェンベル、分かったかい?イーゼルはこう見えてすっっごいブラコンなんだ。基本的に弟にしか興味がないから、もし話題を振るなら弟関係が有効だよ。それ以外は10文字以内で返答が終わってしまうからね。」

両手をあげてやれやれと大袈裟にアピールする殿下。そんなつもりは無かったが、否定する要素も特にないので黙っておく。

「そうなんですか?...では、イーゼル様、イーゼルとお呼びしても?」

「お好きなように。」

「私のことはシェンベルとお呼びください。」

「分かりました。」

「私は敬語が板についていますが、イーゼルは敬語を使わなくて結構ですよ。」

「分かった。」

「ほらね!」

「ふふっ、本当ですね。」

殿下とシェンベルに遊ばれているが、それ以上言葉が出てこなかったので黙る。

「私にも弟がいるので、ぜひ会いに来てください。弟さんも連れて。」

その時は殿下もぜひ、とシェンベルは言って去っていく。
それを皮切りに俺は動けないほど人に囲まれてしまった。それに全員恐る恐るではなく、なぜか鼻息荒く積極的に話しかけてくるものだから反応に困る。

「イーゼル様!私はセルロ伯爵家のウェンゼフです!魔塔でも一度お声がけしました!どうかお見知りおきを!」
「私はニューデラ伯爵家のダリタです。甘いものがお好きでしたらぜひ我が家にいらっしゃってください。」
「私は_____。」
「私は_____。」

その後も矢継ぎ早に自己紹介され、ただでさえストレスの溜まる人混みにアステル無しでやってきているのに、これでは最悪の気分だ。
そんな俺の表情を察したのか別の貴族と話していた殿下が間に入って止めてくれた。

「はいはい、君たちそんな一気に話しかけても分からないよ。社交会はこれで最後ではないんだ。今日は顔合わせ程度で許してやってくれ。私も久しぶりに会えた友人と話がしたいんだ。」

そう殿下が言うと、周りの貴族たちは少しずつ去っていった。

「...はぁ。」

「イーゼル、悪く思わないでくれ。君はとっても魅力的だから皆繋がりを持ちたくてたまらないんだ。」

「...大丈夫です。避けられると思っていたから、不意をつかれただけなので。」

本当は一刻も早く帰ってアステルを吸いたいが、パーティーはまだ始まったばかりだ。退場するには間が悪い。

「さ、お菓子を食べに行こう。気に入ったのがあったらぜひ持ち帰って弟にあげてくれ。」

「...そうします。」

お菓子の並ぶテーブルから、アステルの好きそうなものを皿に盛る。

「席は窓際にあるから...と言っても今はいっぱいかな。」

殿下の眺める方向のテーブルの席にはすでに人が全て座って居て空いて居なかった。立ったまま食べるのはマナー違反ではないが、公爵家を背負ってこの場に来ている俺は避けるべきことであった。

ふと、一つの席が目につく。
そのテーブルには一人の令嬢が座って居た。おそらく中流貴族だろうが、誰とも交流を持たずに黙々と料理を食べて居た。そしてその向かいには二つの椅子が空いている。


丁度いい。


とりあえず声をかけてみようとそちらへ足を運んだ。












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