ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話

かし子

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原因

「レオンーー!!!どこにいるんだぁーーー!!!」

「うちの屋敷がどれだけ広いと思ってるんだ。叫んだところで見つからないよ。」

レオンという、連れてきた獣人の子が居なくなったと気づいた瞬間にバーヴェルは窓の外へ向かって叫び出した。それが本当にうるさい。

「しかし!!迷子になっているかもしれないだろう!!?レオンはああ見えて寂しがり屋なんだ!!!」

「どう見えてか知らないけど、少し声の大きさを抑えてくれないか。」

「しかしだな!!!」

「公爵様。」

使用人にその獣人を探しに行かせようとしたところで、いつの間にか居なくなっていたウェーゲルが部屋に戻ってきた。

「ああ、どうかした?」

「ルノ様と、レオン様が庭でお会いしたようです。」

「本当か!?!?」

「それで、二人は?」

「仲良く手を繋がれて、白虎様の元へ行かれました。」

どうやらバーヴェルとはぐれた獣人はルノと会って、仲良くなったらしい。今は能力をオフにしていたから気づかなかった。
まあ知らない大男よりは知らない獣人の方がルノも警戒を解きやすいだろう。

「手を繋いだだと!?私もまだ繋いだことがないのにか!?」

「それはお前が嫌われてるからだろう。」

「嫌われてるのか!?」

「知らない。じゃあ私達も白虎のところへ行こうか。お前の声量にはうんざりだ。」


仕事をする手を一旦止めて、席を立つ。
そしてバーヴェルと共に庭にある小屋を目指していると、楽しそうな声が聞こえ始めた。

“れおん!とらさんのせなか、ふたりでのっていいって!”

“虎の背中に...?大丈夫なのか?”

“うん!とらさんはちからもちなの!”

“分かった。でも危ないから虎くんは俺が持つ。ルノは俺の前に乗れ。”

“ほんと!?とらくん、れおんがだっこしてくれるって!よかったねえ!“


「へぇ、レオンは面倒見が良いんだね。友達というより兄弟みたいだ。」

「ジルグンド!!レオンはどっちだ!?」

「あの小屋だよ。おや、ちょうど出てきたみたいだね。」

小屋の入り口から、白い体躯が姿を現す。そしてその背中には赤い髪と耳をしたルノと、ルノより頭ひとつ分よりちょっと大きいレオンらしき子が乗っていた。
そしてレオンは、私と一緒にいたバーヴェルをその金色の目で捉えると、眉間に皺を寄せる。

バーヴェルはそんなレオンの表情に気づいていないのか、袖のないむき出しの腕を大きく振って嬉しそうに呼びかけようとした。

「レオ、んぐっ!!」

「ルノが驚くから大きい声は出さないで。」

咄嗟にバーヴェルの口を塞ぐ。

まだバーヴェルのような体が大きくて豪快な人間にルノは出会ったことがない。

現に、バーヴェルを視界に入れたルノは今のバーヴェルの一声で蛇に睨まれた蛙のように動かなくなっている。後ろのレオンの呼びかけも聞こえていないようだ。

ルノの小さい心臓が早鐘を打つのが聞こえた。

ルノが怯えた事でバーヴェルを敵認定した白虎が今にもバーヴェルに飛びかかろうとするが、背中に二人を乗せているため低く唸って威嚇するだけにとどめている。

「はぁ。バーヴェルはここで待ってるんだ。」

「っ!?なぜ「いいから、黙って、ここで、待て。」...分かった。」

一旦バーヴェルは置いて、私だけでルノに近づく。ルノを心配していたレオンは困ったように私を見上げたため、笑顔で「ありがとう。」と伝えて、ルノを抱き上げる。するとルノは、やっと現実に意識が戻ってきたようだった。

「じる...さま...?あれ、いま、なんかくまさんが、にわに...。」

「公爵家に熊は居ないよ。」

「で、でもおおきくて、おおきなこえで、とらさんよりおおきくて...あ、あれ、とらくんは?あれっ?さっきまでいっしょで、っぁ...と、とらくん!とらくん!!ま、また...!!!」

「落ち着いて。レオンが持ってる。ほら。」

ルノの視界にレオンと虎くんが入るように体を傾ければ、ルノは安心したように手を伸ばした。その手が届くように私がしゃがめば、近づいたルノの手に向かってレオンが虎くんを渡す。

「ぁ、ありがと。れおん。」

「いや、お前こそ大丈夫か?隊長...バーヴェルって名前のあの熊は、ああ見えてちゃんと理性のある奴だから安心しろ。」

レオンがルノの目尻にたまる涙を拭った。それにされるがままのルノは「ば、ゔぇる?」と首を傾げた。

「そう。私の友人だ。」

「じるさまの、おともだち?...くまさんと、おともだち?」

「ちゃんと人間だよ。じゃあバーヴェルの紹介がてら皆で少しお茶にしようか。レオンもぜひ。」

「あ、はい。」

バーヴェルと違って、この獣人は随分礼儀が正しいようだった。白虎から飛び降りると、「ありがとうございます。」といって丁寧に頭を下げてくれた。












という事で、テラス席に用意されたティーセットを囲んでお茶会が開かれた。
私の正面にはバーヴェルが座り、その横にレオンが居る。

そして、ルノは虎くんを抱いたまま、座っている白虎の背後に隠れて出てこない。
周りに待機している使用人もおろおろとしたようにその様子を見つめている。何人かはバーヴェルに冷たい視線を送っていた。


「...私は、嫌われたか?」

「好き嫌い以前に、怖いんだと思うよ。」

「どこら辺がだ?」

「大きさ。」

「顔。」

「声量。」

「言葉遣い。」

「眼帯。」

「筋肉。」

「勢い。」

「全部。」

「レオンっ...それを言ったら私はどうする事もできないぞ...?」

レオンと交互にバーヴェルの怖い箇所を上げていけば結局「全て」に落ち着いた。それをレオンに言われたバーヴェルは大きな体を丸めて落ち込んでいる。

この会話の間もずっとルノは白虎の後ろから片目だけでバーヴェルを観察している。ご丁寧にその腕にいる虎くんも片目だけが見えていた。

ルノの耳は出会ったばかりの頃のようにピンと横に張り、尻尾の毛も逆立って太くなっている。
全神経を使ってバーヴェルを警戒している事は明らかだ。

「ルノ、大丈夫だからこっちにおいで。」

私が声をかけても、ルノは動かなかった。むしろ警戒心がむき出しのまま見つめられてしまう。
...もしかしたら、私がバーヴェルの仲間だと思われて、一緒に警戒され始めてるのかもしれない。

「それはいけない。」

すぐに席を立って、ルノのそばで膝をつくとルノは体を大袈裟に揺らして、体の全てを白虎の後ろに隠してしまった。
やはり私まで怯えられてしまっている。

「ルノ。」

私があげた名前で呼びかけても、答えてはもらえなかった。

仕方ないから今日の所はバーヴェルに一度帰ってもらって、ルノの信用回復に努めよう。
そう思って立ちあがろうとしたが、背後からレオンが近づいてきていた。

いったい何をするのかと思えば、レオンは躊躇う事なくルノに近寄って行って、その頭を強引に撫でた。頭の毛がボサボサになりながら、突然のことにルノ本人も驚いてレオンをポカンとした顔で見上げる。その顔が可愛かったから、手櫛でルノの髪を整えながら、どさくさに紛れて撫でる。

そこにレオンは真剣な顔を寄せてこう話した。

「ルノ、人間はたくさんの種類がいる。」

「...しゅ、るい......?」

「そうだ。俺の尻尾がふわふわで、ルノの尻尾がすべすべなようにな。俺が今まで出会った人間には、獣人を家畜同然に飼う奴もいた。丁度いいストレス発散の道具として使う奴もいた。俺たちの命に価値を見出す人間は少ない。世界のほとんどはそうだ。...でも、逆もいる。」

「...ぎゃく...。」

ルノの小さい声に、「ああ。」と言ってレオンは明るい笑みを返した。

「一生食うのに困らないぐらいの宝より俺を優先して、衣食住に困らないようにして、常に俺のことを考えてくれる、そんな人間もいる。...ルノも、心当たりがあるだろ?」

「...じるさま。」

「そうだ。そして、俺にとっての“ジル様”が、あの熊だ。」

「れおんの...?......そっ、か...。」

「大丈夫そうか?」

「うぅ......。れおんの、たいせつなひとなのはわかったけど......。で、でも、えっと、...まえ、とらくんに、ひどいことしたひとも...その...。」

ルノの大きな目が迷うように、右へ左へ動く。

「なんだ?言ってみろ。」

「えっとね......そ、そのひとも、こえがおおきくて、ちからがつよそうで...






_______そでが、なかった...。」












「おい隊長。今すぐに上着を借りろ。」

「ウェーゲル。」

「はいこちらに。バーヴェル様、失礼します。」

「ん?なんだ?...は?おい!私は長袖を着ないぞ!?おい!!!」





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