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【小話】冬の日の不思議
ただ癒されたくて書いたなんでもない話です。良ければどうぞ。↓
今日からぐんと寒くなる、ある朝のこと。
ジルグンドは目覚めてすぐに、いつも隣にある温かい存在が居ないことに気づいた。
すぐに起き上がって、布団を捲ると、
「...ルノ?」
「ぷぅ、ぷぅ...。」
両手で持ててしまうサイズに丸まったルノが可愛く鼻を鳴らしながら寝ていた。
明らかに体が半分以下に小さくなっていて、ジルグンドは半ばパニックに陥る。
「る、ルノ?ルノ。」
つんつん、とルノの体をつついてみると、ルノは大きな瞳をパッチリ開けた。
髪の色も目の色も、元のルノのままだ。
目を開けたルノはそのままむくりと起き上がり、キョロキョロと辺りを見渡す。そして、ジルグンドをその目に入れると、しばらくの間見つめ続ける。
ジルグンドもどうすれば良いのかわからず見返す。
「...ルノ?おはよう。」
「みぃ!」
名前を呼ぶと、いつもより高い声と共にルノは両手を広げてジルグンドのお腹に顔をうずめた。
「...ルノ?喋れないの?」
「みぃ、みぃ。」
おはよう、の返事がなく不思議に思って尋ねるが、やはり返ってくるのは子猫のような鳴き声だけ。しかし、お腹の辺りでジルグンドを見上げるルノの顔は満面の笑みだった。
「っ......。」
「みぃ~。」
目を手で覆って天を仰ぎ始めたジルグンドの足の上でルノは丸まり、二度寝に入っていた。しかし乗っているのかどうかさえ分からないほどの重さにジルグンドは震え上がった。
「ぷぅ、ぷぅ、」
「うっ...かわいい...。これは、数年前のルノの姿かな...?でもどうして急に...?」
医者に見せようにも、獣人を扱う医者は殆どいない。ジルグンドは獣人についての文献を読み漁ったが、こんな症状は聞いたこともなかった。きっと、医者を呼んでも意味はないだろう。
「...一先ず、時間をおいてみるか。」
どうやらジルグンドのことを警戒している様子はなく、体に不調もないようだ。
ウェーゲルを呼び出して朝食を用意してもらう間にもう一度ルノを起こす。
「ルノ、朝ごはんだよ。起きようね。」
「んみぃ...。みゅぅ...。」
「もぉぉ...かわいいなぁ...!」
力加減を間違えないように両手に乗せると、その中で更にルノは丸まってしまった。
そのあまりの可愛さにジルグンドは怒りにも似た感情が湧き上がる。
「可愛すぎてキレそう...。」
この世界にはまだキュートアグレッションは浸透していないため、ジルグンドはただ己の謎の破壊衝動を抑えるしかなかった。
▼
「はいルノ、あーん。」
「んみゅ...?...みゃぁ!んむんむ、」
「あっ、ぁっ...ァァ........。」
「ジルグンド様、語彙が死んでいます。」
ウェーゲルによって運ばれてきた朝食を食べさせようとスプーンで救ったミルク粥をテーブルの上にお座りするルノの口元に持っていく。するとルノはそれがなんなのか分かっていないようで首を傾げ、なぜかスプーンを差し出すジルグンドの手にじゃれついた。そのままんむんむ、と楽しそうに甘噛みを始めたので、目の前のあまりに可愛い光景にジルグンドの口からは言葉にならない声だけが漏れ出ていた。
ウェーゲルは主人のあまりの不能っぷりに逆に冷静になっていた。
「無理だこれは...。もう一生保護するしかない。特定保護対象に指定しよう。」
未だに手をあむあむされているジルグンドは、真顔でルノを見つめるとそんな事を言い始めた。すかさずウェーゲルが止める。
「うちの領内でそんな対象は定められていませんよ。それよりルノ様に早くお食事を与えてください。もっと小さいティースプーンも用意しましたよ。」
「あぁ...そうだな...。少し気が動転していたよ。」
だいぶ動転していますよ、とウェーゲルは思ったが口には出さないでおいた。
▼
その後無事にルノに食事を与え、ジルグンドは執務室に来ていた。勿論ルノも一緒だ。
ルノは、ウェーゲルによって急遽作られた服を着ている。
ジルグンドの両手に収まってしまうほどの小ささのルノは元気良く動いてしまうので落とさないようにするのが大変だ。「ルノ、落ち着いて。」と声をかけても、今のルノはあまり言葉は理解していないようで、「みぃ!」と鳴くだけでまた動き出してしまう。
ちなみに、ルノ大好きなこの屋敷の使用人には全員別館の掃除を言い渡して、このルノを見つからないようにしていた。
今のルノが大人数に会ったら怯えてしまうかもしれないし、何よりルノ大好きな使用人達がこんなに愛らしい姿になったルノを見て正気でいられるはずがないのだ。白虎に至っては、勢い余って噛みついてしまうかもしれないため、騎士に見張らせている。
使用人が、鼻血や涙を流して使い物にならなくなる事を見越して対処したのだ。
「...しかし、これからどうするか。」
執務室の席についたジルグンドは、床に敷かれたフワフワマットの上でおもちゃのボールを手でつついては追いかけるルノを見つめながらそう呟いた。そんな姿も愛らしいが、やはりいつも通り「じるさま!」と元気良く駆け寄ってくるルノが恋しくなってきたのだ。
「ルノ様、こちら、虎くんですよ。」
「みゅ...?...にぃ!んにっ!」
「...............。」
「ウェーゲル。お前まで理性を失われると困る。」
「...すみません。あまりの光に目が眩みました。」
非常事態だ。ついにいつも冷静沈着なウェーゲルまでルノの可愛さにペースを乱されている。
ルノはそんな二人を気のする様子もなく、自分と同じサイズほどの虎のぬいぐるみに抱きついて寝ていた。
「保護...じゃなかった、ルノが縮んでしまった原因がわからない以上下手に薬を与えることもできない。...明日までは様子を見て、それでもルノが元に戻らなかったら他国にも問い合わせてみよう。」
「そうですね。それがいいかと思います。」
ウェーゲルは頷いて、手元のスケジュールにその予定を書き込んだ。
となると、今する事は本格的にルノの“保護”だ。
「食事もテーブルの上だと万が一落ちるかもしれない。今すぐに上等なマットとテーブルになる物を探してほしい。」
「そうですね。あとお手洗いはどうしましょう。」
「...使い捨ての下着は。」
「市販のものをルノ様に合わせて作り直します。」
「頼む。」
「はっ、すぐに。」
かくして、チビルノ保護計画が進んだ。
ルノは虎くんを抱えて口を少し開けたまま幸せそうに眠っていた。
「舌が出ているのは正常なのか?苦しいのか?大丈夫か?」
「本物の猫でも、リラックスすると舌を出したまま眠るそうですよ。」
「...そんな、可愛いだけのことがあり得るのか?」
「あり得るんです。」
▼
それからルノは何事もなく夜まで眠り続け、目覚めた時には夕飯の時間だった。
昼食を食べなかったせいなのか、ルノはとてもお腹が空いていたようで、目覚めから少しご機嫌斜めだった。
「んなぅ...。」
「る、ルノ?どうしたの?どこか痛い?」
「なぅ。」
ルノはゴロンと寝転がると、自分のお腹をたしたし叩いた。ジルグンドはその行動の可愛さに一瞬意識が飛びそうになるがなんとか持ち直して、その行動を読み取る。
「...あぁ!お腹が空いたのか!ウェーゲル!」
「はい、すでにできています。」
ウェーゲルが運んできた食事に、匂いに敏感なルノはすぐに気づいたようで、目を輝かせて涎を垂らしてウェーゲルの足元に擦り寄った。
「みぃ!みぃ!」
「...................。」
「ウェーゲル。」
「ええ、ルノ様のお机に用意いたします。」
「ああ、ルノ。そんなに勢いよく食べたら危ないよ。ゆっくり、ゆっくりね。」
「みぃ!!」
ジルグンドは一瞬硬直したウェーゲルの意識を引き戻して、スープの入った皿に顔ごと突っ込むルノを止める。しかし、ルノはそのままもぐもぐ食べ進め、口の周りどころか鼻の先にまでスープをつけて食べた。
ジルグンドは今更ルノにスプーンを使って食べる事を強要しはしないが、喉に詰まらせないかハラハラしていた。
ばしゃっ!と周りに飛び散らせながらスープから顔を上げたルノは満面の笑みで、ジルグンドは全てがどうでもよくなった。
「にっ!んにぃ!!みゃぁう!!」
「うんうん、そうだね。おいしいね。」
「んみゃ!んにゃぅ!!」
「そうかい、気に入ったんだね。どんどんお食べ。」
何かを喋ってるつもりらしいルノの言葉をなんとなくで読み取るジルグンドは周りに跳ねたスープをせっせと拭き取っていた。しかし視線はルノの顔に釘付けだ。
「みゅぅ!みぃ!」
「ん?どうしたの?」
突然ルノはお皿の端をトントンと叩いてジルグンドを見上げた。
「おかわり?でもまだ入っているよ?」
「んにゃう!にゃ!」
必死な顔のルノになんとか言いたい事を汲み取ろうとするが、中々分からない。
すると、突然ルノは皿の端に手をかけて、
____ガシャン!
と、皿をひっくり返したのだ。
しばらく訪れる静寂。
そして、
「みゃ...みゃぅ...みゃぁぁぁああぅぅ!!!!」
「ルノ!?!?」
ルノの瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちた。
顔を真っ赤にしてみゃんみゃん泣くルノをジルグンドはすかさず抱き上げてあやそうとするが、なんで泣いているのかも分からないままだ。
「ルノどうしたの?スープ嫌だった?」
「にゃぅ!なぅぅ...!!みゃぁっっぁあああぅ!!!」
ジルグンドはなんとか原因を探ろうとするがルノはバタバタと暴れ初めてしまって、叶わない。
ウェーゲルは溢れたスープを片付けながらその様子を観察して、先ほどまでのルノの行動を思い出しながら推理した。
「ルノ様が食べ物を粗末にするとは思えない...寧ろとても大切にされるお方だ。ルノ様はまず皿を叩いて、ジルグンド様を見上げて、次に皿を...あぁ、そういう事ですか。」
一人でぶつぶつ呟いたウェーゲルはスープを片付け終わると、いまだに泣き続けるルノに困惑しているジルグンドに近づいた。
「ジルグンド様。」
「ウェーゲル...?」
「おそらくですがルノ様は、
______あなた様に、スープを分けたかったのだと思います。」
その瞬間、ルノは泣き止んで、自分の尻尾の先を少し噛みながらジルグンドを見上げた。まるで今のウェーゲルの言葉が正しいとでもいうようだ。
ジルグンドは今のウェーゲルの言葉を頭で理解する。
皿を叩くルノ。
『じるさま!これおいしいよ!』
皿を持ち上げようとするルノ。
『じるさまもたべて!』
...と、いう事だろうか。
その想像に至ったジルグンドは、同時にポロっと言葉を溢した。
「...と、」
尊い、と。
▼
尊いという感情に自力で行き着いたジルグンドは、その後膝から崩れ落ちて少し泣いた。あまりにも尊くて。
それをルノが不思議そうに見つめていたが、ウェーゲルが新しいスープを持ってくると再びジルグンドをぽすぽす叩いて「いっしょにたべよう!」とでも言うかのように笑顔を向けた。
ジルグンドは、ここに教会を建てようと思った。
そして、ルノの勧めで一緒にスープを食べたジルグンドは心も体も満たされて、ルノと一緒のベッドに入った。
もしかしたら、寝返りで潰してしまうかもしれないので、今日は寝ないでおこうと簡単に決めて、ジルグンドはルノの寝顔を見つめた。
今日の朝から起こったこの不思議な事は、何が原因でいつまで続くのかは分からない。ただ明日がどうなるかさえ分からない毎日の中で、今日のことは確かに一生の思い出になるだろうとジルグンドは確信していた。
「...明日は、どうなるだろうね。」
元に戻って、また「じるさま」と呼んでくれるだろうか。
それとも、まだ今日のままで甘えたで「みぃ!」と鳴いて笑ってくれるだろうか。
「...ん?
どちらも最高だな...?」
ジルグンドはどちらに転ぼうとも幸せしかない事を悟って、余りの幸福にクスクスと笑った。
「明日がどうなるか分からないけれど、ルノがいる限り私はずっと幸せだね。」
冬の日の不思議
終わり
▼
ルノは次の日普通に戻りますღ'ᵕ'ღ
記憶は多分無いかな...?
今回も一枚描きました
貴方の日々の少しの癒しにでもなればと思います🍵
今日からぐんと寒くなる、ある朝のこと。
ジルグンドは目覚めてすぐに、いつも隣にある温かい存在が居ないことに気づいた。
すぐに起き上がって、布団を捲ると、
「...ルノ?」
「ぷぅ、ぷぅ...。」
両手で持ててしまうサイズに丸まったルノが可愛く鼻を鳴らしながら寝ていた。
明らかに体が半分以下に小さくなっていて、ジルグンドは半ばパニックに陥る。
「る、ルノ?ルノ。」
つんつん、とルノの体をつついてみると、ルノは大きな瞳をパッチリ開けた。
髪の色も目の色も、元のルノのままだ。
目を開けたルノはそのままむくりと起き上がり、キョロキョロと辺りを見渡す。そして、ジルグンドをその目に入れると、しばらくの間見つめ続ける。
ジルグンドもどうすれば良いのかわからず見返す。
「...ルノ?おはよう。」
「みぃ!」
名前を呼ぶと、いつもより高い声と共にルノは両手を広げてジルグンドのお腹に顔をうずめた。
「...ルノ?喋れないの?」
「みぃ、みぃ。」
おはよう、の返事がなく不思議に思って尋ねるが、やはり返ってくるのは子猫のような鳴き声だけ。しかし、お腹の辺りでジルグンドを見上げるルノの顔は満面の笑みだった。
「っ......。」
「みぃ~。」
目を手で覆って天を仰ぎ始めたジルグンドの足の上でルノは丸まり、二度寝に入っていた。しかし乗っているのかどうかさえ分からないほどの重さにジルグンドは震え上がった。
「ぷぅ、ぷぅ、」
「うっ...かわいい...。これは、数年前のルノの姿かな...?でもどうして急に...?」
医者に見せようにも、獣人を扱う医者は殆どいない。ジルグンドは獣人についての文献を読み漁ったが、こんな症状は聞いたこともなかった。きっと、医者を呼んでも意味はないだろう。
「...一先ず、時間をおいてみるか。」
どうやらジルグンドのことを警戒している様子はなく、体に不調もないようだ。
ウェーゲルを呼び出して朝食を用意してもらう間にもう一度ルノを起こす。
「ルノ、朝ごはんだよ。起きようね。」
「んみぃ...。みゅぅ...。」
「もぉぉ...かわいいなぁ...!」
力加減を間違えないように両手に乗せると、その中で更にルノは丸まってしまった。
そのあまりの可愛さにジルグンドは怒りにも似た感情が湧き上がる。
「可愛すぎてキレそう...。」
この世界にはまだキュートアグレッションは浸透していないため、ジルグンドはただ己の謎の破壊衝動を抑えるしかなかった。
▼
「はいルノ、あーん。」
「んみゅ...?...みゃぁ!んむんむ、」
「あっ、ぁっ...ァァ........。」
「ジルグンド様、語彙が死んでいます。」
ウェーゲルによって運ばれてきた朝食を食べさせようとスプーンで救ったミルク粥をテーブルの上にお座りするルノの口元に持っていく。するとルノはそれがなんなのか分かっていないようで首を傾げ、なぜかスプーンを差し出すジルグンドの手にじゃれついた。そのままんむんむ、と楽しそうに甘噛みを始めたので、目の前のあまりに可愛い光景にジルグンドの口からは言葉にならない声だけが漏れ出ていた。
ウェーゲルは主人のあまりの不能っぷりに逆に冷静になっていた。
「無理だこれは...。もう一生保護するしかない。特定保護対象に指定しよう。」
未だに手をあむあむされているジルグンドは、真顔でルノを見つめるとそんな事を言い始めた。すかさずウェーゲルが止める。
「うちの領内でそんな対象は定められていませんよ。それよりルノ様に早くお食事を与えてください。もっと小さいティースプーンも用意しましたよ。」
「あぁ...そうだな...。少し気が動転していたよ。」
だいぶ動転していますよ、とウェーゲルは思ったが口には出さないでおいた。
▼
その後無事にルノに食事を与え、ジルグンドは執務室に来ていた。勿論ルノも一緒だ。
ルノは、ウェーゲルによって急遽作られた服を着ている。
ジルグンドの両手に収まってしまうほどの小ささのルノは元気良く動いてしまうので落とさないようにするのが大変だ。「ルノ、落ち着いて。」と声をかけても、今のルノはあまり言葉は理解していないようで、「みぃ!」と鳴くだけでまた動き出してしまう。
ちなみに、ルノ大好きなこの屋敷の使用人には全員別館の掃除を言い渡して、このルノを見つからないようにしていた。
今のルノが大人数に会ったら怯えてしまうかもしれないし、何よりルノ大好きな使用人達がこんなに愛らしい姿になったルノを見て正気でいられるはずがないのだ。白虎に至っては、勢い余って噛みついてしまうかもしれないため、騎士に見張らせている。
使用人が、鼻血や涙を流して使い物にならなくなる事を見越して対処したのだ。
「...しかし、これからどうするか。」
執務室の席についたジルグンドは、床に敷かれたフワフワマットの上でおもちゃのボールを手でつついては追いかけるルノを見つめながらそう呟いた。そんな姿も愛らしいが、やはりいつも通り「じるさま!」と元気良く駆け寄ってくるルノが恋しくなってきたのだ。
「ルノ様、こちら、虎くんですよ。」
「みゅ...?...にぃ!んにっ!」
「...............。」
「ウェーゲル。お前まで理性を失われると困る。」
「...すみません。あまりの光に目が眩みました。」
非常事態だ。ついにいつも冷静沈着なウェーゲルまでルノの可愛さにペースを乱されている。
ルノはそんな二人を気のする様子もなく、自分と同じサイズほどの虎のぬいぐるみに抱きついて寝ていた。
「保護...じゃなかった、ルノが縮んでしまった原因がわからない以上下手に薬を与えることもできない。...明日までは様子を見て、それでもルノが元に戻らなかったら他国にも問い合わせてみよう。」
「そうですね。それがいいかと思います。」
ウェーゲルは頷いて、手元のスケジュールにその予定を書き込んだ。
となると、今する事は本格的にルノの“保護”だ。
「食事もテーブルの上だと万が一落ちるかもしれない。今すぐに上等なマットとテーブルになる物を探してほしい。」
「そうですね。あとお手洗いはどうしましょう。」
「...使い捨ての下着は。」
「市販のものをルノ様に合わせて作り直します。」
「頼む。」
「はっ、すぐに。」
かくして、チビルノ保護計画が進んだ。
ルノは虎くんを抱えて口を少し開けたまま幸せそうに眠っていた。
「舌が出ているのは正常なのか?苦しいのか?大丈夫か?」
「本物の猫でも、リラックスすると舌を出したまま眠るそうですよ。」
「...そんな、可愛いだけのことがあり得るのか?」
「あり得るんです。」
▼
それからルノは何事もなく夜まで眠り続け、目覚めた時には夕飯の時間だった。
昼食を食べなかったせいなのか、ルノはとてもお腹が空いていたようで、目覚めから少しご機嫌斜めだった。
「んなぅ...。」
「る、ルノ?どうしたの?どこか痛い?」
「なぅ。」
ルノはゴロンと寝転がると、自分のお腹をたしたし叩いた。ジルグンドはその行動の可愛さに一瞬意識が飛びそうになるがなんとか持ち直して、その行動を読み取る。
「...あぁ!お腹が空いたのか!ウェーゲル!」
「はい、すでにできています。」
ウェーゲルが運んできた食事に、匂いに敏感なルノはすぐに気づいたようで、目を輝かせて涎を垂らしてウェーゲルの足元に擦り寄った。
「みぃ!みぃ!」
「...................。」
「ウェーゲル。」
「ええ、ルノ様のお机に用意いたします。」
「ああ、ルノ。そんなに勢いよく食べたら危ないよ。ゆっくり、ゆっくりね。」
「みぃ!!」
ジルグンドは一瞬硬直したウェーゲルの意識を引き戻して、スープの入った皿に顔ごと突っ込むルノを止める。しかし、ルノはそのままもぐもぐ食べ進め、口の周りどころか鼻の先にまでスープをつけて食べた。
ジルグンドは今更ルノにスプーンを使って食べる事を強要しはしないが、喉に詰まらせないかハラハラしていた。
ばしゃっ!と周りに飛び散らせながらスープから顔を上げたルノは満面の笑みで、ジルグンドは全てがどうでもよくなった。
「にっ!んにぃ!!みゃぁう!!」
「うんうん、そうだね。おいしいね。」
「んみゃ!んにゃぅ!!」
「そうかい、気に入ったんだね。どんどんお食べ。」
何かを喋ってるつもりらしいルノの言葉をなんとなくで読み取るジルグンドは周りに跳ねたスープをせっせと拭き取っていた。しかし視線はルノの顔に釘付けだ。
「みゅぅ!みぃ!」
「ん?どうしたの?」
突然ルノはお皿の端をトントンと叩いてジルグンドを見上げた。
「おかわり?でもまだ入っているよ?」
「んにゃう!にゃ!」
必死な顔のルノになんとか言いたい事を汲み取ろうとするが、中々分からない。
すると、突然ルノは皿の端に手をかけて、
____ガシャン!
と、皿をひっくり返したのだ。
しばらく訪れる静寂。
そして、
「みゃ...みゃぅ...みゃぁぁぁああぅぅ!!!!」
「ルノ!?!?」
ルノの瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちた。
顔を真っ赤にしてみゃんみゃん泣くルノをジルグンドはすかさず抱き上げてあやそうとするが、なんで泣いているのかも分からないままだ。
「ルノどうしたの?スープ嫌だった?」
「にゃぅ!なぅぅ...!!みゃぁっっぁあああぅ!!!」
ジルグンドはなんとか原因を探ろうとするがルノはバタバタと暴れ初めてしまって、叶わない。
ウェーゲルは溢れたスープを片付けながらその様子を観察して、先ほどまでのルノの行動を思い出しながら推理した。
「ルノ様が食べ物を粗末にするとは思えない...寧ろとても大切にされるお方だ。ルノ様はまず皿を叩いて、ジルグンド様を見上げて、次に皿を...あぁ、そういう事ですか。」
一人でぶつぶつ呟いたウェーゲルはスープを片付け終わると、いまだに泣き続けるルノに困惑しているジルグンドに近づいた。
「ジルグンド様。」
「ウェーゲル...?」
「おそらくですがルノ様は、
______あなた様に、スープを分けたかったのだと思います。」
その瞬間、ルノは泣き止んで、自分の尻尾の先を少し噛みながらジルグンドを見上げた。まるで今のウェーゲルの言葉が正しいとでもいうようだ。
ジルグンドは今のウェーゲルの言葉を頭で理解する。
皿を叩くルノ。
『じるさま!これおいしいよ!』
皿を持ち上げようとするルノ。
『じるさまもたべて!』
...と、いう事だろうか。
その想像に至ったジルグンドは、同時にポロっと言葉を溢した。
「...と、」
尊い、と。
▼
尊いという感情に自力で行き着いたジルグンドは、その後膝から崩れ落ちて少し泣いた。あまりにも尊くて。
それをルノが不思議そうに見つめていたが、ウェーゲルが新しいスープを持ってくると再びジルグンドをぽすぽす叩いて「いっしょにたべよう!」とでも言うかのように笑顔を向けた。
ジルグンドは、ここに教会を建てようと思った。
そして、ルノの勧めで一緒にスープを食べたジルグンドは心も体も満たされて、ルノと一緒のベッドに入った。
もしかしたら、寝返りで潰してしまうかもしれないので、今日は寝ないでおこうと簡単に決めて、ジルグンドはルノの寝顔を見つめた。
今日の朝から起こったこの不思議な事は、何が原因でいつまで続くのかは分からない。ただ明日がどうなるかさえ分からない毎日の中で、今日のことは確かに一生の思い出になるだろうとジルグンドは確信していた。
「...明日は、どうなるだろうね。」
元に戻って、また「じるさま」と呼んでくれるだろうか。
それとも、まだ今日のままで甘えたで「みぃ!」と鳴いて笑ってくれるだろうか。
「...ん?
どちらも最高だな...?」
ジルグンドはどちらに転ぼうとも幸せしかない事を悟って、余りの幸福にクスクスと笑った。
「明日がどうなるか分からないけれど、ルノがいる限り私はずっと幸せだね。」
冬の日の不思議
終わり
▼
ルノは次の日普通に戻りますღ'ᵕ'ღ
記憶は多分無いかな...?
今回も一枚描きました
貴方の日々の少しの癒しにでもなればと思います🍵
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お読みいただきありがとうございます😭!
小さいままでも可愛いのですくすく育てるか...悩みますね❣️
時間ができたら続きを書きたいと思います!気長にお待ちください🤲!
本日一気読み
可愛くて続きが読みたい。
妄想ふくらむ。
一気読みありがとうございます...!!!私も妄想膨らんじゃうので、続きは気長にお待ちください😳!