【完結】商会の娘になっちゃった?

青井 海

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第14話 これから……

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ロンに教室から連れ出され、いつもの道を歩く。

彼が立ち止まったのは、昨日ハイドと話したベンチの前だった。
「ゆっくり話したいから、ここに座って。」
ロンに促され、ベンチに座る。

「昨日はハイド、何って? あーっ、やっばりいいや。何でもない。」
互いに無言の時間が過ぎていく。

すると、意を決した様子で、ロンが口を開いた。
「カスミン、俺は……カスミンが好きだ。
俺はこれからもずっとお前と、新しい商品を作り、次々と世に送り出していきたい。
みんなが自分に合う洋服を気軽に手にとれるような世の中にしたい。
どうか、俺と結婚してくれないか。」

膝の上にある握りしめられた拳に、更に力が加わり、手の甲には筋が浮き出ている。
ロンの真剣な表情に、彼の本気を感じる。

ずっと傍にいて、ずっと見守り助けてくれた人。
一緒に作品を作り出し、世に送り出すという私と同じ夢を追い求める人。

そして、何より……ロンが傍にいてくれないと、途端に寂しくてどうしようもなくなる私。
彼を失いたくない。失ってはダメだ。
もう答えは出ている。

彼は真剣に想いを伝えてくれた。
私もきちんと答えないと。
「うん。私も、ロンと一緒に新しい商品を産み出していきたい。これから先もずっと……よろしくお願いします。」

成人まではあと一年を切った私たち。
まずはお付き合いを始めて、それから婚約、結婚となるのだろう。

帰宅後、家族へ報告すると、
『おーっ、アイツやっと伝えたか。』
みたいな空気になりながらも、みんな笑顔で喜んでくれた。

パパは、「他の縁談は全て断っていいんだな?」と確認してきた。
今まで届いた釣書など私に見せたこともないくせに。
どうもパジャマ発売後から、次々と縁談が舞い込み、私は引く手あまたであったらしい。

浮いた話など一つもない、全く言い寄られない学生生活だったし、知らなかったよ。

ロンのプロポーズを受けた翌日の放課後、ハイドにもきちんと断りを入れた。

彼からは、「わかってたんだ……一人にしてくれる?」と言われ、彼の傍を離れた。
どうしても、胸がモヤモヤするのは仕方がないと思う。

ハイドとは疎遠になる覚悟をしていたけれど、やはり彼は大切な友人であり、商人見習い?でもあった。
いずれはジルニア商会を担う人材だ。
数日後には、
「これからも仕事上のパートナーとしてよろしく。」と声をかけに来てくれた。


***

そして、卒業式が終わり。
卒業パーティが盛大に催された。

アマーヤ学院に通う生徒は、貴族も平民もいる為、パーティとは言ってもドレスまではなく、いつもよりちょっとおしゃれをした洋服を着るのが一般的。

会場には、様々な衣装の学生たちが集っている。
ランドリー商会の洋服を身につけた学生も多く、なんだか嬉しくなる。

ライアはもちろん、サマンサまでもランドリー商会の洋服を着て参加していた。
さすが、持つべきものは頼りになる友人である。

ライアの婚約者にも会えた。
彼は、若干タレ目なところがなんとも癒し系の男性だった。
ライアのことを甘い瞳でみつめたりして、大事にしてるのが伝わってきて、何ともむず痒かった。

サマンサは、ハイドと同伴で参加していた。
華やかな美人と爽やかイケメンのベアは人目を惹いていた。

洋服にもさぞかし注目が集まったことだろう。
何と言っても、モデルがいいからね!
よい宣伝になって、何よりだ。

私は、この日の為に、自分でデザインした衣装を縫うつもりでいた。
だが、デザイン画を見たロンに、
「カスミン、頼む。この衣装を俺に縫わせてくれ!!」と拝みたおされ、根負けした。

ロンには申し訳なかったが、絶対に納得のいくものにしたかったので、何度もダメ出しさせてもらった。

「ロンが私の衣装を作るのなら、私だってロンの衣装を作りたい!」
少しだけ私と同じ生地を使い、私とペアだとわかるデザインの洋服を作り上げた。

またしても二人で工房の隅をひっそりと間借りして、せっせと製作した。
なかなかの出来だと思うのよ。
彼と工房で過ごす時間は、世間一般のデートとは程遠いものだったけれど、私にとっては最高に楽しかった。

ロンと私が卒業パーティで着た、さりげなくペアになる洋服は話題となり、またランドリー商会を潤すことになる。

私とロンは16歳で婚約、ロンの学校卒業後に結婚式を挙げた。

花嫁、花婿の衣装は、もちろん、私のデザイン。
ふわふわとしたおとぎ話のお姫様のようなウエディングドレスが主流の中、私のドレスは手足が長くモデルのようなスタイルを活かし、上品なデザインで、スッキリとしたもの。

お客様の近くを歩くには、横の広がりが少ない分、動きやすく適した形だと思う。

親戚と友人だけを招いた笑顔溢れる式は、一生の想い出となった。

天宮 佳純が、どうなったのかはわからないまま。
転生だったのか、入れ替わりだったのか、はたまた今 現在も夢の中なのか……

ただひとつ言えるのは、私は今いるこの世界で、カスミンとして幸せに生きている。

ロンという最高のパートナーと共に、夢を叶えてーー


おわり
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