【完結】恋愛結婚するんだから!!

青井 海

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第10話 僕の過去①

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ーー1年3ヶ月ほど前ーー(アレクの過去)

僕は突然、色がわからなくなる珍しい病に蝕まれた。
医師の診察を受けたが、初めて聞く症状で、治療法がないと言われた。

僕は呆然自失になり、両親のすすめで自然豊かな山あいの街の小さな病院で静養することになった。

僕の部屋は特別室らしく、病室にしては広いらしい。
だが、我が家の使用人が暮らす部屋くらいの広さだ。

ベッド、テーブル、ソファー、クローゼット、バスタブ、トイレと必要最低限の家具が配置されている。
カーテンや壁紙、家具など全てグレーに見えると、部屋というより箱に閉じ込められている気分だ。

おそらくは病室らしく白やクリーム色など明るく清潔な部屋なのだろうが……

色がわからない。
全てがグレーなんだ。
たとえ色違いの靴を履いても気づかないだろう。

食べ物が食べ物に見えず、食欲がわかない。
だんだん食が細くなり、痩せていった。
とはいっても今のところは日常生活に支障をきたすほどではない。
色がわからない以外は、問題なく過ごせる。

食事時と、決まった診察時間以外に、人が訪れることは滅多にない。
この部屋に独りでいると気が滅入る。

ここでじっとしているとおかしくなりそうだ。
病室をこっそり抜け出した僕は、フラフラと森を歩いていた。
グーンと空に向かって伸びる大木があちらこちらに生えている。
風で枝が揺れ、葉がザワザワと音をたてる。

耳をすまして音を楽しんでいると、ザーザーッと水音が聞こえた。
音がするほうへ歩いていくと、木々に隠れた小さな滝をみつけた。

ゴツゴツとした大きな岩に座り、ぼんやりと滝を眺める。
水が流れ落ちて、小さな水しぶきをあげている。
辺りの空気は、程よくヒンヤリと気持ちがいい。
水の音も心地よくて、何も考えずに、ただぼーっと長い時間そこにいたんだ。

すると、後ろから女の子のかわいらしい歌声が近づいてきた。

僕が振り返ると、ピタっと声が止まり、その子は大きな木陰に隠れてしまった。

「こんにちは。僕はアレク。君はこの辺りの子?」

「うん、そうよ。私はニーナ。おばあちゃんと森に住んでるの。」

「ねぇ、ニーナ、僕と友達になってくれない?」

「えっ、あなたは私が怖くない?気持ち悪くない?」


「どうしてそんなこと言うんだい?」

「みんな私を怖がるの。気持ち悪いと言うの。私には友達なんていないの。」

「僕は療養に来てるんだ。ここに友達はいない。僕たち一緒だね。」
そう言って二人で笑った。

それから僕と彼女は、滝の前で会って、話すようになった。
友達になったんだ。

ニーナは僕の病を知り、おばあちゃんとともに薬を用意してくれた。
医師が諦めた僕の病。
なんとその薬で治ったんだ。

治って初めてニーナに感謝を伝えようと、彼女の顔を見た時、僕はーー言葉が出なかった。

彼女の髪はカラスのように漆黒、瞳はルビーのように赤かった。

それは、伝え聞いた恐ろしい魔女の色彩。

明るくて、優しくて、かわいらしい。 
僕の大切な友達ニーナ。
ニーナは魔女なのか?

僕は、急に怖くなった。
初対面でニーナが告げた『みんなが私を怖がるの。』が理解できた。

そのままゆっくりと後ずさり、クルリと方向転換して走り出した。

「アレク、待って! 私たち、友達じゃなかったの?
騙すつもりはなかったの。」
背後からニーナの悲痛な叫びが聞こえた。

それなのに、僕は足を止めることも、振り返ることもなかった。

彼女は僕のために、薬を用意してくれたのに。
僕の病を治してくれたのに。

冷静になると、なんてヒドイことをしたのだろうと後悔が押し寄せてくる。
今さら戻ってもニーナは立ち去っているだろう。

僕は彼女の家も知らないし、たとえ知っていたとしても訪れる勇気もない。

明日 滝へ行き、彼女に誠心誠意謝ろう。
そう思い、眠りについた。

朝、ピチピチと鳴く鳥の鳴き声で目を覚ます。
朝食を食べ終わり、いつものように医師の診察を受ける。
医師は、僕が色を判別できるようになったことに驚き、両親へ連絡するよう手配を始めた。

それからしばらくの間、僕はのんびりと過ごした。
全てがグレーに見えていた部屋は、白やクリーム色、茶色といった家具が置かれた落ち着く色合いの部屋だった。

ニーナと顔を会わすのはまだ怖い。
怖いのだが、感謝の気持ちと、逃げてしまったお詫びと、もうすぐ此の地を離れる別れの挨拶をしなければ。

僕は何度もニーナと遊んだあの場所へ足を運んだが、彼女に会うことはなかった。
改めて考えると、僕は彼女のことを何も知らない。
名前以外は何も。
友達だと思っていたのに……

僕の病が治ったと聞いた両親が、一週間ほどして僕を迎えにやってきた。
父が医師の手を握り、感謝の意を伝え、たくさんのお礼の品を渡している。
母は静かに涙を流しながら、僕を抱きしめた。

僕は両親とともに我が家へ戻った。
邸内は僕が病にかかる前と変わりなく、記憶にあるとおりの色だった。
本当にもとに戻ったんだと実感したし、使用人たちもみな喜んでくれた。

その日の夕食は僕の好物がずらりと並び、これでもかとお腹がはちきれそうなほど、もりもり食べ、ぐっすり眠った。






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