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第21話 ヒューの来訪
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あっという間に、休暇3日め。
今日はヒューが我が家へやってくる。
マリオン侯爵家へ向かうことになった時、挨拶もできないままだったので、かなり久しぶりだ。
成人して騎士団へ入団したというヒューは、馬に乗ってやってきた。
久しぶりに会う彼は腕や足にしっかりと筋肉がつき、胸板が厚くなっているみたい。
かわいらしかった顔もキリッと引き締まったというか、色気が出たというか。
弟ロータスは、少し会わないうちに背が伸びて声変わりしていたけれど、ヒューは体つきがガッシリしていた。
なんだか不思議な感じ。
幼い頃から知っているのに、まるで知らない男性みたいで、ドギマギしてしまう。
「オリィ、久しぶり。元気にしてたか?
遅くなったけど、ハンカチありがとう。」
「うん、元気にしてたわ。ヒューは何だか逞しくなったわね。騎士団はどう? 大変?」
「オリアンナ、ヒュパート君を立たせたままよ。家に入ってもらったら?」
玄関前で話し込んでいると、母様が出てきた。
「おばさま、お久しぶりです。」
「ヒュバート君、しばらく会わないうちに逞しくなったわね~。さぁ、中へ入って。ゆっくりしていってね。」
以前は私や弟の部屋へ招いていたけれど、今は弟も出かけているし、少し扉が開けられた応接室で、お茶を飲みながら話をする。
「オリィ、この後 俺の馬で出かけない?
君を連れていきたい場所があるんだ。」
「ええ、天気もいいし、外へ出かけるのもいいわね。馬に乗るのならこの服ではダメね。着替えてくるから少し待ってて。」
以前と同じように対応したつもりだけど……
自分の部屋へ戻り、扉をパタンと閉める。
ヒューが『俺』というのを初めて聞いた。
今まではずっと『僕』だったのに。
騎士団に入って、感化されたのかしら。
アニスが動きやすいワンピースを出してくる。
「お嬢様、これなんてどうでしょう?」
「う~ん、確かに動きやすいだろうけれど、馬には乗りにくそうね。ねぇ、ロータスの着なくなったズボンはないかしら?」
アニスが探しに出ていき、すぐ戻ってきた。
「お嬢様、ありました!
本当にこれをはくのですか?ヒュパート様とデートですよね?ワンピースのほうがよくないですか?」
「アニス、ありがとう。これ、これがいいわ。ズボンでないと、馬にまたがれないもの。横乗りじゃ危ないわ。」
私はアニスが持ってきてくれたロータスの古着。白いシャツにグレーのズボンを身につけた。
髪も邪魔にならないようにポニーテールにして黒いリボンがキュッと結ばれた。
「ワンピースをと思いましたが、これはこれでなかなか。こちらでよかったかもしれませんね。」
アニスがうんうんと頷いている。
彼女なりに仕上がりに満足なようだ。
満足も何も、ヒューは私の装いなど気にしないのに、動きやすいほうが断然いいじゃない?
急いで、ヒューが待つ応接室へ戻る。
「ヒュー、お待たせしました。」
ノックもせず、入室したからかビックリしたようだ。
会話しながら、馬が繋がれた場所へと歩いて向かう。
「その格好はどうしたの?」
「ロータスが着なくなった服を借りたの。私にびったりのサイズがあったわ。弟のくせに大きくなったものね。」
「アハハッ、ロータスは伸び盛りだからね。まだまだ大きくなるよ。
もしかしてオリィは身長抜かれて悔しいの?」
「そうね。少し悔しいわ。」
「よく似合ってるよ。凛々しいお姫様。」
「もう、茶化さないでよね。」
笑いながら話していると、彼の愛馬オリバーの前についた。
「オリバー、ちょっと重いが今日はよろしく頼むな。」
ヒューはオリバーに優しく語りかけ、愛おしそうに頬を撫でている。
その愛おしいものを見る優しい瞳に、心を奪われる。
「オリィ、手を貸して。」
彼は私の腕を優しく掴み、ゆっくりとオリバーの様子を見ながら鼻先へ近づけていく。
オリバーはヒューの腕に鼻をすりつけ、彼に甘えているみたい。
おそるおそる私の匂いも嗅いでいる。
彼と一緒に、オリバーの鼻を優しく撫でてみる。
ヒューが傍にいるからか落ち着いてるようだ。
「オリバー、俺の大切なお姫様を落とすなよ。」
そう言って、ヒューは私を持ち上げてオリバーの背に乗せると、私のすぐ後ろに跳び乗った。
全く動じない彼の愛馬はすごいと思う。
私はヒューの発した言葉に、心臓がバクバク激しい音をたてる。
ヒューは私が落ちないように後ろから支えながら、ゆっくりと進んでいく。
いつもより高い位置から見渡す景色は、何だか不思議な感じで、少し怖いんだけど、ワクワクする。
しばらくすると、今の状態に慣れ、少し余裕がでてきた。
心地のよい風が頬をなぞる。
澄みきった青空を鳥の群れが飛んでいく。
濃い緑色の畑を抜けると、小さな野花が咲く丘が見えてきた。
「着いたよ。」
木陰で馬からおりると、大きな木にオリバーを繋いだ。
ロープが長いので、オリバーも自由に草を食んでいる。
ヒューがオリバーに括ってあったバスケットから敷物を出して敷いてくれる。
バスケットには、クッキーとオレンジが入っていた。
これらは私が着替えている間に用意され渡されたそうだ。
丘の向こう側には、大きな湖が見える。
太陽に照らされ、キラキラと輝き、とてもキレイ。
今日はヒューが我が家へやってくる。
マリオン侯爵家へ向かうことになった時、挨拶もできないままだったので、かなり久しぶりだ。
成人して騎士団へ入団したというヒューは、馬に乗ってやってきた。
久しぶりに会う彼は腕や足にしっかりと筋肉がつき、胸板が厚くなっているみたい。
かわいらしかった顔もキリッと引き締まったというか、色気が出たというか。
弟ロータスは、少し会わないうちに背が伸びて声変わりしていたけれど、ヒューは体つきがガッシリしていた。
なんだか不思議な感じ。
幼い頃から知っているのに、まるで知らない男性みたいで、ドギマギしてしまう。
「オリィ、久しぶり。元気にしてたか?
遅くなったけど、ハンカチありがとう。」
「うん、元気にしてたわ。ヒューは何だか逞しくなったわね。騎士団はどう? 大変?」
「オリアンナ、ヒュパート君を立たせたままよ。家に入ってもらったら?」
玄関前で話し込んでいると、母様が出てきた。
「おばさま、お久しぶりです。」
「ヒュバート君、しばらく会わないうちに逞しくなったわね~。さぁ、中へ入って。ゆっくりしていってね。」
以前は私や弟の部屋へ招いていたけれど、今は弟も出かけているし、少し扉が開けられた応接室で、お茶を飲みながら話をする。
「オリィ、この後 俺の馬で出かけない?
君を連れていきたい場所があるんだ。」
「ええ、天気もいいし、外へ出かけるのもいいわね。馬に乗るのならこの服ではダメね。着替えてくるから少し待ってて。」
以前と同じように対応したつもりだけど……
自分の部屋へ戻り、扉をパタンと閉める。
ヒューが『俺』というのを初めて聞いた。
今まではずっと『僕』だったのに。
騎士団に入って、感化されたのかしら。
アニスが動きやすいワンピースを出してくる。
「お嬢様、これなんてどうでしょう?」
「う~ん、確かに動きやすいだろうけれど、馬には乗りにくそうね。ねぇ、ロータスの着なくなったズボンはないかしら?」
アニスが探しに出ていき、すぐ戻ってきた。
「お嬢様、ありました!
本当にこれをはくのですか?ヒュパート様とデートですよね?ワンピースのほうがよくないですか?」
「アニス、ありがとう。これ、これがいいわ。ズボンでないと、馬にまたがれないもの。横乗りじゃ危ないわ。」
私はアニスが持ってきてくれたロータスの古着。白いシャツにグレーのズボンを身につけた。
髪も邪魔にならないようにポニーテールにして黒いリボンがキュッと結ばれた。
「ワンピースをと思いましたが、これはこれでなかなか。こちらでよかったかもしれませんね。」
アニスがうんうんと頷いている。
彼女なりに仕上がりに満足なようだ。
満足も何も、ヒューは私の装いなど気にしないのに、動きやすいほうが断然いいじゃない?
急いで、ヒューが待つ応接室へ戻る。
「ヒュー、お待たせしました。」
ノックもせず、入室したからかビックリしたようだ。
会話しながら、馬が繋がれた場所へと歩いて向かう。
「その格好はどうしたの?」
「ロータスが着なくなった服を借りたの。私にびったりのサイズがあったわ。弟のくせに大きくなったものね。」
「アハハッ、ロータスは伸び盛りだからね。まだまだ大きくなるよ。
もしかしてオリィは身長抜かれて悔しいの?」
「そうね。少し悔しいわ。」
「よく似合ってるよ。凛々しいお姫様。」
「もう、茶化さないでよね。」
笑いながら話していると、彼の愛馬オリバーの前についた。
「オリバー、ちょっと重いが今日はよろしく頼むな。」
ヒューはオリバーに優しく語りかけ、愛おしそうに頬を撫でている。
その愛おしいものを見る優しい瞳に、心を奪われる。
「オリィ、手を貸して。」
彼は私の腕を優しく掴み、ゆっくりとオリバーの様子を見ながら鼻先へ近づけていく。
オリバーはヒューの腕に鼻をすりつけ、彼に甘えているみたい。
おそるおそる私の匂いも嗅いでいる。
彼と一緒に、オリバーの鼻を優しく撫でてみる。
ヒューが傍にいるからか落ち着いてるようだ。
「オリバー、俺の大切なお姫様を落とすなよ。」
そう言って、ヒューは私を持ち上げてオリバーの背に乗せると、私のすぐ後ろに跳び乗った。
全く動じない彼の愛馬はすごいと思う。
私はヒューの発した言葉に、心臓がバクバク激しい音をたてる。
ヒューは私が落ちないように後ろから支えながら、ゆっくりと進んでいく。
いつもより高い位置から見渡す景色は、何だか不思議な感じで、少し怖いんだけど、ワクワクする。
しばらくすると、今の状態に慣れ、少し余裕がでてきた。
心地のよい風が頬をなぞる。
澄みきった青空を鳥の群れが飛んでいく。
濃い緑色の畑を抜けると、小さな野花が咲く丘が見えてきた。
「着いたよ。」
木陰で馬からおりると、大きな木にオリバーを繋いだ。
ロープが長いので、オリバーも自由に草を食んでいる。
ヒューがオリバーに括ってあったバスケットから敷物を出して敷いてくれる。
バスケットには、クッキーとオレンジが入っていた。
これらは私が着替えている間に用意され渡されたそうだ。
丘の向こう側には、大きな湖が見える。
太陽に照らされ、キラキラと輝き、とてもキレイ。
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