【完結】賢者ではありませんが、私でいいのでしょうか？

第27話 家に帰りたい

セドリック様との顔合わせ。
さっきは追い詰められた子羊の気持ちだった。
あー、頭がクラクラする。

もう彼と会わずに済むだろうか。
どっと疲れたよ。


私を誘拐した黒幕はスペイア伯爵であるのか、それとも本当に保護してくれたのか、わからないまま。
スペイア伯爵とは会わないのでわからないが、ジョセフィーヌ様とクリスティナ様はいい人たちだ。
危害を加えるどころか、お世話になりっぱなしである。

さっきのお見合い。
嫁という形にはなるが、スペイア伯爵家は本気で私を引き取ってもいいと思ってくれているんだ。
でもセドリック様が旦那様になるのは、心休まることがなさそう。


クリスティナ様は食事をしっかり取るようになり、同年代の使用人たちとの遊びを通して、筋力、体力がついた。
このままいけば、健康的な女性になれるだろう。

クリスティナ様の希望とは少し違うかもしれないけれど…今よりは引き締まって見えるからいいんじゃかいかな。

ジョセフィーヌ様の願いには沿えたんじゃない？
そろそろゴードン夫妻の食堂へ戻りたい。

ジョセフィーヌ様へ気持ちを伝えると、スペイア伯爵へ話をつけてくれた。
やはり夫人は強かった。
伯爵夫妻は、一人娘のクリスティナ様をとても大事にしている。
クリスティナ様がみるみると健康的になったのもよかったのかな。


そして食堂へ帰る日。
「嘘でしょー、嘘だと言って。ツムギさんは私の義姉になるのよ～。」
ヒック、ヒック
クリスティナ様に泣かれてしまった。

ふわりと抱きしめ、頭を撫でる。
私は一人ぼっちだけど、妹がいたらこんな感じなのかな。
自分を必要としてくれている。
ジワジワと胸が温かくなる。

「また遊びに来ますから。」
「絶対、絶対ですからね。約束して。」
クリスティナ様に詰め寄られ、小指を絡め『指切りげんまん』をする。

彼女は指を絡まれたことにびっくりし、「えっ針千本？　そんなの無理よ。」と目をまん丸見開いて驚いていた。
確かにすごい内容だよね。

その顔がかわいらしくて、つい笑ってしまう。
「もーう、笑わないで。」
恥ずかしくなった彼女が真っ赤になる。
クリスティナ様は本当にいい子だ。


馬車を準備してくれていたので、甘えて送ってもらう。
食堂の前で降り、ガランガランと食堂へ入ると、「えっ、ツムギちゃん？」
おばさんが走ってきた。

ガシッと抱きしめられる。
「もうっ、心配したんだから！」
そんな私たちを見て、おじさんはフライパンを振りながら、うむうむと頷いた。

「心配かけてごめんなさい。無事帰って来ました。またお世話になっていいでしょうか？」
「ツムギちゃん、何言ってるの？当たり前じゃない。帰りをずっと待ってたのよ。お客さんもあなたのオムライスを待ってるよ。また明日から頼むね。」

「はい、ありがとうございます。」
「今日は部屋でのんびりしておいで。」
「はい。」
私の帰りを待ってくれる人がいる。
私はここにいていいんだ。
目からポロボロ溢れる涙を手の甲で拭いて、部屋へ。

あー、帰ってこれた。
私は幸せな気持ちに包まれていた。