【完結】賢者ではありませんが、私でいいのでしょうか?

青井 海

文字の大きさ
28 / 49

第28話 久しぶりの再会

しおりを挟む
朝は久しぶりに早起きし、ゴードン夫妻とともに朝食を食べる。

おはさんに「心配したんだからね!」と言われ、馬車で連れ去られたこと、スペイア伯爵家に滞在し、お世話になったことを話した。

「ツムギちゃんが帰って来ないから、騒ぎになって大変だったんだよ。ヒューゴ様も来てくれてね…ツムギちゃんから手紙が届いても誰かに書かされたんじゃないかと心配で。」

あの辿々しい文章では伝わらなかったか。
逆に怪しかった?

「ツムギ!!」久しぶりに聞く声。
私を呼ぶのは…… 「ジル?」
キョトンてした私に、彼が駆け寄ってきた。
「ツムギ、怪我してないか?」
パシパシとあちこち触って確かめられる。
えっ、えー。

「怪我はないな? 大丈夫だな?」
「うん、大丈夫だよ。ジル、ありがとう。」
まさかジルが来てくれるなんて…

「ジルは? ジルは元気にしてた?」
「うん。元気だよ。様子を見に来ることができずごめん。突然居なくなって周りに迷惑かけたから、その分 頑張ってた。」

ジルは私の両腕をギュギュッと握ったまま。


視線を感じて振り帰ると、おばさんがニヤニヤしてた。
「ツムギちゃんの大切な人かい?」

ん? 大切な人?
そうなのかな? そうかもしれない。

おばさん、彼のことを覚えてないのかな。
私が初めて食堂へ来た時、彼と一緒だったのにな。

ヒューゴさん、マルクスさんも食堂へ入ってきた。
「ご無事でよかった。」
「ご心配をおかけしてすみません。」
ベコリと頭を下げる。


はっとしたジルが、私と距離をとった。
腕に残る彼の熱が消えていく。
寂しい、寂しいな。
旅の間は大変だったけれど、ジルと一緒で楽しかったな。

ジルは辺境伯令息。
遠い、遠い人。

マルクスさんが隣にやってきた。
「朝食後、担当者を呼ぶから事件のことを話してくれるか?」

「でも、仕事が…」
「ツムギちゃん、私たちは大丈夫。話してきなさい。」
「おばさん、わかりました。」


食堂向かいの警備兵の詰所で、事件の話をする。拐われた場所、馬車の色や形、覚えていることを思い出しながら…
恐怖がよみがえり、ガクガク、ガチガチと震える。
「大丈夫、大丈夫です。犯人は俺たちが捕まえますから。」
担当してくれた警備兵も食堂のお客さん。
力強い、安心できる。


食堂へ戻ると、ジル、ヒューゴさん、マルクスさんが待っていてくれた。
ジルが「大丈夫だから。」と頭を撫でてくれる。

ジル、ジル、ダメだよ。
そんなことされたら… もっともっと好きになってしまう。


みんなが帰り、いつもの食堂へと戻る。
おじさん、おばさんと開店準備を進める。

カランカラン
「いらっしゃいませー。」

「ツムギちゃん、無事で良かった。」
「おっ、ツムギちゃん、久しぶり。」
「ツムギちゃーん、会えなくて寂しかった。」

みんな温かい。








    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...