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第8話 呼び出し

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次の定休日。

昼食に、みんなの前でたまごロールパンを作る。

マヨネーズを作るのは力仕事なので、リュカとノアにお願いする。

おばさんと、私でゆでたまごの殻を剥き、私が潰す。
塩コショウとマヨネーズで味を調える。
これが味の決め手になるので、私が担当する。

なんとなくだが、自分がしなければいけない気がして。

おじさんが焼いたパンに具材をつめるのは、ハンバーガーの時と同じで、おばさんと私。

今回もみんなで試食。
確かにとびきり美味しいが…元気が沸いてくるとか、体がポカボカするとか、わからない。

そんな中、ダンおじさんは、肩の痛みが、マーサおばさんは、足腰の痛みがなおったそうだ。

おじさんとおばさんがハンバーガーを口にしたのは、最初に食べた一度きりだった。

軽い症状だったので、街の噂のような実感はなかったらしい。

今回のたまごロールパンを意識して食べると…
「こりゃすごい!!」とおじさん。
「えっ、どうして?リリーちゃん、何か特別な材料が入ってるのかい?」とおばさん。

ハンバーガーの時は、買い出しに出かけたが、普通のお店で買えるものしか使っていない。
今回は全てパン屋にあるものを使っている。

たくさんの人に購入してもらうには…
パンのサイズを小さくして、売値を安く設定する。

切れ目を入れたパンにたまごの具をスプーンで入れるのは大変なので、生クリーム用の絞りだしを買いにいき、口の部分を少しだけ加工した。

これで、大量にサクサク作れるんじゃないかな。
たまごロールパンを買い占められないように、1人2個までにさせてもらう。


たまごロールパンを売り出すと、こちらも瞬く間に人気商品となった。

ハンバーガーと同じく、たまごロールパンにも病気を改善する効果があった。

真似する店が出てきたが、ハンバーガーのソースやたまごロールパンのマヨネーズは真似できなかったようだ。

味が全然違うし、人々が期待する効果もあらわれない。
結局、真似ようとした店は、悪い噂が広がり、つぶれてしまった。


だんだんと『パン屋のリリーは、聖女様だ。』との噂が広がりーーー

ある日、いかにも高級そうな真っ白な厚手の紙が使われた手紙が届いた。

手紙を受け取ったダンおじさんの手は震えている。

ついに、この街の領主に呼ばれたのである。

領民の健康に貢献しているパン屋。
開店時間に呼び出すわけにはいかない。

『次の定休日に話を聞きたいので、パン屋で働いている全員で来るように』との呼び出しだった。

そういえば、私は自分がどこにいるのかもわからない。
リュカにこっそり教えてもらう。

ここは、ギリシアン国 フラリス領という場所らしい。

ギリシアン国? フラリス領?
聞いたことないな。
今の私が生まれ育った場所なのかしら?

***

何だかんだで、定休日も大忙しである。

領主様の用件は、新商品のことだろう。

もし違っていたとしても、話題の商品をお土産に持っていけば喜ばれるはずとのマーサおばさんの提案で、ハンバーガーとたまごロールパンを持参することになった。

朝からみんなで分担し、せっせと作る。
もう手慣れたものだ。

迎えの馬車がやってきた。
ダンおじさん、マーサおばさん、リュカ、ノア、私で乗り込む。

領主様の邸宅に着き、私が馬車から顔を出すと、手を差しのべられた。

無意識に自分の手をのせて、エスコートされる。

なぜか私に注目が集まっているような…

リュカとノアなんて、ポカンとクチが開いてますよー。

ハッ、私はいったい誰にエスコートされてる?

ゆっくりと顔を動かし、隣を確認すると、
それはそれは見目麗しい若者が。

えっ! だれ?

私の心の声が聞こえたのか…

「初めてお目にかかります。聖女リリー様。私はマルソー・フラリスです。
是非ともお見知りおきを。」

優雅に微笑む彼は、ゆるくカーブした銀髪に琥珀色の瞳。
肌が、肌がキレイ。
触ったらすべすべなんだろうなぁ。
天使じゃなかろうか。

聖女リリー? なにそれ?
私のこと?
私が聖女? まさかー。

どうしよう…
マルソー様は、フラリス伯爵家の嫡男だ。
昨日、リュカから教えてもらっていた。

今さら手を離したら、失礼?失礼にあたる?
わからない、わからなーい。

もうどっしり構えて、流れに身を任せるしかないよね。
そういう時こそ、前世の人生経験が物を言う。

心臓を激しくパクバクさせながらも、すました顔でマルソー様にエスコートされる。

「リリー様はどこの家の出身ですか?
エスコートに慣れていらっしゃるようだ。」

ギクッ

エスコートに慣れている?
何も覚えてないんだけど…
身体が自然と動いた。

今の私は貴族なの?
とにかくエスコートされた経験があるのだろう。

記憶喪失だと言っても、大丈夫なのかな…

マルソー様のキレイな琥珀色の瞳に圧を、圧を感じる。

嘘をついても見破るぞということか。

「それがよく覚えていなくて……」
申し訳なさそうに目を伏せる。

「あっ、リリー様大丈夫ですから。
怖がらないでください。
フラリス伯爵家はあなたの味方ですから。」
マルソー様が慌てている。

「マルソー、何してる?
いくら聖女様と離れたくないからと、待ちくたびれたぞ。
聖女様、みな、息子がすまない。」

フラリス伯爵の登場だ。

マルソー様をダンディなおじ様にした感じ?大人の魅力たっぷりだ。

「じゃあ、昼食でも食べながら話すとしよう。
聖女様、よろしいですか?」

えっ、私?私に聞くの?

「聖女様だなんて…私はただのリリーです。
ダンおじさん、いいですか?」

「はい、もちろん。いえ、大丈夫であります。」
おじさん緊張してるなー。

何しろ相手は領主様だものね。














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