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みやの

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第5章

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「りっちゃん温泉行こぉ~!!」

ウキウキで浴衣と下着を持ち楽しそうに行ってくる橘に、律はギクリ、と肩を揺らした。

え? ちょっと待って.......そうだよ忘れてた.......温泉じゃん温泉だよね? 
.......って事は、この腕の傷も見えちゃうってことだよね?


やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい
どうしよう、忘れてた。


バクバクと心臓が鳴り出して、サーッと顔から血の気が引く。

俺のバカ、楽しみっていう気持ちでいっぱいになってて大事なこと忘れてた。

こんなのバレたら、橘になんて言われるか─.......

「律くん、大丈夫。一緒に入ろ」

ふわり、と頭を優しく撫でられて律は思い切り首を横に振った。
由伊は律の自傷痕を知ってはいるが、何故か「大丈夫」だと言ってくる。

「.......お、俺.......まだ気分じゃないから.......あとで、いくよ.......」

律が精一杯の笑顔を作り見上げると、由伊が優しく微笑んで律の耳元で小さく囁いた。

「.......大丈夫。腕の傷は誰にもバレないようにしてあげるから」
「.......え?」

由伊はにっこり笑って律の手をぎゅ、と握ってくれた。

バレないようにって? どうやって? 左腕は、内側にびっしりあるんだよ.......

「りっちゃん行かへんの?」

しょん、と耳が垂れた犬のようにしょんぼりする橘に律は「え、あ.......」とあたふたする。

本当に? 本当に見えなくしてくれるの? 俺、普通の人と同じくお風呂入れるの?

「俺らは一緒に入るよ」

由伊が代わりに答えてくれ、橘は「あー! またぁ!! 俺を省くぅ!!」とジタバタしていた。

本当に? 本当にいいの? .......由伊。 








「.......あ~気持ちええな~りっちゃん~」

ぱちゃぱちゃと水面を叩いて遊びながら律は橘に「うん!」と返した。

「なんやりっちゃんご機嫌やなぁ」

優しく目を細められ律はまた「うん!」と返事をした。チラリと由伊に目をやると、由伊も優しく律を見ていた。

律はさっきまで不安に思っていた温泉だったが、由伊のお陰で一気に楽しくて楽しくて仕方が無いのだ。
由伊は大丈夫だ、と言って律を連れて脱衣所に来たが、服を脱ぐ前に一緒にトイレに連れてかれた。

由伊は律の袖をまくって、ポケットからゴソゴソと何かを取り出して、せっせと手際よく律の左腕の傷を覆い隠す肌色のシールみたいなのを貼ってくれたからだ。

今律の腕は皆と同じようにまっさらで何もなく見える。しかも、肌の色と酷似したテープで厚さも薄いから、貼ってます感もなく、本当に肌のようだった。
防水性だから剥がれる心配もないよ、と伝えれば彼は嬉し泣きをして由伊に抱き着いてきた。

それだけ律は心から嬉しかったのだ。
初めて友達と遊べて、楽しいって思ったのに傷のせいでできない事がある自分に凄くショックだった。

.......けれど、"生きるために"やめられない、そう確信しているから、この先もずっとみんなとは自由に遊べないんだな、なんて諦めていた。

「りっちゃん温泉好きなん?」
「うん!」

きっと俺、今刺されても笑って死ねる。

「ゆい~!」
「わ、どうしたの」

クスクス笑う由伊に、律の体の奥底からぐ~って嬉しさみたいなものがせり上がってきて思わず由伊にぎゅーっと抱き着いた。

湯船に浸かってるし、裸だし普通だったら気恥しいけど今はもうなんだっていい。
なんだって、嬉しいのだ。

「あ~! 俺にもぎゅーてしてやぁ~りっちゃん~」
「お前はダメ。近づくな」
「由伊はなんでそんな俺にきびしーねん!! おこ!! マジおこ!!」

ぷんすか騒いでる橘を放っておき、律は由伊にぎゅうと抱きつき頬を擦り寄せた。優しく撫でてくれる手が心地良い。

なんか、.......なんて言うんだろう、こんな気持ち。ずっとくっついていたい、ずっとそばにいて欲しい、ずーっと一緒にいたい。

あ~、このまま時が止まればいいのに。

「律くん、そろそろ逆上せちゃうよ? 出ようか」

由伊の言葉に、確かに少し頭がぽわぽわしてきたな、なんて思う。

「りっちゃん、出るん~。ほな俺も出よ~」
「もっと入ってれば? 夕飯ぐらいは残しといてやるよ」
「お前は!! このやろう!!」

由伊と橘の言い合いはもう律には慣れっこなので、とてとてと歩き、体を拭いて浴衣を羽織る。.......が、着方が分からん。

あれぇ? どっちが前だっけー?

あせあせしていると、「お、りっちゃん浴衣かわええなぁ~似合っとるわ~」と褒めてくれた。

「た、橘.......浴衣きれるの!?」

見上げた橘は簡単に浴衣を羽織り、もうフルーツ牛乳なんか飲んでいた。

「なんやねんりっちゃん、着方分からんの? どれどれ、こっち来てみ~」

橘にするすると手際よく着せてもらった律はポカンとする。

「まぁ、着慣れとるからな~。ほれ、コーヒー牛乳飲むか?」
「すごい.......ありがとう!」

橘から買ったばかりのキンキンに冷えたコーヒー牛乳を受け取り、こくこくと飲む。

え~! なにこれ美味しい! っていうか、なにこれ! めっちゃ温泉感ある!!

また心がキラキラしてきて、律はあまりの楽しさに由伊を振り返る。

「ゆい、ゆい! たのしいね!」

そう言うと、由伊はまたクスクス笑って「たのしいね律くん」と頭を撫でてくれた。

浴衣のせいで高校生にしては無駄に色気の出た由伊と、浴衣が何故か似合っている橘を連れて廊下を歩けば、他の宿泊客からの視線が痛かった。

2人はそんな視線なんて気にもせずなにやら言い合っているが、律は周りの視線の方が気になってひたすら俯くしかなかった。

足早に部屋まで向かうと、女子達が律らの部屋に集合していてもう夕飯が運び込まれていた。

「お~! 美味そうやなぁ~!」
「でしょ! ほら早く座って座って!」

仲野が楽しそうに手招きしてくれるので、律たちはそれぞれ女子と対面する形で腰を下ろす。
律は仲野が連れてきた友達の1人の前だった。

.......名前、なんだっただろうか。

「宮村くん、浴衣似合うね~! 可愛い!」
「そ、そうかなぁ? ありがとう.......」

何だか照れくさくて少し顔が熱くなる。

皆で和気藹々と改めて挨拶し合い、仲野の声掛けで「いただきます」と手を合わせて食べ始めた。
仲野は前に座る橘と仲良さそうに話し、由伊は目の前に座る、綺麗な女子とお互い無表情で食べていた。

「宮村くん、私の事知ってる?」

律の前に座る女子は、ふわふわしていて何だか穏やかな感じの子。仲野以外の女子メンバー内では唯一話しやすそうだなと思っていた。

「.......えっと、ごめん.......」

気まずくなり目を逸らすと、女子は大胆に「あははは! だよねぇ!」と笑った。

「私は、雨寺 リコだよ! 私たち名前似てるな~って思ってたんだ~!」
「ほ、ほんとだ.......! にてるね.......!」

初めて会った時点で1回皆で自己紹介してるのに、律は別のことに夢中で全然仲野以外の名前を覚えてなかった。

なのに怒らないでまた教えてくれた。いい人だ.......!!

その後も律たちはああでもないこうでもない、と他愛ない話をしてご飯を食べた。

こんなに食事が楽しいと思ったのは、かなり久しぶりな気がする。
律はとっても嬉しくなり、ニコニコした。 


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