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第6章
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まさか、愛しの想い人が休日にアポ無しで来てくれるなんて思わなかった。
今隣でもぐもぐケーキを食べている律に愛おしさを感じながら、由伊は寛貴に心の中でお礼をした。
後で欲しがってた靴でも買ってやろう。
そう決めながら由伊は律に話しかける。
「ねえ律くん」
口の端にクリームを付けつつ、キョトンとした顔で「うん?」と言う。
やだ何それ可愛い。
まるで幼児のようだ。
笑いながらティッシュで拭ってやると、恥ずかしかったのか少し耳を赤くした。
「……お父さん帰ってきてよかったね」
にっこり笑ってあげると、頬を染めて嬉しそうに笑った。
まさか、温泉旅行の時に見たストーカーが彼の父親だったなんて.......。
父親なら何故尚更、息子である律に声をかけなかったのだろうか。
たまたま行き場所が被ったから.......というわけではないのだろうな。
楽しみな時間を壊さないように、とかなのだろうか.......というか、サングラスとマスクはデフォルメなんだな。
あの時だけ怪しい格好をしていた訳では無さそうだ。
「律くんのお父さんってシャイなの?」
由伊が何の気なしにそう聞くと、律はびく、と僅かに体を揺らしケーキを食べるのを止めてしまった。
何か悪い事を聞いてしまったのかと即座に後悔し、由伊は「あ、ごめんね、失礼なこと言って.......」とフォローする。
触れてはいけない事の一つだったのだろうか。
なんて言って話題を変えようかと考えていると、律はぽそりと呟いた。
「.......父さんのアレは.......俺のせいだから.......」
「.......律くん?」
律の言葉の真意を図ろうと彼の名を呼ぶと、律はハッとして「ケーキ美味しいよ」と誤魔化した。
律が誤魔化した。
なんでも素直に言っちゃう彼が、自分に、誤魔化した。
そんなに言いたくない事なんだろうか。
無理矢理聞こうとは思わないけれど、少し気にはなる。
元々、律の人への不信感だとか大人が苦手な事とか暗い所に嫌悪感を示す所とか、何かあったとしか思えない姿を見ていて、由伊は知りたいと思っていた。
けれど、律が話そうとしない.......ましてや誤魔化すってことは聞かれたくないからだ。
そんなのを、追求した所で律を苦しめるだけ。
.......なら、聞かないままの方が、知らないままの方がいいのだろうか。
.......彼の為に、気付かないふりをし続けるべきなんだろうか。
頬を膨らませて食べている律の横顔を見て、由伊は結局同じことを思うのだ。
「律くん、大好きだよ」
「なっ!知ってるよ!」
ボボボッと顔を赤くしてぷいっと顔を逸らされた。
律くんの全てが欲しい。
律くんの全てを理解したい。
.......でもさ、律くんが全部いいよ、って言ってくれないと今の俺は、何も出来ない。
律の為に変わるって決めた今の自分には、線引きが分からない。
踏み込んで解決するのか、踏み込んだら壊れるのか、
分からなくて、怖いと思った。
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