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第6章
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しおりを挟む桜の花びらが散る姿は淡く、儚い。
こんなにも、触れたら消えてしまいそうな笑みを初めて見た。
泣きたいなら、泣けよ。
無性に、腹立たしく.......同時に何故か、苦しいと寛貴は思った。
京子達は文崇の言葉に、「え?」と混乱した顔をした。
「.......けれど今、律を苦しめた人物がまた律を襲うかもしれなくなって、私は急遽律の元へ戻ってきました。なので、ここからがお願いしたい内容なのですが.......」
文崇の台詞に、京子達もそれ以上は聞けず渋々といった様子で「はい」と返事をしていた。
「.......この先、私が律を守れる存在になれる事はきっと無いんです。けれど私は律の親として、どんな事をしてでも守ります。それと同時に.......私"たち"が居なくなる以外、律の本当の平穏と幸せは来ません」
「宮村さん.......?何を仰ろうとしているんですか?」
焦った孝の声が、会話が嫌でも聞こえてしまう寛貴の不安を駆り立てる。
.......本当に、何を言おうとしているんだ、この人は。
バクバクと心臓が鳴る。
他人の事なのにこんなにも、.......不安だと思ってしまう。
律さんは今、自分の父親がこんな顔をしているだなんて知らないだろう。
.......知らないままで、良いのだろうか。
「大丈夫です。私は律が成人するまでは駆けつけられる所にはおりますから」
京子達を安心させるためなのか、にっこり笑う文崇。
「いや.......」
孝も何か言おうと口を開いたけれど、言葉は出ていなかった。
「だからこの先律に何かあった時、律の味方をしてくれる大人になってくださいませんでしょうか」
どうして自分には出来ない、と言うんだ。
細かい事情が分からないから、口出しもできない。
きっと父さんも母さんもそんな状況なんだろうな。
普通ならいきなり現れた他人からのお願いなんて、「はあ?」と一蹴して終わりだろう。
普通の人なら。
「……分かりました。私達でよろしければいついかなる時も律くんの味方です」
孝の意思の強い言葉に、文崇はこれまでに無いくらいぱあっと顔を明るくして、「ありがとうございます.......!!」と頭を下げた。
「けど宮村さん」
ぴしり、と孝が文崇の名を呼ぶ。
孝は立ち上がり、座る文崇の横に行きしゃがんで目線を低くした。
「私たちは同時に、宮村さんの味方でもあります。過去に何があったか私達には分からないけれど、律くんが苦しんだのと同時に、アナタも苦しかったのでしょう?」
孝の低く優しい声が、驚いた彼の瞳から涙を零させるのだろうか。
文崇は静かにぽろぽろと涙を零す。
.......そうか、そう言えば親戚も居なかったって言っていたな。
「ずっと一人で、頑張ってきたんですね宮村さん」
甘やかすような、労る言葉が一層文崇の涙を誘発する。
相変わらず、他人に甘いな父さんは。
「.......っ、すみません.......すぐ、とめます.......っ」
顔を手で覆い、体を震わせて必死に呼吸をする文崇が痛々しくて、むず痒くて寛貴は思わず立ち上がった。
文崇の元へ行き、「寛貴?」と驚く京子を無視して、コトンと皿を置いた。
「.......ひろき、くん.......?」
グズグズに泣いている文崇を見下ろし、言った。
「.......親父達は、味方になるだけ。だから、アンタが律さんから離れるための材料としてなんか、使ったりするなよ」
目を丸くした文崇は、一層顔を歪めて泣いてしまった。
.......あれ、泣かせるつもりじゃなかったんだけど。
「お前、イケメンになったなぁ寛貴」
ニヤリと笑う孝にイラッとして「これ!」と強く文崇に押し付けた。
「食べたかったんでしょ」
いちごのタルトと、ミルクレープ、ショートケーキの一口サイズをそれぞれ乗せた皿を見て、文崇はぽろぽろ涙を零しながらまた、俺を見上げて言ってくれた。
「ありがとう、寛貴くん。嬉しい」
.......もっと笑えばいいのに。
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