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3 3回目
12 女神像
しおりを挟む朝から大忙しだ。
卒業して、結婚してそして今…肉を口に頬張りリスのごとく頬を膨らませて、口の回りを肉汁で、てかてかにしている。
[もうすぐ始まるよ。]
[もう、お口を拭いて。]
私たちは、口を拭いて促された方を見る。
なんだか、騒がしい。
「はぁ?何をおっしゃてるのか、わかっておりますか?」
「わかってるからーいってるんだ!」
「わかって、いないわね。」
[あれは、侯爵の次男と伯爵の長女。]
[伯爵の長女は、彼をお婿さんにもらうんだよ。]
[彼女は、優秀でとても素敵な方よ。流通についてイロイロ教えていただいたもの。]
フロアの端ではあるが、大きな声で言い合ってれば、目に留まる。
「婚約やめたいんだ!」
「あぁ、そうですか。」
伯爵の長女は、広げていた扇子をパシッと閉じてそういった。
「おう!」
「わかりましたわ、こちらにサインをしてください。」手招きすると執事は、いくつかの書類とペンをトレイに乗せて持ってきた。
「さぁ、こちらにサインを。そちらからの申し出の時の条件のこちらの書類にもサインを、それからもろもろですね。あと…一番大切なこちら。うふふ。」
[なんだか、嬉しそうね。]
[あまり好きじゃなかったんじゃない?]
[まぁ、みてて。]
伯爵の長女の執事が、侯爵次男にペンを渡す。
次男は、ペンをジーっと見つめてこう言った。
「本当に辞めちゃう?」
「あなたからの申し出でしょう?さぁ、早くサインしてください。書類は、私が手続きいたします。それから、もう婚約者でなくなるのですから、我が領にある小屋は、片付けます。」
「えっ、そこはいいでしょ?」
「ダメ!貴方の物を侯爵家に運ぶように指示しますから、あちらでどうにかしてください。」
「だって破棄しないと出来ないでしょ?」
「何度も何度も…もう、いいでしょ。サインして。」
と、伯爵長女が促す。
[自ら、言い出したことなのに…。]
[なんだか、嫌そうね。サインするの。]
ジーっと、サインをするのかと見つめていると、一言。
「あなたは、それにサインをすれば自由よ。ただ、来ちゃダメだし、自分で統べてやらなくてはいけないのよ。」
「だって…お婿さんになったら…。」
「何度も言っているでしょ?婿に来ればあの小屋は、自由に使っていいって。領の事も我が家の仕事もすべて私がおこなうし…あの時の約束を守り続けるわ。」
「…。」
伯爵の長女は、扇子で手をぱしぱしと叩きながら諭すように言う。
「義兄様に言われたことなんて、気にすることないのよ。だって、伴侶になる私が、良いっていってるのだから。」
「だけど…婿にいったからには仕事しないと行けないって、男として…。」
「面倒だわね。だから、早くサインして好きにしなさい。ただ、自分だけでやっていくのは、大変よ。」
[何かしたいことがあるの?]
[しているんだよ。]
[そう、彼女はそれのサポートをしているのだけど、婿としての心得的なのを親や兄様がずーっと彼に説くから…。]
[あぁ、なるほど。]
「もう、サインするの?しないの?私は結婚したいわよ。」
『おぉぉぉ。』
そば耳立てていた、周りの者達の声がもれる。
「俺もしたい…けど…。」
「じゃぁしましょ。私が守ってあげるし、幸せにしてあげるわ。」
『おぉぉぉ。』
「じゃぁ、やっていてもいい?」
「いいわ、だからこっちのこことここへサインしなさい。」
「うん。」すらすらっとサインしたら「今すぐ提出してきてちょうだい。」と、執事に渡すと軽く会釈をし出ていった。
[何にサインしたのかしら?]
[すぐにって…。]
「これで、あなたは私の婿だしあの作品も私の物よ。」と、扇子を広げ口許をかくし微笑んだ。
いや、高笑い「おぉ ほほほほほほ。」
「俺も…俺の子たちも…。」
「そうよ、貴方のための商会も立ち上げてあるし、心置きなく作りなさい。」
[商会…。]
[彼、結構名の知れた作家なんだよ。絵や彫刻とか刺繍とかもやってるし…。]
[実家の商会の応接室に飾ってあったよ。]
[…絵かな…あっ…草原の彼女…そよ風が吹いてきそうな絵…。あれ、素敵なのよね。]
[うちもあったかも…山の絵の…あっ、小さな女の子が書いてあったわ。]
[婚約したのは7才。その頃からずーっとサポートしてるらしい。]
伯爵の長女は、侯爵次男に寄り添い呟いた。
侯爵次男は、顔を赤くして頷いた。
[何をはなしてるのかしら。]
[きっと、素敵な話よ。]
4人で微笑んだ。
数年後、彼の個展が開かれ一番目を引いたのが、薄い衣をまとった女神像だった。
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